アナリストによる調査報告の意味

 有名なニュースサイトが最近、米国と欧州の企業がWindows Vistaの導入を控えて、その前バージョンであるWindows XPの使用を継続していると報道した。同じ週、別の有名ニュースサイトはVistaを採用する企業数の爆発的な増加が見込まれているという記事を掲載した。皮肉なことに、どちらの記事もForrester Researchによる同じ調査結果に基づくものだった。ではどちらの記事が正しいのか? 実は、どちらも正しい。

 調査会社が発行する大抵の調査報告書は、何冊にも渡って大量のデータ、図、詳細情報などが盛り込まれたものになっている。一方ニュース記事は通常、そのような報告書の――あらゆるニュアンスではなく――要点のみを取り上げるため、実際には単に違った視点から書かれたというだけの記事同士がお互いに矛盾しているかのように思われる場合もある。しかし幸いにも、出版された報告書から重要な情報を引き出し、アナリストたちの意見を明らかにするための方法がいくつかある。

 当然ながら調査結果をもっとも深く理解するのに最適な方法は、ニュース記事で言及されている調査会社による大元の調査報告書を入手することだ。しかしそれは予算的にできないという場合にも、ITマネージャやCIOには他にも方法がある。調査会社The 451 Groupでオープンソース調査ディレクタを務めるRaven Zachary氏によると、まず最初にすべきことは、調査の主なポイントをまとめてある、報告書の概要やサマリーを見つけることだという。Zachary氏によると「どうしても報告書をすみからすみまで熟読しなければならないわけではない。たいてい最初の数ページにサマリーが書かれていて、報告書全体の内容を凝縮した内容が書かれている。また長い報告書を見ると気が遠くなるという場合にも、サマリーにいくらか目を通しておくだけでも多くの見識を得ることができる」とのことだ。

 Zachary氏はさらに、忙しくて報告書全体を読む暇がないという場合には重要なポイントを視覚的に表現したグラフや概略や裏付けのためのデータ類をざっと見ることを勧めた。また同様に、調査についてのプレスリリースを読むことも推奨した。そのようなプレスリリースは通常は調査会社のウェブサイトで見ることができる。

 調査会社Forresterで上級アナリストを務めるKevin Lucas氏は、直接アナリストから話を聞くのが最良の方法だとしている。「ウェブサイトで『アナリストに質問する』というサービスを提供している調査会社もある。……ゲストとして報告書を閲覧――場合によっては簡単な質問も――できるようにしている調査会社まである。このようなサービスを利用すれば、調査会社の顧客になればどのようなサービスを受けられるのかというイメージが掴めるだろう」。Lucas氏によるとこれらの方法は、報告書についてのマスコミによる解釈に疑問を感じた場合や「アナリストが本当に考えていることを明らかにしたい場合や報告書の意見や洞察を実際に自社の役に立てたい場合」によく使われているとのことだ。

 Zachary氏はアナリストとの一対一の電話という方法も優れていると考えているが、そのようなサービスにはコスト的な問題から手を出さない企業もあるだろうとした。またZachary氏もLucas氏も推奨した方法として、業界向けのコンファレンスでアナリストをつかまえて短時間話すという方法や、アナリストによる講演の後に簡潔な質問を一つ二つするという方法があった。

価値はあるのか?

 アナリストを追い掛けて意見を聞くというのは時間もかかり勇気もいることかもしれないが、客観的かつ専門的な彼らのアドバイスには――特に、それによってITマネージャが特定のテーマについての大量の情報を収集/整理/解釈するための時間を節約することができることを考慮すると――ほぼ必ずその価値はあるだろう。

 Lucas氏によると「アナリストは、製品や技術のユーザやサプライヤからの幅広いフィードバックを得たうえで、何が有効で何がそうではないのか、また何が簡単で何が難しいことなのかをまとめている――どのようなCIOであっても個人的な知人関係からだけでは、アナリストたちが行なっているほど幅広いフィードバックを収集することは不可能だろう」とのことだ。したがってアナリストから話を聞くということは新規プロジェクトの議論を現実的なものとするために非常に役に立つことであり、また、内部的な支持者や製品を売り込みたいベンダーによって新規プロジェクトに持ち込まれることのある、根拠が認められないような誇大宣伝について、評価したり必要に応じてバランスを取ったりするためにも非常に役に立つのだという。

 Lucas氏はさらに次のように述べた。「アナリストの見解は、何が有効で何がそうでないかを技術ユーザから聞いたことを元にして形成されている。つまりそのような見解はある意味、技術を直接的に体験した非常に多くの人々に成り代わって述べられたものとも言えるだろう。そのように幅広い体験から形成された見解は、とりわけこれからその技術の導入に初めて取り組もうとしている人々にとっては極めて価値が高い」。

 Zachary氏も同じ意見だ。「アナリストの仕事は、常に考えることと、今後の動向に注目することだ。調査会社は、興味の対象に情熱を傾けていて、優れた記事を書き、コミュニケーション能力が高く、分析的な思考ができる人々をアナリストとして雇う傾向がある。われわれアナリストは週に40時間以上も業界に集中して注目し続けているので、考えに考えた上で予測を行なうことができる。同じことを行なう時間はIT業界の並の事情通には確保できないだろう」。

 ただしZachary氏は「業界には、優れたアナリストになることのできる能力を持ちつつ、業界内で別の役割を担っている優秀な人々も数多くいる。当然ながら、アナリストたちだけが優れた洞察力を持っているわけではない」と付け加えた。

アナリストとの関係を築く

 ほとんどの人はメディアを通してアナリストたちの見解に触れるが、あなたの会社が調査会社と直接契約をしたいという場合には、いくつかの点に留意しておこう。まず調査会社に問い合わせる際には、アナリストがあるテーマについての結論をどのように導き出すのかについて聞いてみよう。Lucas氏によると「結論を導き出すのに、調査結果からだけでなく、調査対象の分野で実際に働いたことのある自らの経験を交えるアナリストもいる」という。

 しかしその一方で「そのように業界内の一社か二社での経験を織り混ぜてしまうと必ずしも業界全体を表わしているとは言えない可能性のある結論を導いてしまう恐れがあるため、そのような業界での過去の経験を交えることに対して慎重な調査会社もある。そのような調査会社は、調査結果のみに基づいて議論した方が――すなわち、少数の深い実体験を交えるよりも、数多くの企業に等しく基づいた見解を得る方が――より広く応用可能な報告を作成することができると考えている。CIOにとってはどちらのやり方にも利点があるため、複数のアナリストと契約することによって様々なタイプのアナリストたちを活用しているCIOも実際には多い」。

 またZachary氏は、同じ調査会社に属しているアナリスト同士が正反対の見解を示しているようなことがあっても驚くことではないとする。「異なる見解を示すこともあるだろうが、問題はない。調査会社はアナリストの(能力的な)個性を重視していて、すべてのアナリストが同じ予測をすることを期待してはいない。その理由は、アナリストによってアプローチや考え方が異なるためだ」。

 さらにZachary氏は、客観的なアドバイスを確実に得られるようにするために、調査会社に倫理規範が設置されているかどうかも確認するべきだと付け加えた。

 結局のところアナリストたちは、ITマネージャが適切な見解を持ち優れた決断を行なうことを手助けするために存在しているのだ。「世の中には頭の良い人々がたくさんいる。調査会社はそのような人々を見つけ出して予測を行なわせるという商売をしている。われわれ調査会社の価値はそこにある。われわれ以外の人々にも同じ情報を見つけることはまったく同様に可能だが、われわれは市場を予測するということに長けている。われわれ調査会社と一緒に仕事をすることによってクライアントは、必要に応じて専門的な知見を補うことができるようになる」。

ITManagersJournal.com 原文