カレンダー表示を採り入れたファイルマネージャNemo

  Nemo はファイルマネージャに新たなパラダイムをもたらす最新の取り組みだ。そのアプローチは、少なくとも最初の初期開発版では、ファイルマネージャをカレンダー表示と組み合わせる、というものになっている。だが、そうしたやり方にスケーラビリティがあるのか、また、従来のファイルマネージャを進化させたものと呼べるのか、それともまったくの別物なのか、といった疑問が残る。

 BeagleTrackerと同様、Nemoは、初心者ユーザにとって階層フォルダ構造はわかりにくいという考え方から生まれた。NemoをGNU劣等一般公衆利用許諾契約書(LGPL:Lesser General Public License)の下でリリースしたのはiolaという会社で、創設者の1人Ole Laursen氏はブログにこう記している。「多くの初心者は、階層フォルダ構造を理解しづらいものと捉えている。その操作や管理は普通にコンピュータを使える人々にとってもそれほど容易ではない。どのフォルダに何を入れたかを覚えておくのは面倒だ。だから、できることならファイルをフォルダに分けずに済ませたい、と人々は思っている」。Nemoの目的は、ほかの類似ツールと同じで、この問題をよりシンプルな形で解決することだ。

 Nemoのアルファ版であるバージョン0.1はソースコードのtarファイル、Ubuntu用リポジトリ(/etc/apt/sources.listに追加してから「apt-get update」を使用)、Debianパッケージとして入手できる。ソースコードまたはDebianパッケージを利用する場合は、そのままでは依存関係が解決されないので、事前にTrackerの不安定版とMonoをインストールしておく必要がある。開発者によれば、今後のバージョンでは任意のファイルインデクサとの連携が可能になるそうだが、今回のリリースはTrackerとしか連携しない。

 初めてNemoを実行すると、ホームディレクトリの初期スキャンが行われる。ファイルが何ギガバイト分もあると、処理に20~30分かかる。また、小容量の/tmpパーティションを別に用意している場合は、さらに時間がかかる。Nemoはこのパーティションに何度もアクセスするためだ。

 今回の初回リリース版で利用できるのは検索機能だけで、ほかの機能(ファイルの削除やリネームなど)はまだ実装されていない。ファイルの検索には、ファイル名、MIMEタイプ、保存済み検索パターンが使える。検索結果は、ファイルの最終保存日別にカレンダー上に表示される。大半のカレンダーと同様、Nemoにも日、週、月、年の各表示画面があり、カーソルキーで表示の切り替えができる。

 こうしたデザインにはいくつかの利点がある。ディレクトリのツリー構造といった抽象的な概念を理解する必要がなく、そのシンプルさゆえに大部分のユーザはほとんど悩まずに使い方を理解できる。さらに重要なのが、検索結果を小さな単位に分割できるという利点であり、結果として参照が容易になる。

 しかし、大量の検索結果の表示という問題が解決されているかといえば、そうでもない。カレンダーの表示単位を小さくすることで検索結果の表示件数を減らせるので、ほかの大半のファイルマネージャよりもうまく対処できているのは確かだ。だが、日表示の画面にしてもスペース内に検索結果を表示し切れない場合は、ビューそのものを拡大するしかない。そうなると、ほかの日の検索結果が見えなくなり、通常のカレンダー表示による効果が損なわれてしまう。この制約により、主としてNemoは、1日に何十件もファイルを開いたり閉じたりしない人に向いている。

 また、そうしたスケーリングの問題が解決できたとしても、熟練ユーザは、慣れ親しんだディレクトリツリーの代わりがNemoに勤まるかどうかについて疑問を抱くだろう。ディレクトリツリーの操作を習得する煩わしさからユーザを解放しようとするのは、ワープロのユーザにスタイルの概念を教えずに手動での書式設定だけを使わせるようなものだ、といった反論も聞こえてきそうだ。両方を使うこともできるが、中途半端な使い方しか身につかないだろう。

 フォルダを使ってファイルを整理できるようになれば、NemoやBeagleのようなツールは必要ないはずだ。そもそも、ディレクトリ階層の概念は5分かけても習得できないほど初心者にとって難解なものなのだろうか(しかも初心者の数は確実に減りつつある)。それにこの概念は、コンピュータ文化の一部としてあまりにも大きな存在になっているため、おそらく捨て去ることはできないだろう。

 また昔を知る人々は、グラフィカルな面で洗練されているとはいえ、果たしてNemoが「ls -c -l」コマンドの進化したものといえるだろうか、という点に疑問を抱くかもしれない。

 当たり前のことを見直そうとするすべての試みと同様、Nemoには従来のやり方を再検討する取り組みというだけでも価値がある。少なくとも、既存のファイルマネージャが時間的な属性をいかに活用できていないかを示す好例といえる。おそらく今後のリリースでは、デスクトップユーザが忘れていた(あるいは最初から知らなかった)その他のファイル属性もうまく利用されることだろう。そうなれば、また違った用途が出てくるはずだ。だが今のところは、その革新的な取り組みにもかかわらず、Nemoはディレクトリツリー指向のファイルマネージャの補完的な存在でしかなく、独立した代替ツールになることはなさそうだ。

Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文