オフィス対決:OpenOffice.org Calc対Microsoft Excel
今回、2日間にわたってOOo CalcとMicrosoft Excelとで書式設定、リスト作成、数式、各種ツールの各機能を評価した。表計算ソフトに関するユーザの専門知識の範囲はプレゼンテーションソフト、さらにはワープロソフトの場合よりもずっと広いため、両プログラムの評価は主として家庭またはビジネスで表計算シートを必要とする平均的ユーザの観点から実施した。
セル、シート、ページの書式設定
セルの書式設定機能はCalcとExcelの両者で非常によく似ており、タブの並び順まで一致している。オプションの主な違いは、数値の書式設定にある。Excelには電話番号、社会保障番号、郵便番号用に特別なカテゴリが用意されており、一方のCalcにはブール値のほか、10進数の小数点以下の桁、先頭のゼロ、マイナス値の赤色表示、千単位の桁区切りといったExcelではリボン内のExcelボタンに押しやられた各種設定が存在する。また、Calcにはセル内のテキストラップ用のオプションだけでなくハイフネーションのオプションも用意されている。これらは、基本的に表計算ソフトをリスト作成に使う人に役立つだろう。それ以外の書式、フォント、罫線、背景、保護といった部分については、両者のセル書式設定オプションはほとんど同じで、せいぜい名前に違いがあるくらいだ。
どちらのプログラムにもシート全体の外観を定めたテーマが含まれているほか、シートの左上隅をクリックして全セルを選択したうえで書式の変更が行える点も同じである。また、もともとオンライン文書用に作られたシートを印刷用紙のサイズに合わせる調整オプションなど、印刷のページ設定もよく似ている。
ただ、類似しているとはいえ、セルとページをスタイルとして扱えるCalcはExcelよりも便利であるだけでなく、OpenOffice.orgのほかのプログラムの機能との統一性という点でも優れている。とりわけ「スタイルと書式」のフローティングウィンドウは、外観の調整に殊のほか効果を発揮する。これに比べると、Excelの基本的な書式設定オプション群は、雑然としていて把握しづらい。
また、表、図、画像、テキストアートをシートに挿入する機能は、ExcelとCalcの双方に存在する。こうした追加機能の開発は、一方が新しい機能を加えれば他方もそれに倣うというイタチごっこのように見え、どちらか一方が特に優れているという点はほとんどない。今のところ、書式設定の機能については両者のレベルはほぼ同等といえそうだ。
判定: スタイルをより重視しているという点でCalcの勝ち
リスト作成と並び替え
リスト作成は、表計算ソフトの最も基本的な用途の1つである。CalcもExcelも基本的な機能は同じであり、どちらにも定型情報を自動入力するためのカスタムフィル、新しい知見を得るために情報を再構成するピボットテーブル(Calcの用語では“データパイロット”)といった機能が備わっている。また、両プログラムとも行および列をグループ化しておけば、マウスのワンクリックで表示/非表示を切り替えることができる。ただし、Excelの場合はそうした機能がメニューやツールバーと一体化したリボン内に配置されているため、あらかじめその存在を知っていないと見過ごしてしまいがちだ。
さらに、データの並び替えやフィルタの機能も双方で利用できる。フィルタにはカスタムフィルタとオートフィルタがあり、後者の場合は選択可能なフィルタのドロップダウンリストが列の一番上に現われる。しかし、Excelには、書式や色、セルの内容がその行の平均値と一致するか上回るか下回るかといった条件によってセルを調整できる高度なフィルタという強みがある。
判定:Excelの勝ち
関数と数式
関数は、上級ユーザにとっては表計算ソフトの目玉ともいえる、等式および数式を扱う機能である。以前のバージョンでのCalcとExcelの関数比較(フランス語の記事)では、全関数の8割以上が両プログラムでまったく同じだった。この8割には、平均や中央値など、基本的な算術演算や単純な統計演算で最も多用される関数がすべて含まれる。残り2割の違いを生んでいるのがどちらか一方にしかない機能の存在だが、CalcにあってExcelにない機能はその逆の機能の少なくとも2倍以上はある。この状況は、最新版でも変わっていないようだ。
ExcelとCalcの大きな違いは、関数の挿入方法にある。どちらのプログラムにも、編集画面の最上部に関数を入力するための関数バーが用意されており、これを使うと関数の一覧が表示される。Excelの関数一覧には便利な検索フィールドが付いていて、必要に応じて自然言語クエリによる検索が行える。ただし、目当ての関数がうまく見つかるとは限らない。また、Excelの場合は、関数の指定が終わってからでないと「関数の引数」ダイアログが表示されない。あるいは、リボンの「数式」タブ上にあるカテゴリ別にわかれたアイコンから関数を選ぶこともできる。ただし、間違ったアイコンをクリックしてしまった場合は別のアイコンに移動できるまでに遅延が生じる。
これに対し、Calcでは関数用のウィザード(関数オートパイロット)が直接開くようになっている。このウィザードではExcelのような検索フィールドが使えるほか、必要なフィールドが常に表示される、セルに関数を挿入する前にエラーを知らせてくれる、複雑な数式を組み立てるユーザにとって貴重な数式構造のツリー表示が行われる、といった点でExcelの「関数の引数」ダイアログよりも優れている。また、Calcにはあまりヘルプを必要としない人向けに、無駄な要素を省いた「関数リスト」も用意されている。
判定: ほとんどのユーザから見ればCalcの勝ち。ただし、Calcにはない特殊な関数を必要とする上級ユーザは、Excelを選ぶかもしれない。
各種ツール
Excelのリボンはほとんどの目的ではうまく機能するのだが、ワークシートへの関数の入力が済んでしまうと、そうした関数との連携ツールの多くがどこにあるかがわかりにくい。Excelの「数式」タブには、「参照元のトレース」および「参照先のトレース」オプションという形でCalcの「トレース」機能に類似したものが存在するが、「ゴールシーク」、「集計」、「数式の検証」といった機能の位置を知るにはおそらくオンラインヘルプの参照が必要になるだろう。実際、こうした機能の場所は、表計算ソフトの熟練ユーザでなければ推測することさえ難しいだろう。Calcの場合はこれらの機能が「ツール」と「データ」の両メニューの間にあるが、やはりその配置は満足のいくものではなく、Excelと同じくらい規則性が感じられない。しかし、そうしたオプションを必要とする上級ユーザにとってはまだなじみのある配置になっていて、新規ユーザでも見つけられるという点でExcelよりはマシかもしれない。
判定:引き分け。機能面ではほとんど互角。ただし、ツール群の配置については、どちらもあまり理に適ったものとはいえない。
最終判定
高度な計算の実行では、ExcelのほうがCalcよりも処理が速い傾向があると聞いたことがある(残念ながら、自分でそれを検証できるほどの知識はない)。しかし、それが事実だとしても、平均的なホームユーザまたはビジネスユーザのニーズを満たせなくなるほどではないだろう。そうしたユーザのほとんどは、高度な物理学や数学を日常的に扱うことはまずないからだ。
どちらのプログラムのユーザであれ、ここで取り上げなかったマイナーな機能を絶対に必要不可欠と見なす人がいる可能性もある。他人からは取るに足らないと思われるような特定のショートカットキーや書式設定オプションであっても、それがその人のワークフローの一部になっていれば、容易にはその機能を手放せないはずだ。
ただし、平均的ユーザから求められがちな大半の機能を見る限りは、CalcとExcelのどちらか一方を選び切れるだけの機能上の理由は見当たらない。OOo WriterはMicrosoft Wordよりも性能面で優れ、Microsoft PowerPointはOOo Impressよりも多機能という状況を、この表計算ソフトの評価結果と合わせて考えても、勝者を明確に決めることはできない。たとえ他方にはない利点があったとしても、それが決定的な要因になることは決してないだろう。よく繰り返される話題の1つは、関数が使いやすくて論理的に配置されているのCalcのほうであり、この利点をもたらしたのはほかでもない、メニューおよびツールバー形式からリボン形式に切り替えたMicrosoft Officeだろう、というものだ。
個々の好みは常に選択の一因になるが、Calcやフリーソフトウェアを選んだからといって機能面で不利益を被ることはないだろう。事実、厳密なニーズの内容にもよるが、そうした選択をして良かったと思えることもあるはずだ。
Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。