Linuxレビュー:ALT Linux――ロシア発のLinuxディストリビューション

 かつての冷戦構造では最終的な勝利を逃したロシアが、ALT Linux Personal Desktop 4.0のリリースをもって、現在繰り広げられているLinux軍拡競争に参戦してきたようである。KDE 3.5.7、OpenOffice.org、Firefoxなどの近代的なインフラストラクチャを装備し、マルチメディア系のサポートも良好なALT Linuxは、既存ディストリビューション群にとって潜在的な脅威となるかもしれない。

 ALT Linuxと名付けられたロシア産Linuxディストリビューションには、各種の用途に合わせた複数バージョンが用意されている。企業カスタマ向けとしては、ALT Linux Ltdによる商用レベルのサポートオプションが提供されているが、個人ユーザおよび小規模オフィス向けのPersonal Desktopであれば無料でダウンロードすることができる。ライセンスに関してはベルヌ条約(Berne Convention for the Protecton of Literary and Artist Works)が適用されているが、その内容自体は基本的にオープンソースライセンスのものと大差ない。またプロプライエタリ系のドライバやバイナリプログラムも一部同梱されているが、これらのライセンスはオリジナルのリリース時のままだ。

 ロシアで開発されたディストリビューションという点で、ALT Linuxの試用に二の足を踏んでいるユーザもいるだろうが、初期画面のF2メニューでは各種の言語オプションが表示されるようになっている。この画面自身はロシア語で表示されるが、「other」を意味する5番目のオプションを選べば、その他の操作画面も含めてすべての表示を英語モードに切り換えることができる。

 これは初期ブート画面を見て気づいたことだが、ALT LinuxはopenSUSEをベースとしているか、少なくともその一部を流用しているようである。openSUSEのブート画面に比べると、明るめで地味な表示に改められてはいるものの、その特長をいくつも引き継いでいるのだ。ここで選択できるブートオプションとしては、Installation、Rescue System、ALT Linux Live CD、Memory Testなどが用意されている。

ライブDVDの実行およびハードドライブへのインストール

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ALT Linux

 今回は最初のテストとして、ライブCDモードでの実行を試してみた。ブート完了までに要した時間は、平均的なKDEデスクトップのものと同程度である。同梱されているアプリケーションの品揃えもバランスが取れており、ハードウェアの対応レベルも平均点といったところだ。

 私が使っているデスクトップマシンの場合、ALT LinuxはグラフィックカードがNvidia製であることは正しく認識できたが、Nvidiaドライバを使用することはできなかった。その代わりに使用されたのが“nv”というXorgドライバである。また少々古めのSound Blaster Live!はそのまま動作し、インターネット接続(skgeモジュールおよびオンボードのMarvell 88E8001を使用)も正常に行われている。最近購入したばかりのEpson R220 USBプリンタは、Manage Printersユーティリティを使うことで2回のクリックで設定できたが、このユーティリティは実質的にCUPSブラウザのインタフェースそのままである。以前より使用しているフラットベッド型Epson 1200u USBスキャナについては、カーネルレベルでは認識されているようだが、ユーザインタフェースに到達する過程の途中で見失われているようであり、対応するデバイスが表示されず、手作業によるセットアップも功を奏しなかった。

 次に試したのはHP Pavilion dv6105ラップトップマシンで、この場合ALT Linuxは、グラフィックチップがNvidia製であることを正しく認識した上でNvidiaドライバを使用し、適切な解像度での表示をすることができた。tv-outの設定も、Nvidia Settingsユーティリティを介することでスムースに行えている。タッチパッドについても、そのまま正常に使用できる状態になってくれた。サウンド関係も問題なく動作しており、ヘッドホンとスピーカ双方で出力を確認している。無線Ethernetチップを動作させるにはWindows用ドライバを必要とするのに、ライブCDモードではNdiswrapperが同梱されていなかったが、ディスク上にRPMが用意されていたため、手動操作でインストールすることができた。

 次に試験した項目は、インストーラの動作状況である。ライブCDでの実行環境にはインストーラ用アイコンは用意されていないので、この場合は一度リブートさせて、インストール用プログラムを別途実行させなければならない。ここでもopenSUSEのインストーラをベースにしていることを示す特徴がいくつか認められたが、こちらのインストーラはコンパクト化を施すことで、ある意味、よりユーザフレンドリなものに仕上がっている。各種の設定は、操作性に優れたグラフィカルインタフェースを通じて行うことができる。最初のステップは、言語の選択、ライセンスの承認、地域とタイムゾーンの設定、日付と時刻の表示法の指定である。次のステップでは、インストール用パーティションを設定する。この処理では、ディスク全体を使用させる(オートパーティショニング)、空きスペースを使用させる、カスタムパーティショニングをユーザ指定するのいずれかを実行できる。その後のベースシステムのインストールに要した時間は、10分程度であった。次に、ブートローダ(MBRまたはrootパーティションに配置可能)、rootパスワード、ユーザアカウントを設定する。その次に行うのが、オフィススィート、通信、マルチメディアなど、追加すべきパッケージのカテゴリ選択となる。最後に、ネットワークおよびディスプレイ関係の設定をして終わりである。全体的なインストール手順は簡単なものであり、私の場合はトラブルフリーで進行した。

システムの構成

 ハードドライブへのインストールをすることで、デスクトップの構成に特に変化はなかったが、メニューからアクセス可能なソフトウェアの数が増えていた。私の場合、先にすべてのカテゴリを選択していたので、これだけの数になったようである。

 今回最初に気づいた問題点は、サウンド再生ができなかったことである。その原因は、HDAモジュールが使えないことであった。Synaptic上にはALSAカーネルモジュールパッケージもリストアップされているのだが、実際にはインストールされないのである。これはコマンドラインからのインストールを試みた際に気づいたのだが、どうもこのパッケージは破損しているようであり、通常のあるべきサイズになっていなかった。こうした場合の一番お手軽なソリューションは、ソースとしてのCD-ROMを無効化して、ミラーグループの1つを指定してから再インストールを試みることである。その後modprobeを用いて必要なドライバを設定するとサウンド再生ができるようになり、リブート後に問題が再発することもなかった。

 先に触れたNdiswrapperについては、ハードドライブへのインストール後に利用可能となっており、コマンドライン操作によってWPA(Wi-Fi Protected Access)とdhcpcdを介したルータ接続が行えた。なお、必要なドライバのNdiswrapperによる抽出後、ブート時にNdiswrapperモジュールを自動的に読み込ませるようにしておき、/etc/wpa_supplicant.confファイルに必要な設定変更を施しておくと、System Management Center(ALTerator)によってブート時の自動接続を実行させることができる。ただし私の場合、SMCを介したwpa_supplicantのセットアップには失敗している。

 バッテリ寿命の延長と発熱を抑えるためのCPUスケーリング機能は、搭載プロセッサ用のpowernow-k8モジュールの読み込み後、Konsoleから「echo on-demand > /sys/devices/system/cpu/cpu0/cpufreq/scaling/governor」コマンドを実行することで使用できるようになった。その他の省電力オプションは、システムトレイに用意されているKPowersaveアプレットからアクセスできる。スクリーン制御用プロファイルは正常に動作し、外部電源を切断するとバックライトの光度が落とされるようになった。特に印象深かったのは、見事なまでに動作したRAMおよびディスクへのサスペンド機能である。RAMへのサスペンド機能(STR:Suspend to RAM)を利用すると、ごく短時間でサスペンドのオンとオフが切り換えられるが、ディスクへのサスペンド機能(STD:Suspend to Disk)では、データの書き込みや取り出し作業を要する分だけ切り換え時間が若干長くなる。いずれにせよこのディストリビューションの省電力機能は、非常に満足できるレベルに仕上がっていると評していいだろう。

 ALT Linuxが優れているのは、リムーバブルメディアの取り扱いについても同様である。ディスクにしろUSBスティックにしろ、マシン本体に挿入すると自動的にKDEダイアログボックスが表示され、収録内容をそのまま新規ウィンドウ上に開くことができる。それと同時に、メディア取り外し処理のアイコンもデスクトップに表示される。

 メニューの構成は、統合型のテキスト検索エリアが組み込まれているという点で以前のopenSUSEメニューを彷彿とさせるものがあるが、この機能はopenSUSEでもそうであったように、使って便利な機能の1つである。メニューの収録アイテムは、各種のアプリケーションとユーティリティとでスシ詰め状態と評していいだろう。ALT Linuxには、フル装備のKDEスィートに加えて、KPlatoやKMyMoneyなどのKアプリケーションがいくつか同梱されている。そして誰もが期待するであろう、Firefox、Thunderbird、OpenOffice.org、GIMPといったメジャーなアプリケーション群は当然装備されており、Audacity、AmaroK、Inkscapeなどのアミューズメント系ソフトも充実している。その上、PP Racer、Panorama Stitcher、Blender、Twinkle、Jahshakaなど、この種のパッケージとしてはあまりお目にかからないアプリケーションもインストールされるのだ。またALT Linuxの場合はBerylも同梱されており、メニュー中にBeryl Managerが用意されてはいるものの、実際には使用できなかった。これはおそらく、私のラップトップマシンで使える512MBの共有RAMでは不足していたのだろう。なおALT Linuxで使われている基本コンポーネントは、Linux 2.6.18、Xorg 7.3.0、GCC 4.1.1という構成である。

 アプリケーション群の実行に関しては、特に報告すべきトラブルには遭遇しなかった。マルチメディア系のサポート状況は良好で、AVI、MP3、MPEG-4ファイルに関してはALT Linux上でそのまま再生できる。ただしインストールされるプラグインはFlashだけなので、Google Video、Gamespot、YouTubeの動画再生は問題ないが、その他のストリーミング系メディアやApple.comで公開されている映画予告ムービは再生できない。またJavaScriptは正常に動作するが、Javaは実行できなかった。

 ALT Linuxのパッケージフォーマットは、openSUSEと同様にRPM形式が採用されているが、PCLinuxOSと同様のSynapticやapt-getによるインストールにも対応している。実際、破損していたALSAのRPMを始め、SynapticとALT Linuxミラーの組み合わせにより各種のパッケージをインストールしてみたが、その作業はいずれもトラブルフリーで進行した。

 アップデート作業については、SynapticおよびSystem Management Centerから実行できる。System Management Centerの完成度は、Mandriva Control CenterやopenSUSEのYast Control Centerに比べると今一歩といったところだが、このユーティリティは通常のGUIアプリケーションだけでなくブラウザ形式アプリケーションの形態でも利用できるようになっている。ブラウザ形式アプリケーションは、GUIバージョンで行えるすべての処理に加えて若干の機能追加が施されている。ここで指定できるのは、アップデートソース、ユーザアカウント、ネットワークおよびIPインタフェース、画面およびキーボード、NTPサーバ、その他の設定オプションである。このうち、アップデートとキーボードの設定に関してはトラブルに遭遇した。具体的には、1つのアップデートが利用可能であると表示されたのに、それを実行するとエラーとなったのである。またボリュームボタンを機能させるために、該当するキーボードを選択したら、キーボードそのものが認識されなくなってしまった。オリジナルの設定に復帰させてはみたが、その後もKDMでのキーボードは使用できないままである。

まとめ

 ALT Linuxの使用を勧めるとしたら、以前にある程度Linuxを使用した経験のあるユーザか、対応状況が良好なハードウェアの所有者という条件が付くことになる。また、私が今回試したシステムはどちらも完全なトラブルフリーとはいかなかったが、ALT Linuxの示した完成度の高いサスペンド機能は高く評価しておくべきだろう。当然ながらドキュメント類はどれもロシア語で記述されているが、Linuxの基本知識があればたいていの機能は使いこなせるはずである。安定して動作するシステムは平均的なパフォーマンスを発揮でき、目に優しいデザインのフォントでまとめられた画面は魅力的な外観と評していいだろう。私が必要とする好みのアプリケーションは、すべて事前にインストールされるか、後からインストールできるようになっている。

 私個人としてはALT Linuxをかなり気に入ったし、手堅くまとまった構成になっていると評価している。また多様な地域から独自のディストリビューションが登場するのは、それだけで喜ばしい話だとも言えよう。可能であれば、実際に多くのユーザに試してもらいたいところである。

長所:

  • 興味深くかつバランスの取れたアプリケーション群の品揃え
  • 落ち着いた雰囲気で控えめな外観
  • ユーザフレンドリなインストーラ
  • 適度なマルチメディアサポート
  • 豊富な機能が装備されたSMC
  • ライブCD(DVD)モードのサポート
  • Synapticの装備
  • プロプライエタリ系グラフィックドライバの同梱
  • 操作性に優れたグラフィカルメニューと、英語表示オプションの装備

短所:

  • アップデート機能の不備
  • 一部のメジャーなブラウザ用プラグインの不在
  • 付属ドキュメントはロシア語かウクライナ語のみ
  • 設定の一部においてコマンドライン操作が必要

Linux.com 原文