GNU/Linuxで利用可能なLightScribe対応ディスクラベラー
LightScribeテクノロジそのものは数年前から存在しているが、これを使ったラベル印刷をするディスクおよびドライブについては専用の製品が必要となる。こうしたものは地域差が激しいであろうが、私の住んでいる地域で売られているLightScribe対応ドライブの価格はノーマル型の70%増しが相場である。同じくLightScribe対応のCDやDVDのメディア単価は、平均して30から40%増しといったところである。これもまた私の住んでいる地域限定の話かもしれないが、HPおよびLaCie製ドライブはたいていの量販店の店頭に並んでいるものの、VerbatimのLightScribe対応CDおよびDVDは陳列棚の最上段に追いやられており、他の通常製品の陰に半ば隠されているのが現状だ。
LightScribe対応メディアでは、ディスクの片面にラベル印刷用の感光剤がコーティングされている。ラベル印刷時にはこの面を下側にしてLightScribe対応ドライブに挿入し、赤外線レーザにより刻印を施すという仕組みだ。その原理上、こうしたLightScribeによるラベル印刷は黒の明暗を付けて表現されるだけであり、これを金色ベースのディスクの地色をバックに透かしてみる形になるので、絵柄によっては少々不気味な雰囲気を醸し出すことがあるのも否めない。昨年12月からは印刷カラーを赤、橙、黄、青、緑としたディスクも販売され始めたが、少なくとも私の見聞きした限りにおいて、あまり店頭には出回っていないようだ。
LightScribeテクノロジについては、これを実際に目にしたことのある人間の絶対数が少ないため、各種の誤解が蔓延しているようである。その1つが、GNU/Linuxでは新規に登場したカラーをサポートしていないという噂である。この件について、LightScribeのマーケティングマネージャを務めるKent Henscheid氏は、根も葉もない噂だとしている。また同氏が訴えているのが、印刷後のLightScribeラベルは9カ月もすると消えてしまうと書かれていたWikipediaの記事も間違いだということだ。多少の退色は起こる可能性はあるが20年間くらいは保つはずであり、先の9カ月というのは未開封時におけるLightScribeディスクの品質保持期限の数字だとのことである。
LightScribeラベラーのインストール
LaCie製の4LにしろLightScribe製のSimple Labelerにしろ、これらを使用するには2.6カーネル(LaCieの指定では2.6.17以降)および、LightScribe System Software(あるいはLaCie側のHost Software)が必要である。こうしたシステムソフトウェアのインストールはラベラー用ソフトウェアの前に行っておかないと、依存関係上のトラブルが発生する。なおこれら2種類のラベラーを比較試用する場合、ホストとなる両バージョンのLightScribeシステムソフトウェアは同時にインストールできないので注意が必要だ。もっとも、システムソフトウェアがどちらのバージョンであっても、ラベラー本体は両方とも正常に動作する。またLightScribe側のソフトウェア設計者であるDavid Pettigrew氏によると、毎月更新されるLightScribeのサイトとLaCieサイトに置かれているものでは、後者の方が古いバージョンとなっているそうだ。
ラベラーの入手に関しては、どちらもRPMパッケージが利用できる。これらパッケージに対するテストは、LightScribe側がSUSE 9.xおよび10で、LaCie側がMandriva 2006、Fedora Core 5、SUSE 10、Ubuntuでの検証が行われているそうだ。またFedora 7については両方とも利用できる。その他LightScribeのプレリリースリポジトリには、UbuntuおよびDebian用にDEBフォーマットのラベラーおよびLightScribe Systemソフトウェアが用意されている。
LightScribeから提供されているGNU/Linux版のSimple Labelerに装備されているのは基本機能だけであり、この点Windows版ソフトでは、焼き込み時のコントラスト調整やシステム情報の確認に対応したコントロールパネルが利用できるのとは対照的だ。ただしコントラスト調整については、プレリリースリポジトリにGNU/Linux用のツールが用意されている。またLightScribeからはLinux版Software Development Kit(SDK)が提供されているが、Windows版では診断機能およびアンインストール用ユーティリティが付けられており、15日間有効なSurething Labelerのトライアルバージョンも同梱されている。その他、LightScribeはJPEGフォーマットで構成されたLabel Galleryを用意しているが、どのプラットフォーム版にしろSimple Labelerでの追加や利用はできないようである。
一方のLaCieが提供する4Lは、WindowsおよびMac OS X版と機能的に等価なものに仕上がっており、PDFフォーマットの操作マニュアルまで同梱されている。
これは私も体験したトラブルだが、これらのソフトウェアでLightScribe対応ドライブを認識できなかった場合は、設定ファイル/etc/lightscribe.rcの末尾に下記の行を追加してみることをお勧めする。
DriveEnumeration=false; CDROMDevicePath=ドライブパス;
LightScribeソフトウェアの完成度の比較
LightScribe版のSimple Labelerは、その名が示唆する通りの機能しか装備していない。Simple Labelerで印刷できる円形のラベルでは、ディスクの上部と下部にテキストを配置する他に、オプションの境界線が追加できるようになっているが、ユーザが行える設定の変更は、テキストの文字列を除くと、フォントの指定(サイズ変更は不可)と数種類しか選択肢のない境界線だけなのだ。実際、このソフトを使う最大のメリットは2~4分で完了する比較的高速な焼き込み時間ということになるだろう。逆に言うと、Simple Labelerを使用する上で遭遇するであろうトラブルはほとんどなく、あえて挙げるなら/optのサブディレクトリにインストールされる実行ファイルの位置がわかりにくいことぐらいである。
一方のLaCieから提供されている4Lには、より多数のオプションが用意されている。4LのGUIバージョンを起動させるには4L-gui
というコマンドを実行すればよく(そのインストール先はSimple Labellerとは対照的に通常利用する/usr/binである)、また、BMP、PNG、JPEG、GIFフォーマットで画像をインポートすることもできる。その他4Lの設定ウィンドウでは、こうした画像をディスクテンプレート上のどこに配置するかの指定および、タイトルや収録内容を記述する箇所の背景を白抜き表示する機能が用意されている。もっともこうしたオプションは無理をして使う必要はなく、OpenOffice.orgやGIMPなどのプログラムを利用すれば、タイトルや収録内容を書き込んだディスクテンプレートを基にしてより本格的なラベル用の画像を用意することも可能であり、そもそもLightScribeはそうした見栄えのいいラベル印刷をするために開発されたもののはずである。フルサイズのラベルを使用する場合は、LightScribeの対応ドライブの書き込み速度にもよるが、印刷完了までに20から30分は要すると覚悟しておけばいいだろう。
LaCie側のパッケージには、4L-cli
というコマンドライン操作形式のラベラーも同梱されている。この4L-cli
は、BMP画像だけしか扱えない点を除けばGUIバージョンと同等の機能を備えており、システム上のLightScribeドライブを一覧する「4L-cli enumerate
」、指定ドライブを開く「4L-cli open ドライブパス
」、ソフトウェアのアップデートを実行する「4L-cli update
」などの管理オプションも利用できる。
将来的な展望
LightScribeはSimple Labelerのリリースを「何が行えるかをデモンストレーションするため」としており、同社のHenscheid氏もこのアプリケーションにおける機能向上は最優先事項ではないとしている。同氏の説明するところによると、LightScribeテクノロジについては最終的な利益を得るための開発と業界標準化を目指した活動とが並行して進められており、どちらを優先するかと言えばライセンス保護につながるテクノロジ開発を重視しているとのことだ。一方の4Lを擁するLaCie側の説明では、ソフトウェア側から直接ラベルを追加する機能などの改善を検討しているとされている。
現状のLightScribeテクノロジは、むしろ必須のテクノロジでないが故に受け入れられているといった面があり、将来的にどの程度普及するかの不透明さは、特にGNU/Linuxにおいて厳しいものがあると見ていいだろう。Pettigrew氏は「Linux開発者の方々には是非とも弊社の提供するSDKを利用して、ラベル印刷用アプリを作成して頂きたいところです」と語っているが、大多数の人間にとってはプロプライエタリ系ライセンスの存在が最大のネックとなっているはずだ。
LightScribeのLinux版については、SDKが自由に使用できる点でWindowsおよびMac OS X版との差別化が図られているが、そのコアテクノロジに関しては依然としてクローズソースとされており、Pettigrew氏の言葉を借りれば“ブラックボックス”としての利用だけしかできない。HPによるこうした方針に関するPettigrew氏の説明は、LightScribeでは「弊社HPが数年がかりで開発したアルゴリズムが使用されており、それは主業務における知的財産と見なされているものです」ということであり、そうしたコードをHPが公開したがらないのに不思議はないということになる。もっとも同氏は「こうした方針に不満を抱いている方がおられるかもしれません」という点を認めている。「LightScribeテクノロジを利用したドライブを開発ないし使用されているプログラマやユーザの数はかなりの数に達しているはずですし、弊社としても使用を求める方々との意見交換を進めているところです」
同様の事情はLightScribeから使用ライセンスを取得しているLaCieなどのサードパーティ系ベンダにも当てはまり、こうしたGNU/Linux製品のソースコードが公開されない原因となっている。
このような制限付きでGNU/Linux用に開発されるLightScribeソフトウェアは、本質的にプロプライエタリ系テクノロジに依存しているという点でフリーライセンスであるとしていいのか非常に微妙な存在となるはずだ。このタイプのラベラーが多数登場した場合に最もあり得るシナリオとしては、現状のAcrobat ReaderやRealPlayerなどのプログラムと同じ扱いになり、多くのユーザに利用はされるが権利問題に敏感なディストリビューションには同梱されない、という形態で普及していくのではないだろうか。
Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿している。