Linuxレビュー:コードベースの変更で新たなエンターテインメント環境に生まれ変わったSupergamer

 Supergamerは、エンターテインメントを主目的に作られゲームに特化したという、かなり風変わりなLinuxディストリビューションである。そして今回VectorLinuxをベースに作り直されたものがSupergamer VLであり、この新規リリースでは、ゲームの追加、コードベースの刷新、ルックアンドフィールの変更が施されている。それではゲームを満載したディストリビューションの実力を検証してみよう。

 今回のリリースに対するtorrentファイルは6月27日に公開されている。このtorrentファイルによるダウンロードは平均的な速度で進行したが、サイズ4.3GBのインストール対応型ライブDVDファイルを落とすには少々厳しいものがあったので、私の場合はOn-Disk.comからディスク版も入手することにした。On-Diskからディスクが到着したのは2日後であり、その後程なくダウンロードも終了している。

 Supergamerには多量のフリー系Linuxゲームが同梱されている他、商用ソフトのデモ版も若干付属されている。このディストリビューションが最初に登場したのは1年ほど前のことである。当時のSupergamerはPCLinuxOS 0.91をベースにしていたが、このバージョンは非常に良好に動作していた。その後セカンドバージョンがリリースされたものの、一部ユーザにとっては致命的なバグが混入していたため、コミュニティでの評価は芳しくなかった。その点を踏まえて今回のサードバージョンでは様々な改善が施されている。

 今回のバージョンではコードベースをVectorLinux 5.8に変更したことを示すため、名称の末尾ではリリース番号の代わりにVLが追加されている。開発サイドの説明によるとVectorLinuxに切り替えたのは、ユーザ側からそうしたリクエストが多く寄せられたためであり、特にPCLinuxOSに不満があったからではないとのことだ。また同様のリクエストに応える形で、現在はSimplyMEPISバージョンの開発に取り組んでいるともされている。こうしたディストリビューションのカバー範囲を積極的に広げているのは、単にユーザからの要望があるからだけではなく、究極的には特定のディストリビューションに依存しないリリースを作成することを視野に入れているとの説明である。現状で各種のLinuxディストリビューションを扱っているのも、知識やノウハウを習得することで、独自のコードベースを構築するための基礎固めをしているとのことだ。開発元はこうした目標に関して、可能であれば2年以内には達成したいと語っている。当座は必要なデータをそろえると同時に、ゲーム実行用プラットフォームとしての各種ディストリビューションの能力を実証する時期という訳だ。

 今回のバージョンにおけるその他の大きな変更点は、デスクトップ環境の切り換えである。KDEからXfce 4の変更は、適切な判断であったと評していいだろう。Xfce 4はフットプリントもかなり小さく、アプリケーションやゲームを実行する余力を大きくしており、消費するリソースも少ないためゲーム実行時のパフォーマンス向上も期待できる。Xfce 4はデスクトップ環境としても優れており、KDEの特徴である操作性に優れたグラフィカルなカスタマイズツールなど一部の機能も備えている。

 デスクトップのルックアンドフィールも今回の変更対象の1つだ。レッド、マルーン、オレンジのエレメントを守護しつつ雄叫びを挙げるドラゴンを配した画面は、これから始まる仮想世界でのアクションを予感させる作りになっている。

 Supergamerはゲームを楽しむためのディストリビューションではあるが、メインのオペレーティングシステムとして使うのに必要なアプリケーション群も同梱されている。実務系アプリケーションとしては、Adie、Orage、FOX Calculator、Gnumeric、J-Pilot、X Calculator、XPDFが用意されている。ネットワーク系アプリケーションとしては、Chestnut Dialer、D4X、Firefox、GFTP、Grsysnc、Samba Network、Wifi-Radar、XChatの存在を確認している。マルチメディア系アプリケーションとしては、Graveman、mhWaveEdit、MPlayer、RipperX、x264 encoder、Xine、XMMSが同梱されている。グラフィック系アプリケーションとしては、GQView、gtkam、MtPaint、Shutterbugが使用できる。これらを支えている基本システムは、Linux 2.6.18.5、Xorg 6.9.0、GCC 3.4.6という構成である。その他にSupergamerでは、Windows系のワイヤレスEthernetドライバも利用できるようになっている。

 SupergamerのSystemメニューには各種の有用なユーティリティとツールが用意されており、具体的には、Bulk Rename、GKrellm、Htop、Terminal、Thunar File Manager、vcpufreq、vl-hot-config、vwifi-connect、Xfce 4 Taskmanager、Xfe(ファイルエクスプローラ)を使用することができる。このメニューからはGslapt Package ManagerによるVectorLinuxリポジトリへのアクセスおよび、Vector Liveハードドライブインストーラを実行することもできる。ただしこのインストーラを使用するには、最低8GBのパーティションが必要になる。実行時には、どのパーティションを使うか、異なる名称のホームパーティションを用意するか、LILOをインストールするかが確認される。その後supervlユーザがコピーされて、ハードドライブからの実行が可能になる。

 だがこのディストリビューションの最大の売り物は、ゲームの実行にあることを忘れてはいけない。一部デモ版を含めた収録ゲームのラインナップは、America’s Army、Doom 3、Enemy Territory、Nexuiz、Postal 2、Quake 4、Soldier of Fortune、Unreal Tournament 2004、True Combat、Torcs、DropTeam、Sauerbraten(Cube 2)という充実ぶりだ。その他、BZFlag、Chromium、GL-117、Glaxium、NeverBall、PPRacerなどのお馴染みのゲーム群もメニューからアクセスできる。

 今回はSupergamerの動作状況を2種類のマシンで確認してみた。最初に試したのは、私の所有するHewlett-Packard dv6105ラップトップマシンである。このマシンはゲーム用に使っている訳ではないのだが、何か別のディストリビューションでも使えるのかを確認する機会をうかがっていたところだったのだ。そして問題の発生を確認したのは、800×600、1024×768、1280×1024といった標準解像度のみが提示された時であった。このディストリビューションには3D用のグラフィックドライバ群が付属しているはずなのだが、私のマシンに装備されたNvidia GeForce Go 6150および同系統のチップセットを搭載したラップトップだと何らかのバグの影響を受けるようである。SupergamerにもNvidiaドライバが同梱されてはいるが、この問題に対処するには、そのインストール先を/usr/src/vl-pkg/NVIDIAディレクトリに手動操作で変更してからnvidia-installerを実行し、それから/etc/X11/xorg.confにある“vesa”を“nvidia”に変更しなければならない。

 次に行ったのは、ラップトップとしての基本機能が使用できるかの確認である。結論を言うと、大半の機能は正常に使えることができた。たとえばリムーバブルメディアを挿入すれば、そのアイコンがデスクトップに表示され、ファイルマネージャによる操作やアンマウントができる状態になる。問題はサウンドシステムが機能しなかったことで、ゲームをプレイする際の醍醐味が大いに薄れてしまった。またこのマシンに搭載されている2.0GHz AMD Turion CPUおよび512MB RAMというスペックでは、ほとんどのゲームをトラブルなく実行できたが、より多量のRAMを必要とするQuake 4およびDoom 3は例外だった。

 次にSupergamerをテストしたのは私のデスクトップマシンであり、これはAMD 64 3700+ CPU、Asus A8Vマザーボード、1GB RAM、Nvidia 6800ocビデオアダプタ、旧式のSoundBlaster Liveという構成である。このマシンにおけるNvidiaカードの検出に問題はなく、お馴染みのNvidiaロゴが表示された後に1600×1200デスクトップ環境が再現された。そしてログイン直後には、サウンドシステムおよびインターネット接続が利用できることも確認できている。ゲームの実行環境としては、グラフィックス設定を高めておくことで、かなり高速なパフォーマンスを得ることができた。Firefoxについても通常使用するのに不自由しないだけのプラグインが付属しており、Xineからは大半のビデオフォーマットを再生することができた。私がトラブルに遭遇したアプリケーションは、必要なライブラリの欠落によりオープンできなかったMPlayerだけである。

 実際に使用して何らかのサポートが必要となった場合は、Supergamerフォーラムにアクセスすればいいだろう。開発サイドからの説明では、ユーザからのフィードバックがあり次第に迅速なバグフィックスやアップデートリリースを行うとされているので、トラブルに遭遇したら速やかにレポートすべきである。

 正直、今回のSupergamerのテストレポートは非常に楽しく進めることができたが、通常のレビュー記事に比べて執筆時間が大幅に超過したのも事実である。すべてはSupergamer VL上で試用したゲームをなかなか中断できなかったためだ。Supergamerはパフォーマンス的にも優れ、同梱されたアプリケーションやゲームのラインナップも非常にいい線をいっており、その分だけ一度手を出したらなかなか抜け出せない電脳世界に足を踏み込むことを約束しているのかもしれない。

Linux.com 原文