OpenOffice.orgのグラフ作成システムに施された美容整形的な改善

 OpenOffice.orgのユーザインタフェース(UI)と言えば、独自仕様の部分とMicrosoft Officeから拝借した部分とのミスマッチが、悪い意味でその特色であった。現在準備中のバージョン2.3では、遅まきながらその辺の不備を改善すべく一部機能の“美容整形”に挑戦したようで、具体的にはグラフ(チャート)サブシステムまわりの改修が行われている。

 今回の改訂では、デフォルトカラースキームの刷新およびウィザードの大改修が施されているが、肝心の機能的な変更はごくわずかなものに止まっており、ある意味UIデザインの善し悪しの影響を考える格好のケーススタディになったと捉えられなくもないだろう。

 今回一番目に付く変更点は、グラフ用のカラースキームである。従来バージョンにおいてデフォルトで使用されていたのは、いかにもやぼったいパステル調カラーであったが、これを私の知っているユーザの1人は「もろ1993年」という表現で、当時のMicrosoft Excelで使われていた色調そのままだということを揶揄していた。今回OpenOffice.orgは全面的なカラースキームの置き換えを行うにあたり、試験的な12種類のカラーサンプルを用意して、登録ユーザによる人気投票を実行している。結果、最大の人気を博したカラーパレットは、KChartのデフォルトカラーを踏襲した明るいイエロー、ブルー、レッドで始まる色調であり、これでようやくOpenOffice.orgも21世紀に足を踏み入れることができた感もするが、つらつら考えてみると、この15年間でコンピューティング世界の色彩感覚もこれだけ変化していた訳である。

 今回の変更は、UIデザインという観点からすると興味深い点が多々あるものの、グラフ作成ウィザード(Autformat Chartウィンドウ)に関する実質的な機能的な変更はわずかなものでしかない。変更後のグラフ作成ウィザードも従来通りに、グラフの種類の指定、データ範囲の指定、データ系列の指定、グラフ要素の指定という4つのステップで進行する。ただし新たなグラフ作成用サブシステムでは、グラフの種類を指定してからデータ範囲の指定に移行するというように、従来のグラフ作成ウィザードにおける最初の2つのウィンドウの順番が逆転されている(その辺に何か明確な理由があるのかは不明である)。こうした手順としては、データ範囲の指定を最初に行うのが妥当な順番だと思うのだが。いずれにせよ仮にユーザがデータ範囲を選択してからグラフを追加するという手順を想定するとしても、そもそもデータ範囲の指定ウィンドウなどは、どの順番に配置しておいても結果は同じではないのだろうか?

 この件はさておき、新たなグラフ作成ウィザードを見てみると、先のデフォルトカラーと同様に数世代前の遺物的な雑多でやぼったかった従来のインタフェースデザインが一掃されているのが分かる。新規のウィザードでは、グラフの種類選択ウィンドウにおけるプレビュー機能が完全に削除されているが、これは別領域に独立したプレビュー表示が設けられたためだろう。同様に、データ系列に対する列および行の設定ボタンもこのウィンドウから削除されてデータ範囲の設定ウィンドウに移動されているが、これは従来からそうしておくべきだった配置のはずだ。またグラフの表示法における2-D形式と3-D形式の指定も、別々のラジオボタンで選択するのではなく、3-D表示を有効化するかを単一のボタンでトグル指定する方式が採用されている。そして各グラフの種類におけるサンプル表示については、同時に最大8個でなく4個が表示されるように変更された。こうしたグラフの種類を選択する際に、従来はマウス操作で選択ペインをスクロールさせつつ指定可能なオプションを確認しなければならなかったが、そうした操作をすることなく候補を一覧できるようにされたのは非常にありがたい改善と言えるだろう。

 逆に今回の変更で改善されなかった部分として、通常のユーザにとって馴染みの薄いであろうタイプのグラフがなぜ用意されているかの説明や、それらがどのような用途に使えるかという説明がウィンドウ上にまったく表示されないという点が挙げられる。確かに、限られたスペースしか使えないウィンドウ上に表示できる説明など微々たるものではあるが、ヒントとなる説明が何も付けられていないとなると、ユーザ自らがオンラインヘルプないしGoogleやWikipediaでゼロから調べるしかない。

 新たなグラフ作成ウィザードでは、データ範囲の選択ウィンドウに対する簡易化も施されている。従来の画面では、このウィンドウで何を行うのかの説明が細かくテキスト表示されていたが、これらは基本的にすべて削除された。同様に、グラフの配置先を同一スプレッドシート上の別シートにするオプションも廃止されたが、その理由はこの機能の使用頻度が皆無に近かったか、そうした操作をするにしてもカットアンドペーストで移動する方が簡単なためだろう。従来から引き継がれたのは、データ系列の適用方向を列とするか行とするかの指定用ラジオボタンおよび、先頭行ないし先頭列をデータ系列のラベルとするかの指定用ラジオボタンである。これらの措置が施された結果、このウィンドウの構成は非常にスッキリしたものとなっているが、これは選択項目の配置法を従来の乱雑な2列表示から簡潔な1列表示に改められた点が大きく貢献していると見ていいだろう。

 従来のグラフ作成ウィザードにおける3番目のウィンドウは、グラフバリエーションの選択画面に割り当てられていたが、変更後のウィザードにおいてこのオプションはグラフの種類の選択ウィンドウの中に統合されており、これも妥当な変更と言っていいはずだ。新たな3番目のウィンドウは、グラフ軸に関する名称その他の詳細設定画面という位置づけになっている。

 ウィザードにおける4番目のウィンドウについても同様の簡素化が進められており、ここではグラフおよび軸のタイトル表示の有無を指定するチェックボックスが削除されている。これらのタイトル表示が不要であれば、設定フィールドを空欄のままにしておくだけで済むようになった。また従来のウィザードではこのウィンドウにデータ系列の方向が列か行かを指定する2つのボタンが配置されていたが、これらは2番目のウィンドウに移動され、その他の残された選択項目も1列にまとめられており、こうした結果生じた余剰スペースには、凡例の表示位置の自動設定コントロールが新規に追加されている。この場合の凡例はグラフ上での表示色を図示するものだが、今回はその表示位置を自動設定する機能が追加され、作成後のグラフにおける配置を手作業で調整する手間を省けるようになった。

 結局のところ、従来のグラフ作成用のサブシステムから大きく変更されていないのは、ウィザード画面の前後移動およびグラフ作成を中断するためのナビゲーションボタン、現行の設定下で表示されるグラフのプレビュー表示および、各種グラフの構成要素を右クリックで詳細設定するためのウィンドウくらいである。

 従来のウィザードから廃止された諸機能については、その判断の妥当性に異議を唱えるユーザもいるだろうし、依然として初心者にとって分かりづらくオンラインヘルプの参照を当然としたようなグラフ関連の専門用語が使用し続けられている点に不満を抱くユーザもいるだろう。実のところ、今回のグラフ作成用サブシステムに対する大幅な改修も、実際の美容整形がそうであるように、単なる外見上の取り繕いに過ぎないという一面も秘めている。グラフ関連の機能についてより抜本的な変更を施すのであれば、例えば画面上での拡大表示時におけるスムージング処理などを追加した方が、多くのユーザの要望に合致していたのではなかろうか。

 とは言うものの、使いにくいことで定評のあった旧バージョンに対して、今回の変更でウィザードの操作性が向上したのは確かであり、インタフェースデザインの優劣がユーザエクスペリエンスに及ぼす影響の好例を示したと評していいだろう。今後、新たなグラフ作成用サブシステムとの整合性を保ちつつ、OpenOffice.orgにおけるその他の機能に関しても同様の改修を施していくのであれば、操作性の向上という点に主眼を置いて作業が進められることを切に望む次第である。

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