FSFLA、特定ソフトウェアの使用強制からブラジル納税者を解放する

 Free Software Foundationのラテンアメリカにおける姉妹組織であるFSFLAは、オンライン税務申告における非フリーソフトウェアの使用強制を撤回するよう働きかけていたが、どうやら最後の土壇場における逆転勝利をもぎ取ることに成功したようだ。ブラジルでは「税金」の隠語として「ライオン」という表現が使われており、今回リバースエンジニアリングによって開発されたフリーなコマンドライン操作型プログラムによる税務申告を公的に認めさせることに成功したFSFLAは、その喜びを「ライオンを自由に解き放った」(freed the lion)という言葉で表現している。

 厳密に言うと今回の勝利は部分的なものでしかないのだが、それは数カ月に及ぶ運動の成果だったのである。以前に掲載したレポートで説明したように、FSFLAがこの運動を開始したのは2006年10月のことであり、その動機はブラジル国税庁(RF:Receita Federal)が採用したオンライン税務申告用ソフトウェアIRPF2007(現行バージョンでの名称)に反対の声を上げるためであった。このソフトウェアにはプロプライエタリ系クラスを必要とするJava版とWindows版が存在するが、いずれもフリープログラムでは無い上に、一部の納税者にはその使用が強制されていたのである。ここで言う一部の納税者とは、収入が100,000レアル(47,000ドル)を越えた者、農業収入が69,840レアル(32,000ドル)を超えた者、もしくは物品、諸権利、株式、先物の売却または農業によって利益を上げた者が該当する。

 FSFLAの主張は、こうしたソフトウェアの強制はブラジル憲法における2つの条文に違反しているというものである。その1つが国民の平等を定めた同憲法第37条であり、ここでは法律で定められていない不当な義務を負わせることが禁じられており、同様に自由な市場競争および消費者の保護が謳われた憲法第170条では、国民による「任意の経済活動を政府の許可なしに自由に行える」権利が保証されているのである。

 FSFLAは昨年10月以降、要望書を繰り返し提出し、反対意見の投書を呼びかける運動を展開してきた。そして本年3月、FSFLAは問題解決に向けてRFとの直接交渉を行うところまで歩を進めたのである。その後RFからは、部分的ながらも問題のソフトウェアで使用されるファイルフォーマットの情報が公開されており、それはこうした交渉の成果と見てよいものであった。

 またRFは、具体的な詳細に言及した訳ではないが、IRPF2007における「潜在的な著作権ライセンス」に関する発言をしたことがある。実際にFSFLAが同ソフトウェアのzipおよびjarファイルを調査したところ、そうしたライセンスに該当するものこそは確認できなかったものの、その代わりいくつかのフリーソフトウェア系ライブラリが使用されていることが判明した。つまりこれらのライブラリは、その使用ライセンスを無視した形で利用されていたのである。例えばFSF EuropeのFreedom Task Forceは、GNU libcというライブラリがインストーラ中で使用されていることを確認している。

 こうして判明した真実を基にFSFLAはRFとの新たな交渉を再開したのである。その結果RFは、ライセンス違反の件に関しては調査することを承諾したものの、それを税金の申告期限である4月30日に間に合わせることはできないと主張した。同様にこの期限前にソフトウェアライセンスの公開をすることも不可能であると拒否された。その他にも、倫理的観点からフリーで無いソフトウェアの使用を拒否する者を例外扱いするか、そうした人々が利用可能なオンライン申告用フリーソフトウェアの開発まで申告を延期する措置を執れないかという要請に対しても、RFは首を縦に振らなかったのである。

 またFSFLAからは、ファイルフォーマットに関するすべての仕様ないしはオリジナルのソースコードを公開する要求も出されていたが、RF側は、そうした行為はユーザの混乱を招く改変バージョンの作成や犯罪行為に利用される危険性があることを理由に、この要求についても拒否している。

申告用ソフトウェアのリバースエンジニアリング

 こうしたIRPF2007の使用を強制された納税者の中には、Red Hat Brazilの従業員でありFSFLAの役員も務めていたAlexandre Oliva氏が含まれていた。そして同氏は、Java用のフリーな逆コンパイラであるJODEを用いて、同団体からの支援の下で問題のソフトウェアのリバースエンジニアリングをすることを決意したのである。

 この作業を進めるうちにOliva氏は、IRPF.jarのルートディレクトリにGNU Lesser General Public License(LGPL)が格納されていることを発見した。その位置関係を根拠としてFSFLAは、これが先にRFが触れた潜在的な著作権ライセンスに該当するものだと判断し、こうしたリバースエンジニアリングは合法的な行為だと結論したのである。IRPF2007に関しては、その他にも多数のライセンス違反が行われていることがOliva氏の作業によって確認されている。

 IRPF2007のフリー版ソフトウェア作成を視野に入れていたOliva氏は、フリーで無いすべてのコンポーネントを削除し、動作に必要なフリー系ライブラリのソースコードを特定することで、ライセンスに関係するすべての問題をクリアすることに成功した。ただし残念なことに、こうして作成されたフリー版ソフトウェアは初期画面の段階でフリーズしてしまったのである。

 開発期間の猶予を失いつつあったOliva氏は、グラフィカルインターフェイスを捨ててコマンドライン形式での操作をさせることを決断した。幸いIRPF2007で使用される情報はXMLファイルに収められる形式であったため、最終的なソリューションは数時間の作業で完成できたとのことである。「結果的に、XMLファイルを編集する操作の方が“指が痛くなるまでクリックし続けろ”形式のGUIバージョンより遥かに楽な作業であることが判明しました」とOliva氏は語る。「申告する項目(資産、負債、扶養家族など)をどう並べるべきかなどは、人それぞれで異なるものですからね。そうした操作も文字列全体をコピーして入れ換えれば済むことですし、その他にもGUIを介した操作では不可能であった変更も色々と行えるようになりました」

 ところが4月25日にOliva氏が銀行での所得申告を申し出たところ、ファイルの受け取りを拒否されたのである。もっともそれは、受け付け番号が記載されていないという単純な不備であった。最終的にIRPF2007で生成される受け付け番号を取得する呼び出し行を追加したところ、同氏が作成した申告書類は当局に受領されたのである。

 その翌日FSFLAはニュースリリースにて今回の試みの成功を報告し、コマンドライン操作による税務申告ソフトウェアをそのソースコードとともに公開したのであった。

残された問題

 今回の成功は戦略的勝利の1つと見なせるだろうが、税務申告ソフトウェアにまつわる問題はまだまだ残されている。例えばこの5月2日、RFはライセンス問題の一部に対処したIRPF2007の新バージョンを公開した。ただしその際にはある種のソフトウェアに対する言及が行われており、Oliva氏の言葉を借りるなら、これは「所得申告の書類作成に限っては、そうしたプログラムを自由に使用していいことを公的に認めた」ということになる。

 当局側によるこうした対応は、FSFLAによる懸念の一部を解消するものである。「今や納税者には、IRPF2007というプログラムをそのまま使うことも、自身が納税者である第三者にプログラム操作を代行してもらうことも、各自の税務申告用にプログラムを独自に改変することも公に許されるようになった訳です」とOliva氏は語る。「とは言うもののRFの配布するソフトウェアについては、サードパーティ系の著作権ライセンスに反している点があるため、依然として違法な存在であることに変わりはありません。それとソースコードの公開も、未だ行われていませんね」

 またOliva氏は先の公的な許可声明について、これが当該プログラムの使用制限を課しているとも読める点に言及しているが、そうであればLGPLの規定と対立することになる。更にOliva氏が言うように、Javaクラスファイルの使用形態が意図的に難解化されているのだとすれば、今後の逆コンパイル作業はより困難なものとなるだろう。

 そしてFSFLAは現在もこうした問題に取りくみ続けている。そのための活動は今後も継続していく必要があるはずだが、今回のリバースエンジニアリングによる成功と、自分達の行為の法的な正当性が新たに確認できたことにより、全体的な士気は高まっているとのことだ。これはFSFLAが最近気づいた事実なのだが、ブラジル版の著作権法の第6条IV項によると、あるプログラムを別のアプリケーションに統合するのは、それが技術上不可欠なもので個人使用に限られているのであれば違法行為ではないと定められているのである。同じくIRPF2007の作成を認める法律に従うと、ユーザはこのプログラムを配布する権利を有することになるそうだ。

 「新たに分かったこれら2つの権利を合わせると、先のCLIツールとソースコードの公開は、仮にLGPLライセンスが無くても行えた可能性があります」とOliva氏は語る。その行為の法的な正当性が裏付けられた感のあるFSFLAだが、現在の希望としては、今回の戦略的成功を更に押し進めて、そう遠くない将来において最終的かつ決定的な勝利を収めることを願っているそうだ。

Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿している。

NewsForge.com 原文