Palm、LinuxベースのOSで巻き返しへ

 長い間待たれていたことが、ようやく実現するかもしれない。Palm, Inc.の社長兼CEOであるEd Colliganが、先だって、年内にLinuxベースのモバイル機器を発売するという同社の計画を投資アナリストに明らかにしたのだ。これに対して、モバイル・コンピューティング・コミュニティーには、歓迎から警戒まで、さまざまな反応が見られた。

 Palm機器向けにLinuxをベースとするオペレーティング・システムが出るという噂は何年も前からあった。Palmは2003年にPalmSourceを設立してPalm OS事業を同社に移し、Palm, Inc.自体はハードウェアに専念することにした。そのPalmSourceは2004年にLinuxをベースにPalm OSの新版を開発すると発表したが、2005年に日本のモバイル・ソフトウェア・メーカーAccess, Inc.により買収された。

 そして、昨年12月、Palmは、AccessのGarnetオペレーティング・システムのソース・コードに対する恒久的権利を4400万ドルで取得した。Palm OS Garnetとして知られていたオペレーティング・システムである。Accessには、これと互換性があり、ほとんどの標準Palmアプリケーションがわずかな変更でLinuxをベースとする機器で動作可能になるAccess Linux Platformもある。

 Garnetコードを取得した理由について、Palmは同社のWebサイトで次のように説明している。「当社は、今後、当社製品の差別化戦略に応じてPalm OS Garnetを発展させていきますが、その際、現在Palm OS Garnetと互換性のあるアプリケーションがわずかな変更で、あるいはまったく変更なしに、将来のPalm OS Garnet搭載製品でも動作することを保証するためです」

 Palmは最近ニューヨークでInvestors Dayを開催しているが、Colliganはその基調講演の中で同社の計画に触れ、この動きの狙いは「複雑さの低減、迅速な商品化、コストの削減、信頼性と品質の向上」にあると述べた。

 Colliganは新オペレーティング・システムの詳細を明らかにしなかったが、他のハードウェア・メーカーにライセンスすることはなくPalm専用になると語っている。しかし、不思議なことに、PalmはColliganの発言について固く口を閉ざしており、Linux.comで「これに関する会見の予定はない」と宣言した。

Palmユーザーは楽観的だが慎重な姿勢を崩さず

 このニュースについて、モバイル・コンピューティング・コミュニティーには、ハッキングと回避策を駆使してPalmベースの機器上でLinuxを動かしているユーザーを中心に、歓迎する向きもあるが、多くのユーザーは慎重だ。Palm Addictの編集長Sammy McLoughliは、携帯機器ユーザーにとってLinuxベースのオペレーティング・システムにより柔軟性が増すのはよいが、新OSの話は「いつか聞いた話」だと言う。

 「全体としては、携帯コミュニティーは肯定的に受け止めています。しかし、果たされることのなかったかつての約束の二の舞になるのではないかという懸念を多くの人が漏らしたとしても驚くには当たりませんし、携帯機器市場の競争が激化している今、小出しかつ遅すぎです」

 「(しかし)素晴らしいオペレーティング・システムを真っ先に導入したPalmですから、またやってくれると思います。第一級のOSを導入し、これまで言ってきた通りモバイル・インターネットに専念し、私たちが必要なデータを持ち歩いてマルチメディア機能を活用できるようにしてくれるでしょう」

 そして、開発者にとっても一般ユーザーにとっても、既存アプリケーションと新オペレーティング・システムの互換性は重要だと指摘する。「みんな愛用しているプログラムがLinuxでは動かないかもしれないと心配しています。しかし、Palmは確実に互換性を優先するだろうと思います」

 「開発者も、もっと詳しく知りたいと思っているでしょう。Palmはコミュニティーを悩ませてきましたが、今は、みんな詳細を知りたいと思っています。私が話をした開発者の多くは、開発スケジュールを知りたいと言っていました。自分のプログラムを新しいオペレーティング・システムの条件に合わせる必要がありますから」

Palmの巻き返し

 ところで、Linuxオペレーティング・システムを携帯機器に持ち込むのは、Palmが初めてというわけではない。たとえば、SonyとAcerはmyloやn30でLinuxへの賛同を示し、Sharpは携帯機器シリーズZaurusでLinuxを採用している。しかし、これまでの市場獲得の試みでは、そうした機器は市場にあまり浸透しなかった。大きく不格好で、米国内では使えなかったからだ。

 しかし、巨大技術企業Nokiaが今年初めにリリースしたLinuxベース機器の第2世代Nokia N800 Internet Tabletは、オープンソース・コミュニティーに暖かく受け入れられた。そのNokiaのConvergence Product Sales in North Americaの長であるPaul Murdockは、Palmの発表を「携帯機器用オペレーティング・システムとしてのLinuxの価値を再確認する」ものだと述べている。

 また、オープンソース・ソフトウェア開発者向けにLinuxベースのスマートフォンを開発しているノルウェイのコンピューター・ソフトウェア企業Trolltechは、Greenphoneを提供する。オープンソース・ソフトウェア開発者がモバイル・コンピューティング機器向けのLinuxをベースとするアプリケーションを開発するための機器シリーズ第1弾だ。

 そして今月初めには、Opera Softwareが、ライセンス料および開発費(額は非開示)と交換で、同社の人気オープンソースWebブラウザーをPalm機器の将来のリリース向けに提供・維持・サポートすることに同意した。

小出しかつ遅すぎ

 Palmは年内発売を予定する機器の構想を描くが、このニュースに当惑しているアナリストもいる。その一人、Forrester Researchでインフラストラクチャーおよび運営に関するアナリストを務めるBenjamin Grayは、他社に追いつくのは容易ではないだろうと言う。

 「今日のモバイル事業は厳しく、Palmはその入り口にとどまるだけで精一杯でした。Treoは数年前なら革命的でしたが、今となってはさほど革新的には見えません。RIM、Nokia、Motorola、Samsungなどといった大手モバイル機器メーカーは、スマートな新しい機器を提供して人気を集めており、その多くはWindows Mobileプラットフォームです。もちろん、RIMは例外ですが」

 そして、Palmが数年がかりでようやくLinuxベース機器の提供を決めた理由は、潜在的な購入層に対して自社の魅力を高めたいというところにあったのかもしれないが、決算の数字によるものと考える方が当たっているだろうと言う。

 「このところ、Palm買収の可能性に関するいろいろな思惑が交錯しています。しかし、オープンソースへ舵を切った主な要因は明確に経済的なものだと思います。同社の来るべきモバイル・オペレーティング・システムはオープンソース・テクノロジーに基づいていますから、Palmは自前のオペレーティング・システムを再び持つことができます」

 Grayは、Palmが競争力を保つつもりなら速やかに市場における存在感を強化する必要があると言う。「当社のクライアント企業の間では、Windows Mobileに将来性を見るところが増えています。主にコスト面からの判断です。Linuxは確かにWindows Mobileに挑戦できるでしょう。Palmが参戦した今は、なおさらです。しかし、少なくとも今後2年間はエンタープライズ・クラスの機器ではMicrosoftが勝者だろうと思います」

 一方、PalmAddictのMcLoughlinはもっと楽観的だ。「概して言えば、みんな期待しているようです。正しい方向へ大きく一歩を踏み出したのだと私は思います。近い将来、Palmからいろいろなことが飛び出してくることでしょう」

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