BSD派生ディストリビューション全体に影響しうるライセンス問題の発覚

FreeBSDカーネルにGentoo Linuxのデザインコンセプトを組み合わせるという構想のGentoo/FreeBSDプロジェクトは現在、非常に微妙な立場に追いやられている。すべての発端は、同プロジェクトのメイン開発者であるDiego “Flameeyes” Pettenò氏がlibkvmライブラリとstart-stop-daemonに関する作業を進めている際に、1つのライセンス問題の存在に気づいた事であった。Pettenò氏の説明するところでは、その問題は同氏のプロジェクトに大幅な制限を課す可能性のみならず、その他すべてのBSD派生プロジェクトにも影響を及ぼす危険性すら秘めていると言うのだ。

「ライセンス問題の存在に気づいたのは、私がlibkvmのリリースライセンスを調べていた時のことで、それはGPLv2ライセンス下にあるソフトウェア(Gentoo固有のユーティリティパッケージportage-utils)にリンクする必要があったからなのですが、その使用に関しては“4-clause BSD”ライセンス(本質的にオリジナルのBSDライセンスと同じもの)が適用されることが分かったのです。そしてこのソフトウェアが他の部分でも使用されていないかを調べたところ、私たちが過去に再配布したGPLv2ライセンス下にあるバイナリの1つで問題が生じる可能性が判明しました」とPettenò氏は語る。その後同氏は、即座に同プロジェクトによる一般向けファイル配布を停止したとのことだ。

問題のライセンスとは、1999年まで用いられていたオリジナルのBSDライセンスである。その中の規約の1つに悪名高き宣伝条項(advertising clause)があり、そこでは適用対象のソフトウェアに関連するすべての広告に対して、カリフォルニア大学バークリー校(University of California, Berkeley: UCB)およびその他貢献者たちの存在を示すクレジット文の記載が要求されているのだ。本来この条項自体はそれ程問題視される性質のものではなかったが、派生ソフトウェアが作られるごとにこのクレジット文が改編され、個々の開発者名が貢献者として追加されるようになると事態は一変した。それは、この条項の適用されるソフトウェアがGentoo/FreeBSDなどのオペレーティングシステムに取り込まれた場合、非常に厄介な問題を引き起こすようになったためである。つまりGentoo/FreeBSDがこの条項を遵守しようと思えば、同プロジェクトの関係するすべての広告においてクレジットの文面を逐一改めなければならない、という過大な負担が生じるのだ。

既にこの条項そのものは、Richard Stallman氏がこの件に関する問題を公開したのを契機に、オリジナルのライセンスからは削除されている。3-BSDライセンスと呼ばれる改変後のライセンスでは、問題の発生源となった条項をGentoo/FreeBSDなどのプロジェクトが無視しても法的に問題ないと変更されたのである。ただしlibkvmはUCBのコピーライト下に置かれていたため、今回Pettenò氏としては、コードを一部改めて問題を回避しなければならなかった。

「当初、この件に関する問題はこれで片づいたと思いました。それはUCBのコピーライト下にないコードの大半は3-BSDライセンスが用いられていると予想していたからですが、実際はそうではなかったのです」とPettenò氏は語る。FreeBSD 6.2における最新版のリリース候補について、そのソースコードをざっとgrep検索した結果、いくつかのソースファイルはUCBのコピーライト下になく、しかもそのリリース形態は依然として宣伝条項を伴っていたのである。

「私たち(Gentoo/FreeBSDの開発陣)としては、このプロジェクトに関しても宣伝条項が適用されるのか、判断がつきませんでした。新たな開発者の作ったコードを取り込んだリリースをするごとに、私たちはクレジット文の追加をする必要があるのでしょうか、それとも不要なのでしょうか? 仮にそうした措置が必要だとして、それではこの条文にある“宣伝素材(advertising material)”という記述は、単にGentoo/FreeBSD関連の広告類だけを指すのか、あるいはドキュメント類も含まれるのか、ということになります。条文の記載が曖昧すぎるんですよ」

模範解答の存在しない専門外の問題にさらされ、混乱と疲労感とに襲われたPettenò氏はFree Software Foundation(FSF)に助言を求めたが、得られた返答は大きく失望させられるものであった。先の懸念どおり、同氏のプロジェクトは問題のライセンスによる制限を受ける、ということがFSFによって確認されたのである。「ただ先方が言うにはですね……、例の条項というのは、その……、雑誌、新聞、テレビ、ラジオなどの“真の”宣伝(に関するものである)だということを耳にしたことがある、ということなんです」とPettenò氏は説明する。「そんな話を聞かされても、本質的な解決にはなりませんよ。クレジット文を入れなければならないのは、私たちの掲載する広告だけではなく、Gentoo/FreeBSDを使用した製品に関係する広告全体が対象となり得るのですから。下手をすると*BSD系の全プロジェクトに及ぶ話ですよ」

同氏は自身の運営するブログにて、実質的にすべての*BSD系の派生プロジェクトは、UCBのコピーライトではなく4-BSDライセンス下にあるコードを何らかの形で使用している点に言及している。「ということは、これらすべてのプロジェクトにおいて、あらゆる形態の“宣伝素材”にクレジット文を掲載することが求められる、ということになります。*BSD系プロジェクトのほとんどすべてが、厳密な意味においても広告と分類されうる素材を含んでいることは、まず間違いないでしょう」

そして程なく、同氏の掲載したブログ記事はSlashdotに引用されることとなったが、その際に何人かの人々は、これをBSDとGPLライセンス下にあるコード間の互換性に関する問題だと誤解してしまったのである。この点に関し、Software Freedom Law Centerのリーガルディレクタを務めるDaniel Ravicher氏は、「宣伝条項付きBSDとGPLとの間には互換性が無いということで、私どもの見解は一致しています。リンクという用語で言及されている両プログラム間での相互利用の形態は、著作権法の規定する派生著作物を生じさせる行為であり、そうして作成されたものを双方のライセンスと両立させた形で配布することはできません」と語る。ただしPettenò氏によると、GPLにはシステムライブラリに関する例外条項があるので、こうした説明は今回の問題には当てはまらないとのことである。

今回の問題について同氏が考える唯一の解決法とは、関係するすべての著作権保持者をリストアップし、3-BSDライセンスへの変更を全員に承諾してもらう、というものだ。「確かNetBSDプロジェクトの場合は、その所有するコードについてのライセンス変更を既に行っていたはずで、少なくとも独自CVSにあるlibeditなどの新規コードについては、4-BSDではなく3-BSDでのリリースにしているはずです」

Pettenò氏はプロジェクトの可及的速やかな再開を約束しているが、それはクレジット文に織り込むべき貢献者のリストを取得した後の話で、その際には将来的な負担を減らす上でも、関係する著作権保持者に連絡を取って必要なライセンス変更を依頼したいとのことだ。「重要なのは、関係するライセンスの内容を開発者が心得ておき、4-clause BSDライセンスのような不手際を再発させないように予防しておくことです」

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