フリーソフトウェア・ライセンスの作成に苦闘するブラジル・パラナ州

GNU General Public License(GPL)第3版を作成する目的の一つは、翻訳しやすいように、使用する文言を国際化することにある。その努力の必要性に疑問をお持ちの向きは、ブラジル・パラナ州における代替フリー・ライセンスへの取り組みを見ていただきたい。必ずや納得されるだろう。同州の現行代替ライセンスは、その作成意図にも拘わらず、Free Software Foundation(FSF)とそのラテンアメリカ版、FSFLAからフリーではないという烙印を押され、同州は不満をかこちながら目下改訂中なのだ。GPLの国際版があれば、こうした事態は全く生じなかったか、少なくとも必要最小限の作業で済んだだろう。

パラナ州はブラジル南部に位置し、生活レベルは同国で最高水準にある。伝統的に教育と公衆衛生を重視しており、遺伝子組み換え食品を禁止するなど先進的である。他の多くの州同様、フリーソフトウェア利用の推進に強い関心を持ち、同州が開発したフリーソフトウェアのためのライセンスとして、Licenca Publica Geral para Computadores da Administracao Publica(General Public License for Public Administration Computers、LPG-AP)を定めている。このライセンスは、フリーソフトウェアだけでなくプロプライエタリ・ソフトウェアも扱う州立コンピュータ企業CELEPARの社内で作られたものだ。

このLPG-APの策定について、起草者の一人であり、GPLv3の起草作業でブラジル代表を務めるOmar Kaminskiは次のように説明している。「ライセンスを新たに作ることにしたのは、GPLにブラジル系ポルトガル語の公式訳がないからです。また、ブラジルの法制度と合わない点も多少あります。このライセンスはエンドユーザーによる個人的使用ではなく、ブラジルの州政府による使用を想定しています。だからこそ、GPLを採用して法的問題を引き起こす危険を冒すのではなく、別途、FLOSSライセンスを作ることにしたのです」

LPG-APの問題点

しかし、FSFLAの事務局長Alexandre Olivaは、「FSFLAも親団体のFSFも、フリーソフトウェアの定義との不整合を指摘しています。ですから、このライセンスは、提示されている目的とは裏腹に、プロプライエタリ・ライセンスなのです」と言う。

特に問題としているのは、次の点だ。

  • このライセンスが、あらゆる環境のあらゆる人に対してではなく、「すべての利害関係者」の「通常の条件下での」プログラムの使用に適用されること。
  • バイナリーを添付しないソースコードの配布を許容していないこと。
  • 許諾は50年後に失効するとしていること。50年はブラジルの現行著作権保護期間に一致するが、他国や将来はわからない。

Olivaによれば、実際、LPG-APは著作権法と整合していない。著作権は著作物の公表後最初の1月1日から50年後に失効するのであり、公表後50年ではない。この違いにより「ソフトウェアがパブリック・ドメインに移行する直前に、使用できない空白期間が最大364日間生じます」。さらに、フリーソフトウェアの指針第6節は対価をもってまたはプロプライエタリ・システムで使うために配布することはできないとしているが、これは「他のサービスまたはコストについて請求することを妨げない」とするLPG-AP第3.2節と矛盾すると指摘する。

これに対して、Kaminskiは、LPG-APを「プロプライエタリ」だとすることに強く反発する。「フリーソフトウェア(の定義)と整合しないからといって、EULAのように、プロプライエタリになるわけではありません」。しかし、LPG-APの50年条項に関する「議論は薄弱」だとは言うものの、Olivaが指摘した問題点のほとんどには答えず、ただ「GPLがブラジルの法制度に整合していない」ことがLPG-APを必要とする第一の理由だと言う。

また、「おそらく、ブラジルのフリーソフトウェアは、米国とは異なる方向に動いているのでしょう。米国ではフリーソフトウェアはそれ自体が目的になっています」。言い換えれば、米国のフリーソフトウェアはプロプライエタリ・ライセンスの制約に対する反作用だが、ブラジルではそうした制約は問題にならない。なぜならフリーソフトウェアは連邦政府と州政府が推進しているからだという。

最近の動き

かくのごとく反発するKaminskiだが、その一方で次のようにも述べている。「現在、ライセンスの改訂中で、新しい版はもっと整合的になるよう研究しています。ただし、公式にその必要があるわけでもなく、そうすべき義務もありません。というのは、私たちは行政法と憲法が定めた規則と原則に従うべきだからです」

LPG-AP初版のリリース後、ブラジル連邦政府はCreative Commons GNU GPL(ポルトガル語訳がある)をGPLのブラジル系ポルトガル語公式訳とした。しかし、Kaminskiが指摘するように、この翻訳を使用してもLPG-APの必要性がなくなるわけではない。GPLとブラジルの法制度間に不整合があるだけでなく、「非公式訳を採用するのに適当な時期ではありません。非公式訳というのは、FSFが承認または信認していない翻訳という意味です。私には、これは適切な動きとは思えません。特に、州政府は、行政法の規定や連邦憲法に従う必要がありますから」

2006年4月に欧州で開かれたGPL3の第2回国際カンファレンスで、Richard Stallmanは次のように述べている。翻訳自体が難しいことと、さまざまな法制度を理解する必要があることから、「GPLを翻訳するのは、これまでの活動より遥かに困難なことです。私には確信が持てません。確信を持って任せられる人がいないのです。フリーソフトウェア運動を強く支持する法律家は各国にいますが、彼らに任せるのは、とても……一つ間違うだけで世界中の物事をひっくり返すことになりますから」。その代わりに、GPLv3の現在の草稿では、法制度が異なると意味が変わってしまうような文言を使って翻訳者を惑わせることのないように、できる限り中立的な文言が選ばれている。

もちろん、それでLPG-APを巡って生じているような論争が完全になくなることはないだろう。しかし、共通事項について容易に合意できるようになれば、論争は今よりも単純なものとなるだろう。そうした合意がなければ、GPLが各地域の政策や法に抵触するかどうかを論ずるのは困難だし、ましてや、そうした困難を回避する道を見いだすことなど不可能である。パラナ州における問題は少し落ち着いて話せば解決するように見えるが、どこででも容易に起こりうる類の問題とも思える。

Bruce Byfield、コンピュータ・ジャーナリスト。NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalの常連。

NewsForge.com 原文