Linux用の有料ゲームソフトは商業的に成功しうるか?
MyGameCompany.com製作のDirk Dashingおよび、Sillysoft製作のAncient Empires Luxというゲームソフトは、どちらもデモ版が無料でダウンロードでき、休日を迎えるとストレスを感じるという人にとって一種の緩和薬として作用するはずだ。
まずはDirk Dashingというゲームだが、製造元の紹介Webページを見てみると、このタイトルは極秘の政府機関GOOD(Government Operatives On Duty)に属する秘密工作員の名前だとされている。彼に課されたミッションは「権力欲に犯された誇大妄想狂やテロリストの魔の手から世界を救うこと」なのだそうだ。なおこの工作員については、悪人どもを殺すことなく職務を遂行するという、小さな子供たちを抱える親御さんでも安心できる設定が施されている。流血沙汰無しでどう戦うのかというと、ガス弾で悪人を昏倒させるのだそうだ。
このDirk Dashingというゲームの構成には、90年代初頭に私がはまっていたCommander Keenを思い起こさせる点がある。どこら辺がCommander Keenと似ているかというと、我らがヒーローのDirk氏は、歩行、疾走、ジャンプという動作モードを切り換え、様々な障害物をよけつつアイテムを拾い集めていくのであるが、その際には落とし穴にはまったり悪党の攻撃を受けないよう気を付けなくてはならない、という設定でゲームが進む点だ。
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このゲームの作者であるTroy Hepfner氏は、本ゲームのLinuxバージョンを製作した理由について次のように説明している。
今年の頭頃の話ですが、色々な理由があって、私たちの会社はメインの開発プラットフォームをLinuxに切り換えました。私個人としても、自宅では数年前からLinuxを使用していたので、これは好ましい決定でしたね。Linuxユーザの1人としてLinux用のゲームが増えることは歓迎すべきことですから。実のところ、自分が作ったゲームをLinux上で動かしてみたい、という個人的な欲求もありましたしね。私がLinuxに乗り換える契機だと判断したのは、今年の頭にWindowsマシンの1つがウィルスに感染してダウンし、開発スケジュールにも支障を来すような事態になった時でした。この決定によって安全かつ安定して使える開発環境が手に入った訳ですが、それと同時に社内では、ゲームのソースコードをクロスプラットフォーム化しようという気運が盛り上がったのです。確かにリリーススケジュールは数カ月ずれ込みましたが、結果的に会社およびユーザの双方にとってよい成果をもたらしたと思っていますよ。
Hepfner氏の説明するところでは、「Linuxバージョンは既にある程度の売り上げを見せてはいますが、確かな手応えとまで言い切るには時期尚早でしょう。もっともLinux対応ゲームを歓迎するユーザからの声が会社に寄せられているのは事実であり、正直驚かされているくらいです。開発者という立場から言うと、商用の有料ゲームをLinux用にリリースすることに対しLinuxコミュニティがどう反応するかは見切れていない部分があったので、今回得られた反応の高さは良い意味で予想外のものでしたね」とのことである。
Hepfner氏は来年中に同社の主力製品であるFashion Centsの“大幅アップグレード”を計画しているそうだが、その際にはおそらくLinuxバージョンも作成されるだろう。具体的なHepfner氏の説明を引用すると「現在私たちはメインの開発プラットフォームとしてLinuxを使用していますが、今後開発するすべてのゲームについてはLinuxバージョンも作ることになるだろうと私は予想しています」ということになる。
Ancient Empires LuxとLinux市場のハイリスク性
次にAncient Empires Luxというゲームだが、これは先のDirk Dashingとは正反対に、シチュエーション的には血生臭さ満点のゲームだ。ただしこのゲームは、神の高み的な視点を持つプレーヤが、敵対する地上軍どうしの戦いを俯瞰する形で進行するので、画面上に血しぶきが飛び跳ねることを心配する必要はない。Sillysoftからは複数のゲームがリリースされているが、それらはすべてRiskというボードゲームをベースにしているようであり、個々のゲームごとに、古代の帝国間での戦争をモチーフにしたもの、アメリカが過去に経験した戦争をシミュレーションしたもの、壮大な宇宙空間を戦場に想定して戦い抜くものなど、シナリオ的な色分けが行われている。これらのゲームはすべてWindowsおよびMac OS Xで実行可能なクロスプラットフォーム仕様だが、Pax Galaxia以外はLinuxバージョンも用意されている。なおJavaで記述されている関係上、これらをプレイするにはJREが必要だ。
私も実際にAmerican History Luxをダウンロードしてみたが、具体的な手順はダウンロードページに説明されており、基本的にはダウンロードしたディレクトリでjava -jar American_History_Lux_Demo.jar
とコマンドを送信するだけでよい。後はダイアログの説明に従ってインストール操作を進めていけばよく、最後の段階でそのままゲームを起動するかが質問される。私の場合、ベトナム戦争の再戦を挑んでみたかったので、そのままゲームをスタートさせてみた。
ところが残念なことに、無料のデモ版では最初にフランス‐インディアン戦争のシナリオしか選択できず、それ以外のシナリオを直接選びたければ有料版を購入するシステムになっているようだ。ゲーム画面はRiskとよく似たマップ形式が採用されており、プレーヤの保有戦力は画面の隅に表示される。実際、ゲームの進行法はRiskのものと大差なく、Riskをプレイしたことのないユーザであっても理解するのにそれほど手間はかからないだろう。各ターンは、プレーヤが与えられた兵力を自国内に展開することで始まる。そして隣接する敵兵力が存在する場合は、兵力展開後に戦闘が行えるという具合だ。1つのターンが終了すると兵力を再移動できるので、最適だと思う形に兵力を配置させるようにしていけばいい。ゲームの進行は速く、世界を征服するにせよ自軍の兵力を全滅させられるにせよ、ビギナーレベルの設定であれば数分もあれば決着が付くはずである。
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今回のレビューではSillySoftに対し、同社におけるLinuxバージョンの開発履歴および、これまでとってきたLinux市場の開拓戦略について質問してみた。同社の“創設者にして重鎮”であるDustin Sacks氏からは、次のような回答が得られている。
Linuxユーザの商用ソフトアレルギーLinux用ゲームを提供し始めたのは2004年6月のことです。私は個人的にMac OSやLinuxなどの非Microsoft系プラットフォームのサポート運動を進めており、それが会社としてLinuxのサポートを始めた大きな動機の1つにもなっています。また社内の開発プラットフォームとしてはJavaを採用していますが、その分だけ移植が容易なことも大きな理由の1つですね。もっともJavaであれば完全にシームレスな移植ができるというものでもなく、ある程度のテストや追加サポートが必要となります。Linuxユーザを対象としたゲームの販売は、商業的には簡単ではありません。有料な商用アプリケーションという形態に、Linuxユーザは本能的に反発する傾向にありますからね。それでも、Linuxの成長にあわせてLinux版の商用アプリケーションもその市場を拡大しつつありますから、Linuxをサポートしておくことは将来的に大きな資産になると私は考えています。
Appleという、独自のプラットフォームとデスクトップ用OSを掲げて生き残ってきた事例が示しているように、Microsoftの独占状態が続く市場においても、その影響を排したサードパーティ系の商用ソフトウェアが成長する余地はまだまだ残されている。ただしLinux市場が特徴的なのは、ソフトウェアを購入する場合に、その品質ではなくライセンスの形態を問題視するユーザが多数存在しているという点だ。
今日コンピュータゲームは巨大産業と呼びうる規模に成長しているが、Linux市場のシェアは未だ微々たるものでしかない。そうしたLinux市場で最新版のゲームタイトルが流通し始めることは、おそらくは大部分のLinuxユーザが歓迎するところのはずだが、問題はそうしたユーザの何人が実際に身銭を切ってまで購入しようとするかだ。移植に要する投資に見合うだけのユーザ数が期待できなければ、開発元は二の足を踏み続けるだろう。