レビュー:堅牢な画像コンバータとして期待されるRaw Therapee 1.1
Raw Therapeeの場合、libc6とlibc5のどちらかのLinuxシステム用にビルドされたものがダウンロードできる。どちらをダウンロードすべきかわからなければ、とりあえずlibc6版を試すとよい。パッケージは、コンパイル済みのバイナリと各種サポートファイルを含むgzip圧縮されたtarアーカイブになっており、今のところソースは含まれていない。ライセンスに関してはまだ方針を検討している最中だとHorváth氏は話してくれた。
同時期に登場した非常に多くの画像ツールと同様、Raw TherapeeでもRAWファイルフォーマットのサポートにDave Coffin氏のdcrawを利用している。そのため、対応するデジタルカメラの機種は相当な数にのぼる。
Raw Therapeeが画像のモザイク解除に利用しているのはEAHDという、最初にKeigo Hirakawa氏が広めたAdaptive Homogeneity-Directed(AHD)アルゴリズムにHorváth氏が手を加えたものだ。モザイク解除はRAW変換のコアとなる処理で、おそらくRAW画像の支持者たちの間では広く議論されている話題だろう。Horváth氏はRaw Therapee、Adobe Camera RAW、Nikon Capture、RawShooters Essential、Bibble Pro、Capture One Pro、Silkypix、UFRawのそれぞれで得た結果を並べた比較用画像集を公開している。
各種ツールと基本的用途
シャドウリカバリ(陰影復元)機能 ― クリックで拡大 |
Raw Therapeeは、補正可能なホワイトバランス、露出、輪郭強調、ハイライト/シャドウ圧縮といった必須の現像制御機能を提供している。こうした基本的な処理の実行は他の同等ツールと大差ないのだが、Raw Therapeeでは機能や設定のそれぞれに適切な技術的名称が付けられている点が、私は特に気に入っている。
シャドウ圧縮(shadow compression)を例にとって説明しよう。この機能は、ある画像で(一定のしきい値よりも)暗いピクセル群の輝度を、より明るいピクセル群の輝度を変えることなく上げるものだ。その結果、ハイライト部分の色飛びを抑えつつシャドウ部分を明るくすることができる。Raw Therapeeでは、この機能を実体通りにシャドウ圧縮と呼んでおり、ユーザが暗ピクセルのしきい値を設定できるようになっている。一方、Bibble Proにも同じ機能があるが、「フィルライト(fill light)」と呼ばれている。この名前は、仮にまだ撮影が終わっていないとしたら照明比をどのように修正するか、という観点で付けられている。ツールバー内の該当スライダを初めて目にする者にはわかりやすいかもしれないが、実際の機能とはかけ離れていて恩着せがましい名前だ。またBibble Proでは、暗ピクセルのしきい値を調節できない。
全般的にRaw Therapeeには、輪郭強調から色補正までの画像補正パラメータのすべてにわたって、その他多くのRAWコンバータよりも詳細な情報と多くのコントロールが用意されている。色シフトや輝度チャネルのツールはすばらしく、各種変換はCIELab色空間で行われる。
マイナス面は、多くのユーザが期待しているであろう、手動補正が可能なカーブ(曲線)やレベルがまだ用意されていないことだ。Horváth氏は実現すべき項目としてこうした機能を挙げているが、レベルヒストグラムはすでに機能する状態にあるので、次回リリースには含まれる可能性がある。
手動で補正可能な曲線が必要だと考える人々は多いが、実行可能な操作はすべて既存の露出、シャドウ、ハイライトの各コントロールによってカバーされている。ラスタ画像エディタ内の各種曲線に見慣れているとはいえ、AdobeのRAWコンバータLightroomにもこうした曲線は用意されていない。露出補正は、曲線やヒストグラムの上で行うよりも、画像を見ながら行うほうがよいだろう。
不足している部分
色補正機能 ― クリックで拡大 |
しかし、今回のRaw Therapee初回リリース版にはもっと根本的な問題が存在する。クラッシュが起こりやすく、画像の多いディレクトリからのサムネイル読み込みに時間がかかることがあるのだ。Linux版の完成度の低さをさらけ出すこの2つの問題は、Horváth氏も承知している。また、私の写真からはEXIFの回転情報を正しく読み取ることができなかった。危害はないが煩わしいものだ。
さらに、他のプロプライエタリなRAWコンバータにはない機能を備えているとはいえ、Raw Therapeeには機能の取り揃えという点でやはり足りないところがあり、本格的なワークフローツールの域には達していない。Raw Therapeeに欠けているのは画像コレクション管理、メタデータ、バッチ処理といった機能で、いずれも画像処理に関するものではないが、本腰を入れて作業に取り組むには必要な機能だ。
最後に、これはおそらく好みの問題だろうが、私はRaw Therapeeのユーザインタフェースに不都合さを感じた。どんなRAWコンバータでも画像補正機能はグループ化されておらず、スライダを一杯に表示してスクロールする長いサイドバーの領域に各種補正ツールがただ並んでいるだけである。しかしRaw Therapeeでは、各スライダの上にマウスが来ると必ずカーソルのフォーカスを捉えるようだ。そのため、マウスのスクロールホイールを使ってサイドバーの表示を上下に動かす場合には、そのスクロールバーを注意深く操作しなければならない。さもないと、スライダの1つを誤って動かしてしまい、少なくともその瞬間は慌てふためくことになるだろう。
とはいえ、こうした欠点はすべて周辺機能に関するものだ。パフォーマンスやUIは、アプリケーションが成熟してくれば間違いなく改善される。統合型のワークフローツールもよいが、Horváth氏がそうしたツールを提供しない限り、RAWコンバータとしてのRaw Therapeeの価値が失われることはないだろう。Raw Therapeeは、安定したコア機能と融通の利く優れた補正ツール群を備えた使いやすいアプリケーションと言えよう。