新たなメモリ「MRAM」の用途を模索するフリースケール

 データを高速で記憶し、保持するメモリ・チップの開発に成功した米Freescale Semiconductorは、これをどのような用途に展開するかという新たな課題に直面している。先週パリで開催した顧客およびパートナー向けのイベント「Freescale Technology Forum」で新製品のMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)チップを披露した同社は、その問いに対する答えを求めているに違いない。

 MRAMは、SRAMのようにデータを高速で書き込むことが可能でありながら、フラッシュ・メモリと同様に電源を切っても内容を失わないため関心を集めてきた。わずか10万サイクルで故障し始める可能性のあるフラッシュ・メモリと違い、MRAMはデータを繰り返し書き込むことができる。また、MRAMは高温下でも動作が可能で、放射線に対する耐性があり、低消費電力で小型であるため、あらゆる用途に役立つ可能性がある。

 そこで、どの用途をターゲットとするかがFreescaleにとって問題となる。同社の最初のMRAMチップの容量は4Mビット。今のところ、顧客はこのチップを、バッテリ・バックアップ付きSRAMのバッテリ不要の簡易な代替品と見ている。SRAMチップおよびバッテリのコストと比較した場合、「この製品は安価で、50%を大きく下回るコストしかかからない」と、同製品のデモを行ったFreescaleのンジニアリング・マネジャー、アンドリュー・ビルニー氏は述べた。

 しかし、容量が数十ギガバイトの容量が必要なコンピュータ用ハードディスクの代替を狙うには、同社はより大容量のMRAMを作る必要があり、数バイトの不揮発性ストレージで足りる各種の組み込み用途の場合は、MRAMの小型化と低価格化を進める必要がある。

 これらに加え、まだだれも想定していない用途が出てくる可能性もある。「MRAMは他の種類のメモリの代替品として使用できる。しかし、MRAMは新たな特性も備えている。われわれはMRAMの新たな利用方法が登場することを期待している」と、Freescaleの先端テクノロジーおよびデザイン・ソリューション担当ディレクターを務めるアンドレアス・ワイルド氏は述べた。

 例えば、MRAMにより、電源を切ってもすべての記憶を保持し、電源を再投入したときに作業を速やかに再開できるノートPCやPDAを開発できる可能性がある。「揮発性メモリの代わりにMRAMを使うのは大きな進化だ」とワイルド氏。

 Freescaleは4Mビット・チップを1個25ドル(1,000個以下のサンプル購入時)で販売しており、これまでに40社の顧客がサンプルを購入した。同社によると、そのうち2社は大量に購入したという。大量購入時の価格は「個別に交渉する」とワイルド氏。

 ワイルド氏は、MRAMの価格をコンピュータに使用されるDRAMの価格と比較し、次のように語った。「1974年には、1MビットのDRAMの価格は7万5,000ドルだった。今日では1セントの数分の1だ。これより急速ではないにしろ、MRAMも同様の進化をたどるはずだ」

 Freescaleは4Mビット・チップを線幅180ナノメートル(nm)プロセスを用いて製造しており、実験室では90nmプロセスを用いて16Mビット・チップを製造したという。チップ上の構造を縮小すれば、より高密度かつ大容量になる。ワイルド氏によれば、すでに同社は「線幅を65nm以下まで縮小できることを実証している」という。

(ジェームズ・ニコライ&ピーター・セイヤー/IDG News Serviceパリ支局)

提供:Computerworld.jp