GPLv3の策定プロセス:公開の審議と非公開の起案
GPLv3の策定プロセスについての唯一の公開情報は2006年1月にリリースされたプロセス定義(Process Definition)の文書であるが、間接的にはどんな情報であれGPLv3サイトの残り部分から収集できる。現在はドラフト第2版への反応が次々に寄せられると共にドラフト第3版の起草が始まっており、より完成度の高い答えが明らかになりつつある。NewsForgeはGPLv3の策定プロセスに携わる人々の何人かに話を聞いた。特にSoftware Freedom Law Center(SFLC)の弁護士でGPLv3の主だった起草者の1人でもあるRichard Fontana氏から彼自身の見解を聞くことができた。クライアントであるRichard Stallman氏とFree Software Foundation(FSF)への配慮という弁護士としての職業的倫理観による縛りがあることを認めながらも、彼の発言はGPLv3の策定プロセスを初めて明らかにする内容となっている。Fontana氏の説明によると、このプロセスでは、法的文書に対するものとしては前例のない審議に続いて、ごく少数の専門家による濃密な取り組みを通じて各コミュニティ間の合意形成が期待できるような文面が作成されるという。
意見の収集
Fontana氏は「公式な形と非公式な形」を織り混ぜた、意見の収集方法についてまず説明してくれた。GPLv3のWebページでは、現時点のドラフトに対するコメントを閲覧し、自分のコメントを登録することができる。Fontana氏によると、こうしたコメントは「きわめて入念かつ体系的に」分析されるそうだ。
またときにはもっと非公式な形で意見が集められることもある。たとえば4月にブラジルで行われたGPLv3カンファレンスでは、ある発表を聞いたFontana氏がその後で発表者に意見の詳細を聞きに行ったという。
しかし、非公式な意見の多くは策定プロセスの実行開始時に組織された4つのディスカッション・コミッティーから寄せられたものだ。4つのコミッティーは130名以上のFLOSSコミュニティのメンバーで構成されており、その立場によって大まかに次のように分かれている。
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コミッティーA:Perl、Apache、GNOMEといった主要なフリーソフトウェアプロジェクトの代表者から成る。
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コミッティーB: MySQL、Cisco Systems、Novell、IBM、Red HatのようなGPLソフトウェアの主要なディストリビュータの代表者から成る。こうしたディストリビュータの多くは主要な特許保持者であり、特許法の専門知識を有している。
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コミッティーC: 各企業、大学、行政機関など、フリーソフトウェアを利用している主要な組織の代表者から成るが、その大半は米国の組織である。また、このコミッティーにはソフトウェアを取り巻く法律および政策の問題についての専門家も含まれる。
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コミッティーD:「DebianのDon Armstrong氏やBenjamin Mako Hill氏や、OpenOffice.orgのLouis Suarez-Potts氏など、知識派ハッカー」とFontana氏が呼ぶメンバーらの集まり。
「4つのコミッティーはどれも完全に統制された組織ではない」とFontana氏は話している。コミッティーの編成は、GPLに対する各種コミュニティおよび関係者層の利害関係が明らかになるように行われた。軋轢を生みかねない立場の相違にも関わらず、各コミッティーはこれまでのところ「とてもうまく機能している」とFontana氏は述べている。「これらのグループは、必ずしも一般に考えられているほどかけ離れた存在ではない。ときには、大企業からの参加者が多数いるコミッティーがフリーソフトウェアのハッカーで構成されるコミッティーと同様の懸念を示すこともあった」
それぞれのコミッティーは独自の組織運営を行っており、メンバーが必要と考えるサブコミッティーが形成される。「コミッティーCでは実際にサブコミッティーが形成されている。現在、我々は、とりわけDRMや特許のような難しい問題についてコミッティーどうしが容易に対話できる方法を模索している」とFontana氏は語る。
ほかのコミッティーや個人のメンバーは、新しいメンバーの募集ほか、別のコミッティーの監査役としての働きも担っている。たとえば、Benjamin Mako Hill氏は次のように語っている。「多分6人ほどからアプローチがあった。彼らの多くは解決したい問題を抱えていて、私はコメントの保存に協力した。ほかの何人かは委員会への参加を望んでいたが、それも実現できた。」
チームとして、また個人としても、コミッティーのメンバーは問題を提起し、起草者との協議を行う。ドラフト第2版の策定プロセスには「悠長なことに」何週間もかかっていたが、ドラフト公開の期限が迫ると、起草者らはコミッティーに対して「最初のフェーズ中に作業を終え、明確になった問題を我々が検討できるように伝えてもらいたい」との要請を行った、とFontana氏は述べている。
ドラフトの作成
審議プロセスとは対照的に、実際にドラフトを書く作業は非公開で行われている。「ドラフトの作成そのものは内部で行われ、その議論に参加する資格があるのはStallman氏とそのお抱えの弁護士だけである。つまり、各コミッティーがこの議論に参加することはない」とFontana氏は話している。
さらにFontana氏は、GPLv3の文書化が基本的にRichard Stallman氏とEben Moglen氏 ― 前バージョンのGPLに携わった両ベテラン ― そして彼自身の手で進められていることを明らかにした。
また、FSFにおいて前GPLコンプライアンスエンジニアを務めたDavid Turner氏もGPLv3策定プロセスの議論に「相当な」貢献をしている。現行ライセンス(GPLv2)に5年間携わった経験を持つTurner氏は半ば真剣にこう話している。「バージョン2の大半は記憶していたが、バージョン3に関わるようになってからは、どの条項がどちらのバージョンかわからなくなった」
ドラフト作成に携わるメンバー、特にStallman氏とMoglen氏には出張が多いため、作業の一部は電話または電子メールで行われている。ただし、Fontana氏によると「重要な作業の多く」は顔を突き合わせての議論で進められているそうだ。Fontana氏自身は昨年12月にSFLCの仕事に着手して以来、「ほぼフルタイムで」この活動の取り組んでいるという。「仕事はほかにもいくつかあるが、ほとんどの時間はFSFのGPLv3の仕事に費やされている」
起草者ら自身はプロセス定義文書の縛りを受けており、文面の作成は概してメンバー間の「協調作業」になっている。しかし、いったんドラフト作成が始まると、意見を求めるためにその経過がコミッティーに送り返されることはない。さらに「最終的な決定を下すのはRichard Stallman氏であり、法律家たるMoglen氏と私はその過程で法的な助言を行うことになる」とFontana氏は述べている。
次のステップ
ドラフト第3版への取り組みが始まり、GPLv3はより密度の濃いフェーズに入ったとFontana氏は見ている。「我々はドラフト第2版が、ライセンスに絡んだ多くの頭の痛い問題を解決してくれたものと見込んでいる。今度は、第2版で十分に解決できなかったより難解な問題に注力したい」(同氏)。メディアにおける反響から判断して、こうした問題には特許およびデジタル著作権管理(DRM)テクノロジに関わる言い回しが含まれることになるだろう。
主要な利害関係者からまったく同意が得られなかった場合はどうなるのかと尋ねたところ、Fontana氏は次のように答えた。「策定プロセスに遅れが生じることは考えていない。GPLv3のプロセス定義文書に示したスケジュールを守るつもりだ。今後、我々がすべきことは、さまざまな問題における合意の形成に向けて邁進することだ」
GPLv3策定のために生み出されたプロセスは、GPLに続く改訂を昨年Stallman氏がほのめかしたGNU Free Documentation License(FDL)など、その他のライセンス改訂のためのテンプレートにもなり得る。しかし、Fontana氏は今回のプロセスがもっと大きな意味を持つこともあると考えている。
「我々はこれまで行われていなかったことに取り組んでいる」とFontana氏は語る。「これほど長期間にわたってこのレベルの公開審議を行ったライセンスは今回のGPLv3が初めてだ。従来は、誰かがおそらくは法律家の助けを借りてライセンスを書き、公開するというプロセスが取られている。我々が提示しているのは、この類の文書を作成するためのまったく異なった方法だ。また、このプロセスはライセンスのドラフト作成以外にも適しているのではないかと思う。数多くの問題に対して意見の異なるさまざまな関係者層に影響を与える条約や標準規格のような法的文書など、類似の文書をどのように起草できるのかを世界に示すよい例になるかもしれない」
GPLv3のプロセスがそうした影響力を持つかどうかは、GPLv3がどれだけの合意を得られるかに間違いなく依存するだろう。そのうちにGPLv3の策定プロセスは折り返し点を迎える。Fontana氏は「この先も変化が生じることを想定している。議論はまだ終わっていないのだから」と語った。
Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクタで、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。
NewsForge.com 原文