IBM、セキュリティ・ベンダー大手のISSを13億ドルで買収へ──セキュリティ・オンデマンド事業を本格展開

 米インターネット・セキュリティ・システムズ(ISS)の買収を目指すIBMの動きは、重要な分野の製品と専門知識を買収によって増強するという同社の戦略の新たな実例と言える。ISSを13億ドルで買収するというIBMの提案が受け入れられれば、IBMにとって5番目に大きな規模の企業買収となる。

 IBMは、2週間ほど前にも、エンタープライズ・コンテンツ管理ソフトウェア・ベンダーのファイルネットを16億ドルで買収すると発表している。同社は8月23日、規制当局とISS株主の承認を受けたうえで、今年第4四半期中に買収手続きを完了させたいとしている。

 ISSは、世界各地で1万1,000を超える顧客が導入しているデスクトップPCやサーバ、コンピュータ・ネットワークを対象に、ウイルスや悪意のあるプログラムなど、インターネットにまつわるセキュリティ上の脅威から予防的に保護できるソフトウェア、ハードウェア、サービス、コンサルティングを提供している。同社のライバルは、シマンテックやマカフィーだ。

 IBMグローバル・サービセズのインフラストラクチャ管理サービス担当ゼネラル・マネジャー、バル・ラーマニ氏は、8月23日に行われたコンファレンス・コールで、「セキュリティは、IBMにとって戦略的な成長分野だ」としたうえで、ISSの買収によって、とりわけ管理サービスの分野でIBMの立場を補強できると強調した。

 ラーマニ氏は、ITセキュリティ管理業務を信頼できるサードパーティにアウトソーシングしようする顧客が増えているため、今後、管理セキュリティ・サービス市場だけで220億ドルの規模になると見積もっている。

 同氏によると、IBMは、「セキュリティ・オンデマンド」の提供に関してISSがこれまでに達成した成果を生かし、自動化できるセキュリティ機能を増やして顧客がこれらの機能を手作業で有効にしなくても済むようにしたいと考えているという。

 そのうえでラーマニ氏は、「われわれは、セキュリティに対する顧客のさまざまな不安を単純かつ自動化された方法で総合的に管理するというビジョンを共有している」と強調する。

 ISSの社長兼CEO、トム・ヌーナン氏は、インターネットのセキュリティに対する現在の業界のアプローチについて、高度に組織化され、十分な資金を持つ悪徳ハッカー・グループの脅威と戦うにはもはや不十分と指摘する。

 「これまでは、コンピュータ・ウイルスを止めるためにウイルス対策ソフトウェアを買収、スパイウェアを止めるためにスパイウェア対策ツールを買収、さらにスパムを防止するために電子メール保護ソフトウェアを買収していた。しかし、どれも今後のニーズに対応できるだけの拡張性がない」(ヌーナン氏)

 IBMは、最近買収した他の企業と同様、ISSについても、可能な限り既存の業務体制を維持しようとしている。このためISSは、IBMグローバル・テクノロジー・サービセズ傘下のインフラストラクチャ・マネジメント・サービセズ内で統合事業部門として運営されることになっている。

 IBMのラーマニ氏は、「いかなる意味でも、ISSがバラバラになるのは好ましくない」とし、およそ1,300人という現在のスタッフの数を減らすことはまったく考えていないと付け加えた。

 ISSのヌーナン氏は、「当社は、セキュリティのページに何も書かれていなかった時から活動を行っており、過去12年間にわたってセキュリティ業界に大きく貢献してきた。今われわれは、ステップアップして新たな挑戦に立ち向かおうという決意を固めている」と強調した。

 ちなみに同氏は、ISS設立者のクリストファー・クラウス氏とともにIBMに移籍することになっている。

 エンタープライズ・ストラテジー・グループの上級アナリスト、ジョン・オルトシク氏によると、ISSがその確立に貢献してきたインターネット・セキュリティ・ソフトウェアとサービスの市場が飽和状態になるなか、ISSとしても再出発の必要に迫られていたのだろうと説明する。

 「ISSは、セキュリティ分野において前人未踏の新たな地平を切り開いてきた。同社は尊敬を集めたが、次の飛躍(エンタープライズ・セキュリティ・サービス・ベンダーになること)に十分な規模まで会社を大きくすることができなかった」(オルトシク氏)

 同氏は、IBMがISSの買収に乗り出したことに少し驚いたという。ネットワーク・セキュリティ・デバイスを出荷しているISSよりも、ノーテル・ネットワークスやファウンドリー・ネットワークスといった企業のほうが、買収候補として有力と見ていたからだ。

 しかし、フォレスターの上級アナリスト、ポール・スタンプ氏は、ISSと手を組むことにより、「(IBMは)セキュリティ分野でどのベンダーよりも幅広いニーズに対応することができるようになる」と分析する。

 今後IBMは、ISSが培ってきたセキュリティ分野のノウハウを手に入れることにより、サービスやソフトウェア、あるいはITサポート契約の中に組み込むといった方法で、その知識と技術を顧客に提供できようにすると見られる。

(チャイナ・マーテンス/IDG News Service ボストン支局)

提供:Computerworld.jp