今なお時代を泳ぐSeaMonkey

2005年、MozillaプロジェクトはFirefoxとThunderbirdへと活動の中心を移した後、それまでのMozilla Suiteの開発を打ち切った。しかし、この開発は完全に中止されたわけではなく、Mozillaプロジェクトは、SeaMonkeyという名称でMozilla Suiteの開発をコミュニティが継続できるためのインフラストラクチャを提供した。SeaMonkey 1.0.4が最近リリースされたので、これを機会にSeaMonkeyのことを調べ、現時点での出来を確認することにした。健闘しているSeaMonkeyスイートだが、FirefoxおよびThunderbirdに早くも押され気味である。

SeaMonkeyは依然として「一切合切の詰め込み」方式をとっており、ブラウザのNavigator、IRCクライアントのChatZilla、HTMLエディタのComposer、電子メールおよびニュースグループ・クライアント、アドレス帳コンポーネントのすべてが1つの巨大なアプリケーションに統合されている。個別に分かれたMozillaアプリケーションでSeaMonkeyの全機能を揃えようとすると、Firefox、Thunderbird、Firefox用の拡張機能ChatZilla、それにNvu(Composerコードベースを使って作られている)など別のHTMLエディタをインストールしなければならない。

また、LinuxではFirefoxとThunderbirdの相性があまりよくないという不満を聞いたこともある。使っているディストリビューションにもよるが、FirefoxからThunderbirdを開くためにmailtoリンクを使ったり、ThunderbirdからFirefoxを開くためにURLを使うのは面倒なことがある。すべてのアプリケーションが1つのスイートとしてまとまっていれば、この問題は避けられるわけだ。

ブラウジング、電子メール、IRCの基本アプリケーションとしてSeaMonkeyを数日間使ってみたが、SeaMonkeyの処理速度と品質はFirefoxと同程度のようだ。サイトの閲覧時にレンダリングが正しく行われなかったりAJAXを利用したサイトでうまく動作しないといった問題は少しも起こらなかった。Gmailが利用できず、digg spyのようなコンテンツがうまく動作しないのは少し気に掛かったが、そのほかはすべて問題なく動作していた。SeaMonkeyのNavigatorもまた、私のUbuntuシステムでテストした限り、安定して動作していた。

SeaMonkeyの電子メールクライアントを使用していると、1つ奇妙な不具合に遭遇した。新規メールメッセージの作成時に、メッセージの本文にまったくテキストを入力できない、つまり、メッセージ作成のウィンドウが入力を受け付けてくれないという状態になったのだ。ただし、この問題が起きたのは一度きりで、SeaMonkeyを起動し直すと起こらなくなった。ちなみに、私が利用したのはLinuxビルドで、Ubuntuが動作するAMD64システムで実行していた。

ChatZillaについては、SeaMonkey用のバージョンがFirefox拡張機能のものよりも少し古い点を除けば、両者の間に大きな違いは見当たらなかった。SeaMonkeyのChatZillaはバージョン0.9.67であるのに対し、最新のFirefox拡張機能のものは0.9.75である。

ユーザにとって抗しがたいSeaMonkeyの魅力的な特徴として、ローミングプロファイルに対応している点が挙げられる。Mozilla Suiteと同様、SeaMonkeyは「ローミングアクセス」サーバに関するプロファイルの保存に対応している。ブックマーク、アドレス帳、クッキー、パスワード、閲覧履歴をはじめ、多くの要素の組み合わせを保存できる。使用マシンを頻繁に切り替えるユーザにとっては便利な機能である。

以上のように一度限りの不具合が発生したほかは、SeaMonkeyにバグや安定性の問題は見つからなかった。何年も前にMozilla SuiteやNetscape Suiteを利用したときの安定性は十分とは言えなかったが、それに比べると著しい改善である。私は建前としては統合スイートを好むのだが、安定性が十分でなかった場合はスイート全体がクラッシュしたときに大きな問題になる。ブラウザのセッションが中断されるだけでなく、作成中の電子メールメッセージがあれば一緒に消えてしまうからだ。

SeaMonkeyに欠けているもの

全体的に見るとSeaMonkeyとスタンドアロンの各種Mozillaアプリケーションとの違いはそれほど大きくはないが、Mozillaアプリケーションに搭載されている数々の捨てがたい機能がSeaMonkeyには用意されていない。

たとえば、SeaMonkeyにはRSS/Atomのネイティブサポートがないため、ブラウザでライブブックマークを使うことができず、Thunderbirdでは可能だったメールおよびニュースグループ・クライアントでのフィードの購読ができない。また、私が頼りにしている機能の1つである検索バーも見当たらない。Ctrl-kキーを押すだけで検索バーにジャンプしてGoogle検索を実行できる機能にすっかり慣れてしまっているので、この点にはすぐに物足りなさを感じた。

SeaMonkeyには、Firefoxの新しいオプションで、割り当てキー1つでキャッシュやクッキー、ダウンロード履歴の消去が可能な気の利いた「プライバシー情報の消去」機能もない。

SeaMonkeyにおける拡張機能への対応もまだまだこれからという状態だ。SeaMonkeyでも一部の拡張機能は利用できるが、その管理はFirefoxほど容易ではない。RSS/Atomフィードを利用するために拡張機能Sageのインストールを試みたところ、正常にインストールできたように見えたのだが、実際にはメニューにもサイドバーにも現れなかった。また、拡張機能のアンインストールや無効化を簡単に行う方法もないようだ。

SeaMonkeyでは一昔前の雑然とした「Preference(ユーザ設定)」ダイアログも特徴になっているが、ほとんどのユーザには大きな問題にならないのではないかと思う。ユーザ設定を変更する頻度はそんなに高くないはずだからだ。

SeaMonkeyに欠けている機能のうち、私が非常に重大だと考えているのがFirefoxやThunderbirdにはある自動アップデートの機能である。ブラウザのセキュリティはユーザには大きな関心事であり、セキュリティパッチの自動通知や自動アップデートは不可欠なものだ。また、アップデートの確認や承認、FirefoxまたはThunderbirdの再起動をしなくても拡張機能の最新版が取得できる、拡張機能に対するアップデート機能も便利である。しかし、SeaMonkeyではそう簡単にはアップデートできないのだ。

その他の部分に関しては、SeaMonkeyのComposerに匹敵するものはもはやMozillaには存在しないが、Nvuがある。Nvuは、CSSエディタやフォーム生成ツールなどComposerにない機能を多数提供しているが、Firefoxやその他のブラウザとは十分に統合されていない。SeaMonkeyのComposerでとても気に入った機能が、閲覧したページをComposerで開くことができるというものだ。ただし、ComposerとNvuでは、scpやsftpを使ったファイルのアップロードはできない。

オープンソースの利点

統合スイートのアプローチには多くの利点と共にいくつかの欠点もあるが、FirefoxやThunderbirdで愛用している機能のすべてがSeaMonkeyに揃っていたとしたら、すぐに私はこの統合スイートに乗り換えていただろう。だが現状では、SeaMonkeyはやや時代遅れの感がある。

この点に関して実に印象的なのは、それでもSeaMonkeyが存在していることだ。大半の人々は新しいバージョンへの移行が何度も必要になるものよりもずっと使い続けられるアプリケーションを評価する可能性が高い、と私は確信している。しかし、独占的ソフトウェアを使っている場合、そうした長期的な選択肢は成立しない。

このような状況でも、ある開発者グループの存在によって、FirefoxとThunderbirdを別々に揃えるよりインターネット・アプリケーションの統合スイートを好むすべてのユーザのために、オリジナルのMozillaスイートは生き長らえている。その理由はMozillaがオープンソースだからであり、Mozillaチームがプロジェクトを存続させるためのインフラストラクチャの提供に協力的だったからである。

たとえごく一部のユーザにしか訴求力がないとしても、SeaMonkeyはオープンソースの可能性を思い出させてくれる役目を果たす。何名かの開発者が取り組みの継続に関心を寄せている限り、このアプリケーションを使いたがるすべての人々のためにSeaMonkeyは存続していくだろう。これはすばらしいことだ。

NewsForge.com 原文