GPLv3委員会に対するLinus Torvalds氏の意見への反論

Free Software Foundation(FSF)がGNU Public Licenseバージョン3(GPLv3)のドラフトを作成するために組織した委員会についてLinus Torvalds氏は厳しいコメントを残している。しかし、NewsForgeが確認できた範囲内で、ドラフト策定のプロセスに実際に関わったメンバーの中に、FSFがフィードバックに耳を傾けようとしないというTorvalds氏の評価に賛同する者は誰一人としていない。

Stephan Shankland氏の話では、GPLv3のドラフト第2版が公開された直後にTorvalds氏は次のように述べたという。「FSFはフィードバックに関心すら示していないようだ。FSFは業界のさまざまな立場の人々から意見を集めるためにいくつかの「委員会(committee)」を組織しているが、その取り組みプロセスについて私が聞く限りでは、委員会はフィードバックを無視して自分たちの好き勝手を行っていたのだ」

NewsForgeがこの発言について確認を求めたところ、Torvalds氏はこう応じた。「まったく私の言葉どおりだ。GPLv3の経過については少しも満足していない。私にはRMS(Richard M. Stallman氏)が始めから自分のやりたいことを十分わかっていたように思えてならず、GPLv3の議論の大半はそれをどのように説明するかという点を掘り下げてきたに過ぎない。この議論によってGPLの内容が明確になった(そして改善も行われるとよいが)のは確かだが、その結果は、少なくとも私の知る限り、GPLv2よりも粗悪なものになっているように見える」

130名を超える人々が4つの委員会に分かれてこの策定プロセスに携わっていることを考えると、Torvalds氏の意見に賛同する人物が何名かいてもよさそうなものだ。しかし、私の依頼に応えてコメントをくれた人々の中にTorvalds氏と同意見の人物は1人もいなかった。

ドラフトの策定プロセスを監督しているSoftware Freedom Law Center(SFLC)はTorvalds氏ほどの重要な関係者とのあらかさまに対立を望まなかったためか、同氏の意見に対するコメントを差し控えたが、GPLv3委員会のメンバーはすぐさま策定プロセスを擁護する態度を示した。委員会とは名ばかりだというTorvalds氏の見方とは大きく異なり、明解なコメントを寄せてくれた委員会のメンバーたちは、FSFが彼らの意見を取り入れる方針を採ってきたことを強く主張している。

GNOME Foundationの前理事Luis Villa氏は次のように話している。「GPLv3が我々ではなくFSF自身のライセンスだということを考慮すれば当然だが、策定プロセスの応答性は概ね良好だ。フィードバックを無視できるあらゆる権利が揃っているにもかかわらず、FSFからは丁寧かつ思慮深くフィードバックに耳を傾けているという印象を受けるし、最新のドラフトにもそれが反映されていると私は思う」

法律事務所Goodwin Procterの共同経営者でフリーライセンスの専門家でもあるIra Heffan氏は「委員会A(コミッティーA)のメンバーとしてのひいき目もあるかもしれないが、FSFはさまざまな立場の理解関係者からの懸念の声を聞くのに相当な時間と労力を費やしているようだ」と語っている。こうした通常のプロセスはFSFと何千人という関係者との間の交渉になる、ともHeffan氏は説明している。

またコメントをくれた委員会のメンバーからは、策定プロセスについて不満を漏らす委員がいるという報告もなかった。「ほかの委員から不満の声を聞いたことはない」とOpenOffice.orgのコミュニティ評議会の議長でコミュニティの管理者でもあるLouis Suárez-Potts氏は話している。DebianプロジェクトのVilla氏やDon Armstrong氏からも、これとほぼ同じ語り口で同内容のコメントが出ている。

ezPublishとMozillaに関わっているZak Greant氏は、策定プロセスについてより具体的に語ってくれた。FSFは、ソースコードをバイナリと共に配布する要件を述べた第6条に対する彼の最初の意見に目を留めたばかりか、「もう少し詳しく説明してほしい」と要請してきたという。さらにGreant氏は「言及していなかったその他の点についても」意見を求められた、と補足している。

Debianの主要なメンテナであり、フリーライセンスに関する豊富な経験を持つBenjamin Mako Hill氏もまた、委員会による策定プロセスは順調に機能していると確信している。「多分6人ほどからアプローチがあった。彼らの多くは解決したい問題を抱えていて、私はコメントの保存に協力した。ほかの何人かは委員会への参加を望んでいたが、それも実現できた。委員会にはTorvalds氏も参加できるはずだが、彼は多忙のあまり参加できなかったのだと思う」

また、Hill氏はGPLv3のドラフト第1版から第2版への変更について「ほぼすべての変更点からその元になったコメントを参照できる」と述べている。

さらにHill氏はTorvalds氏のコメントに対して直接的な批判もしている。ドラフトの第1版と第2版にTorvalds氏が反対している主な理由はデジタル著作権管理(DRM)に関する言及部分にあると述べたうえでHill氏は「今回はDRMへの意見がそれほど大きな議論の対象になっていないが、FSFの該当部門には相当な量の働きかけが行われてきた」と語っている。

数年前にFSFがGNU Free Documentation Licenseについて実施した審議会は「基本的にでっち上げに近いものだった」ことをHill氏は認めている。「意見を求めはしたが、ほとんどすべては完全に無視されていた」(同氏)。しかし、今回のGPLv3のドラフト第1版から第2版への改訂は、FSFがさまざまな意見を反映していることを証明している、と彼は述べている。「GPLv3の策定プロセスは前例がないほどオープンなものだ。似たような策定プロセスをとるライセンスで、これほど手間隙をかけてどんなことについても関係者に意見を求めるライセンスは聞いたことがない」と彼は結論付けている。

一方でHill氏は、特に特許に対する言及については、まだまだ多くの作業が残っていることを認め、次のように語っている。「当然、最終的には1つのライセンスとしてまとまることになるが、必ずしも各関係者の希望がすべて満足されるわけではない。すべてがRichard M. Stallman氏の思いどおりになるわけでもない。Linus Torvalds氏もまた然り。これは関係者全員が歩み寄るためのプロセスなのだ」

おそらくTorvalds氏の意見は、彼の具体的な懸念事項、とりわけDRMへの対応が不十分だという主張を踏まえて目を通す必要があるだろう。だが実際には、DRMへの対応は行われている。改訂プロセスの責任者であるEben Moglen氏は、ドラフト第2版での変更点のいくつかは特にTorvalds氏の懸念に応えて行われたものだ、とNewsForgeのインタビュー(OTP翻訳記事)の中で具体的に述べている。その変更が、FSFとは観念上の相違点を抱えるTorvalds氏の満足のいくものでなかったことは明らかだが、だからといって策定プロセスそのものが見せかけのものだと非難する理由にはならない。

ときおりFSFが権威主義的な厳格さの片鱗を見せているのは事実だが、今回のように心からコミュニティに意見を求めている場合は、なおのことGPLv3策定プロセスを非難する理由は見当たらない。Torvalds氏の意見は不適切で根拠のないものだと言わざるを得ない。

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクタで、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に記事を掲載しているコンピュータジャーナリストでもある。

NewsForge.com 原文