OSCON、第2日
Executive Briefingは、Tim O’Reillyの講演で幕を開けた。Web 2.0とそれがオープンソースに突きつけた問題を取り上げ、特に、コードは非公開だがアクセスは開かれている形でサービスが提供されている現状を指摘して、そうした状況下での「オープン」の意味を論じた。Google Mail、Search、del.icio.us、Flickrなど、広く普及し「自由」に使えるがソースコードはデータセンターの中に秘蔵されているアプリケーションが多数あるというのだ。
これらのサービスでは、仮にソースコードが公開されたとしても、ほとんどの人には実行できないだろう。たとえば、Google Searchの場合、動かすには数千台のコンピュータが必要だ。Googleに蓄積されたデータは言うまでもないという。
そして、データを俎上に上げたい、それが肝心だと語った。Web 2.0サービスの場合、そこに蓄積されているデータが本当に「自由に」使えるかどうかを考える必要があるというのだ。自分が利用しているサービスから自分のデータを役立つ形で抽出できるだろうか。自分が提供したデータを自分で管理できるだろうか。たとえば、写真をFlickrにアップロードしたとする。その写真に付けられたメタデータ――コメントとタグ――を取り出すことはできるだろうか。その写真を別のサービスに移せるだろうか、それとも、始めからやり直さなければならないのだろうか。
O’Reillyは、Web 2.0モデルの登場で「オープンソース・ライセンスは時代遅れ」になったとも述べた。たとえば、GNU General Public Licenseには、業務目的でGPLコードを修正し社内にのみ配備する場合の配布要件がないという。
しかし、年内に予定されているGPLの新バージョンはホステッド・アプリケーションにも十分対応できること、近年の状況に対応したAffero General Public License(AGPL)があることについては触れていない。
また、私には、Web 2.0アプリケーションの重要性を過大評価しているように思われる。Webベースのアプリケーションは生まれたばかりだ。自分のコンピュータ上で動くソフトウェアに、すぐにも取って代わるとは思えない。ほとんどの人が使う大半のソフトウェアは依然として従来の方法で流通したものであり、それは当分の間は変わらないだろう。少なくとも、Webベース・サービスの信頼性と機能性が十分に高くなるまでは。
Microsoftとオープンソース
この日のイベントの中で興味深かったのは、Open Source Initiativeでも活躍しているインテルのDanese Cooper対MicrosoftのBill Hilfの討論だった。Cooperがオープンソース・コミュニティに対するMicrosoftの態度を巡ってHilfを槍玉に挙げる一方、HilfはMicrosoftはオープンソース・コミュニティから学ぼうとしていると述べ、オープンソース・コミュニティと協力するための施策とされるものを挙げて防戦していた。
たとえば、Microsoft Office向けのOpen Document Format(ODF)プラグインを取り上げ、データをODFで保存したい企業とのオープンかつ協同的な活動の一つだと述べた。しかし、OfficeでODFをサポートせずに済ませようとしてMicrosoftが行っているさまざまな妨害活動については触れようとしない。
Cooperが、Groklawを見たことがあるか、ODFプラグインはODFに対する最適なソリューションになっていないという報告があるが知っているかと尋ねると、Hilfは知らないと答え、ODF仕様とMicrosoftのXMLフォーマット仕様に違いがあることを指摘してプラグインに関する問題を覆い隠そうとした。
Microsoftはオープンソースに対する自身の姿勢に関する印象を和らげようと試みてきたが、オープンソース・コミュニティがMicrosoftを受け入れる兆しはない。Cooperが、Martin TaylorがMicrosoftを去れば大方の顰蹙を買った「Get the Facts」キャンペーンなどの「虚偽情報」キャンペーンも終わるだろうかと尋ねると、HilfはMicrosoftは虚偽情報を流していないと反論し、礼儀は正しいが疑うことを知っているフロアから「ブーイング」を招いていた。また、対象ユーザーの違いによるものだとも主張していた。思うに、Microsoftが対象とするユーザーは虚偽情報キャンペーンを見抜くだけの知識を持ち合わせていない人々なのだろう。
Cooperが礼儀正しくも断固としてHilfにMicrosoftとそのオープンソース・コミュニティに対する関係を糾すのを、フロアの人々は本当に楽しんでいたようだ。それだけに、スケジュールが過密なためとはいえ、予定された時間が30分だけだったのは残念だった。
休憩時間にHilfに話しかけてみたが、好人物という印象を受けた。しかし、Microsoftの本質が変わりつつあるようには思えない。Microsoftの視線の先には、今も、世界制覇とプロプライエタリ・ソフトウェアがあり、オープンソースの技術とコミュニティを支援することに関心を持ったとしても、それはフリー・オープンソースの理念によるものではない。オープンソース・コミュニティに礼儀正しく接するようになるかもしれないが、その本質は対立関係であり、オープンソース・コミュニティに何かを与えるようなものではあるまい。
非対称競争とその解消
もう一つ、非対称競争についてのセッションも興味深いものだった。CraigslistやRed Hatなどの小規模企業がMicrosoftやSunなどの老舗企業に挑戦することを可能にしたオープンソースの力をテーマとするセッションである。
O’Reillyを含むパネリストはオープンソース企業が成長するにつれ競合他社の多くの特性を帯び始めていると指摘した。そして、O’Reillyは、オープンソースは非対称競争への挑戦を止めたのかという問題を提起した。
たとえば、Red Hatは販売額でもマーケティングでも規模が大きくなり、無視できない存在に成長した。しかし、一部のオープンソース企業は競合他社よりも遙かに小規模のままでいる。たとえば、Craigslistは主として新聞の案内広告事業に挑んできたが、今もたった22名の従業員で米国を始めとする各国で営業し、わずかな案内広告だけから収益を上げているというのである。
注目企業
午後の最初のセッションは「Who’s on the O’Reilly Open Source Radar?」。登場するのは、基本的に、O’Reillyが来年注目すべき企業としてピックアップした企業だ。オープンソースの世界にいる企業を対象としており、オープンソース製品をリリースしている必要はない。
選ばれた企業やプロジェクトのほとんどに共通するのはデータだ。DabbleDB、Hyperic、Greenplum、Alfresco、Django、Mulesource。いずれも、企業におけるデータの管理や処理を何らかの形で支援している。
ただし、Ubuntuは例外で、この日O’ReillyはUbuntuについて繰り返し話題に上らせ、発足間もないこのディストリビュータがLinuxの世界ではかなり重要な存在であると考えていることを窺わせた。
登壇者は持ち時間10分で自社を紹介し特徴を説明する。ありきたりの口上が大半だったが、中には興味深く内容のある説明もあった。特に、Adrian HolovatyのDjangoに関する紹介とJeff WaughのUbuntuに関するものは秀逸だった。
動向
Radarセッションには、もう一つ面白い趣向がある。書籍販売と求人に基づいてIT市場を俯瞰するのだ。O’Reillyのマーケットリサーチ・ディレクタRoger Magoulasによると、書籍販売は昨年1年間を通して変化はなかったが、求人広告は増加したという。
書籍販売と求人から見ると、RubyとAJAXが目下の成長分野で、C#への需要は上昇中、Javaプログラマの求人は若干縮小気味のようだ。
Microsoft SQL Serverに関する書籍はよく売れているが、これは5年を経てSQL Serverの最初の改訂版がリリースされたためで、SQL Serverの熟練技術者の求人には大きな増加は見られないという。
そのAJAX Webインタフェースについて語ったのは、かつてMicrosoftのアーキテクトで現在はGoogleのエンジニアリング担当テクニカル・ディレクタであるMark Lucovskyだった。
Lucovskyは、また、Googleサービスの開発とMicrosoftの開発とを比較し、Microsoftのアプリケーション開発とGoogleでのやり方の違いについて語った。Microsoftでは、製品のプログラムに機能を追加するのに何年もかかる。たとえば、Lucovskyは2004年にMicrosoft Exchange向けの機能を書いたが、2009年頃にユーザー環境への実際の配備が始まると見込まれる次期バージョンへの搭載は見送られた。つまり、Lucovskyの書いたコードはその次のバージョンになるまで日の目を見ることはない。おそらくは、2013年頃になるだろうという。
一方、Googleアプリケーションは毎週2回程度アップデートや更新が行われているという。
この日最後のイベントは、Mozillaのエンジニアリング担当ディレクタMike Schroepferを迎えての短いセッションだった。Schroepferは、Firefoxの開発、Firefoxエクステンション、資金事情について語った。Schroepferによると、資金のためにMozillaが大きく変わることはなかったが、多くのユーザーにFirefoxなどのMozilla製品をダウンロードしてもらえるように、サーバーとホスティングに資金を容易に投入できるようにはしたという。
Schroepferが挙げた数字の1つに、現時点におけるFirefoxの推定市場占有率があった。それが正確な数字なら興味深い。現在、Firefoxは14%を占め、6000万の実ユーザーがいるというのである。
このSchroepferのセッションもそうだが、極めて短い時間しか割り当てられていないものが多かったのは残念だった。短時間のセッションを多数並べたため、いろいろな話は聞けたが、話が浅薄に終わってしまった。
カンファレンスの登録サイトによると、1日間のExecutive Briefingへの参加費用は最低895ドル。しかし講演の内容がそれに見合うものだったかどうかには疑問が残る。私は少し物足りなく感じた。
夜のイベント
OSCONの参加者は忙しい。午後5時からの2時間の休憩を除いて、この日は午前8時半から午後9時半までイベントが目白押しだった。夜のイベントは教育的な色彩は少ないが、明らかに参加する価値のあるものだった。
まず、Google-O’Reilly Open Source Awards。司会はNat TorkingtonとChris DiBonaだ。「Best Legal Eagle」賞はApacheプロジェクトへの貢献でCliff Schmidtに、「Best Community Activist」賞はFirefoxへの貢献でGervase Markhamに、「Best Toolmaker」賞はValgrindプロジェクトへの貢献でJulian Sewardに、「Best All-Around Developer」賞はSubversionへの貢献でPeter Lundbladに贈られた。
夜のハイライトは、Larry WallのState of the Onion年次レポートだ。明らかにPerlの現況報告なのだが、Wallの話は9割がエンターテインメントで、Perl 6の現況報告は残り1割だ。その中で、WallはPerlの最初のリリースが1987年だったと述べ、もうすぐ20歳の誕生日、「成長した」ものだと述懐していた。
そして、PerlチームはPerl 6の完了予定を言いたがらないが、「Perl 6のほとんど」はクリスマスまでには完成する。最終リリースではないだろうが、二十歳になる日までにPerl 6は巣立ちそうだと述べた。
夜の最後のセッションは、Damien Conwayによる「Da Vinci Codebase」スライドショーだった。参加者はThe Da Vinci Codeのパロディー版紙芝居を楽しんでいたようだ。
OSCONはオレゴン・コンベンション・センターで28日まで続く。26日と27日には展示ホールが一般公開され、誰でも参加することができる。ポートランド近辺にいる方は立ち寄ってみてはいかがだろうか。
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