OpenDocumentを選んだベルギー政府

先月、ベルギーの閣僚会議は、連邦政府の各省庁に対し、文書のやりとりにオープンなファイル形式の使用を義務付ける議案を承認した。そこで認められている標準規格は、現状ではOpenDocument Format(ODF)だけである。これにより、Microsoftに対してオープンスタンダードのサポートを迫る圧力が高まっている。

ベルギーの雇用・情報化担当大臣Peter Vanvelthoven氏は、次のように説明している。「現在、行政文書の作成および交換は、Microsoft Office、Corel WordPerfect Office、OpenOffice.orgなど異なるオフィススイート上で行われているため、ほかのソフトウェアの利用者との文書のやりとりに支障を来すことがある。しかし、XML、とりわけODFを採用すれば、文書の作成および保管のための標準規格ができることになる」

ODFのドラフト版は、5月に国際標準化機構(ISO:International Standards Organization)によって承認されている。最終的な認定が下りればすぐに「連邦政府の各省庁は文書、スプレッドシート、プレゼンテーションといったオフィス文書のやりとりにODFを使わなければならなくなる」とVanvelthoven大臣は話している。

最初の段階では、それぞれの組織がODFファイルを読める環境を整えなければならない。また、各種サービスを継続して提供するための必要な措置をとる移行期間が設定される予定である。「具体的な移行期間は、起こり得る影響を調査した結果と、適切なプラグインの有無によって変わってくるだろう」(Vanvelthoven大臣)。

相互運用性

Peter Strickx氏は、Fedictにおいてアーキテクチャおよび標準規格の統括マネージャを務めている。Fedictとは、ベルギー連邦政府の情報通信技術(ICT)の政策をまとめている政府組織である。「我々がオープンスタンダードを選択したのは、連邦政府各省庁の間で相互運用性を高めたいという理由からだ」と彼は話している。2年前の閣僚会議で、公共部門が調達するソフトウェアにおけるオープンな標準規格および仕様の採用について記されたある白書の内容が認められた。現在の閣僚会議の議案は、このガイドラインを連邦政府の各省庁向けに具体化したものだ。

Strickx氏は「ODF文書の作者は、受け手側で文書の閲覧および編集が可能なことがわかっている。ODF文書の閲覧と編集は、プラグインを使って対応するものも含めて、オープンスタンダードに対応したすべてのワープロソフトで可能だからだ」と主張している。

オープンスタンダードの重要性は、Microsoftも強調している。Microsoft Belgiumの広報担当マネージャFrank De Graeve氏は、次のように述べている。「我々は可能な範囲でオープンスタンダードを使用するというベルギー政府の決定を支持する。また、XMLベースのファイル形式が重要な情報を柔軟な形で保存するための最善の解決策であるという点についても同意している」

ただし、閣僚会議によってODFの使用が義務付けられるのは、連邦政府の各省庁に限られている。これは、市や県には、文書の交換にオープンスタンダードの使用が求められないことを意味する。また、市民や企業と、政府とのやりとりについても同様である。「連邦政府の各省庁は、依然として組織内ではほかのファイル形式を使うことが認められる。Fedictがオープンスタンダードの利用を推進する理由は、組織間における相互運用性にあり、各組織が内部で何を使うかについてはFedictは関知しない」とStrickx氏は話している。

門戸を開くオープンスタンダード

ベルギーの閣僚会議が現時点で認めているフォーマットはODFだけである。以前の議案には、Office 2007に採用される予定のMicrosoftのOpen XMLフォーマットも入っていたが、現状Open XMLに対応したソフトウェアが市場に出ていないという理由で削られた。

今のところ、Open XMLは公認フォーマットに含まれていないが、ベルギー政府はMicrosoftのフォーマットを完全に却下したわけではない。Open XMLに対応した製品が現れ、同フォーマットが標準規格としてISOに提案されれば、ベルギー政府がOpen XMLを受け入れる可能性もある。反対に、MicrosoftがODFをサポートせず、Open XMLフォーマットがオープンスタンダードとして認められなければ、同政府の省庁はMicrosoft Officeを切り捨てるだろう。したがってMicrosoftに残された選択肢は、Open XMLをオープンスタンダードとして認めさせるか、ODFをサポートするかだ。後者は、Microsoftの直接の競争相手によって実現される可能性がある。OpenDocument Foundationが、ODFをサポートするMicrosoft Office用のプラグインに取り組んでいるのである。

つまり、ODFを採用するからといって、ベルギー政府はMicrosoft Officeを切り捨てようとしているわけではない。Fedictは、ODFに移行する適切な戦略を定めるために、どのような影響が出るかの調査を行うことになっている。ただし、Microsoft Office 2007のリリースまたはISOによるOpen XMLの承認が済むまでFedictが待つことはなさそうである。いずれも時期が明確になっていないからだ。

Open XML

Open XMLが公式なオープンスタンダードとして認められる途上にあることを、MicrosoftのDe Graeve氏は次のように主張している。「昨年11月、我々はヨーロッパの標準規格団体ECMAに提出し、現在、承認の手続きが進められている。OpenOffice.orgでOpen XMLファイルを開くプラグインを開発するためにオープンソース・コミュニティがこれらの仕様を使っていることが、Open XMLのオープンスタンダード性を示している。また、ODFに次ぐXMLベースの第2のオープンフォーマットの必要性も証明されている。我々の顧客のなかには、すでにODFを評価して、自分たちのニーズには合わない、と結論を下している組織もいくつかある」

ECMAで認められ次第、Microsoftは、Open XMLをISOの委員会に提出することができる。その後、Open XMLがISOの仕様になれば、ベルギー政府がODFに加えてOpen XMLも採用する可能性がある。「しかし、今のところ、ECMAとISOの各認定手続きがいつ完了するのかは明らかにできない」とDe Graeve氏は話している。認定が得られるまでは、オフィススイートを利用するベルギー政府の省庁にとってODFのサポートが適切な解決策になるかどうかについて、Microsoftは調査を進めているという。「ODFのプラグインが手に入り次第、評価を行う予定だ」(同氏)。

スケジュール

ODFへの移行スケジュールもまた明確にはなっていない。閣僚会議による最初のプレスリリースには、連邦政府の各省庁ではODF文書の閲覧を2007年9月から可能にする必要があること、2008年9月からは省庁間でやりとりする文書にODFだけが認められること、という2つの時期が記されていた。この2007年9月という時期は、閣僚会議後の報道陣との会合でVanvelthoven大臣が明らかにしたものだった。しかし、数時間後にはどちらの時期もプレスリリースから削除された。Strickx氏は、「最初のプレスリリースは、閣僚会議の決定を正しく伝えていなかった。現在、FedictがIT部門の管理者との間でこれらの時期について合意を取ろうとしている。Fedictの案が承認され次第、時期を明らかにする予定だ」と説明する。De Graeve氏は次のように補足している。「プレスリリースを読んですぐ、我々は、詳細な情報を求めてVanvelthoven大臣に連絡をとった。プレスリリースには2つはっきりしない点があった。Fedictが新しいプレスリリースを発表したところを見ると、彼らもまた同じように感じたようだ」

ベルギー政府がMicrosoft製品に代わってどのODF対応製品に移行するかは未定だが、De Graeve氏は次のように述べている。「閣僚会議の決定に対して我々が詳しい説明を求めた理由はそこにあった。また、決定のタイミングも非常に微妙だ。というのも、現在進行中のいくつかの開発に依存しているからだ。Open XMLの認定はまだ完了しておらず、Microsoft Office向けの十分な品質のODFプラグインが現れるかどうかも確実ではないし、それにまだ我々はMicrosoft Office 2007をリリースしていない」

文書のやりとりにODFを採用するというベルギー政府の決定がどのような結果をもたらすかは、まだわからない。その詳細が見えてくるのはこれからだ。ただ、1つ明確なことがある。ベルギーではオープンスタンダードが重視されているため、自社製品が政府で採用されることを望むソフトウェア会社は、オープンスタンダードを採用しなければならない、ということだ。

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