Oracleのオープンソース買収熱
Oracle社は昨年10月、Innobase社を買収し、今度はSleepycat社も買収した。Innobase社とSleepycat社のライセンスソフトウェアはMySQLに含まれているため、MySQL社は将来、これについてOracle社と交渉しなければならなくなる。
Oracle社はMySQL社も買収しようとしたが、MySQL社は独立を維持する道を選んだ。
MySQL社CEOであるMarten Mickos氏は、質問を受けて、同社が目指すのは「独立した存在としての成功」であり、Oracle社によるSleepycat社買収は「オープンソースの力を大いに立証している」と話した。「わたしたちはずっと前から、大手ベンダがなんらかの形でオープンソースを採り入れると予見していました。たとえば、企業買収、オープンソースイニシアチブの設立、古いクローズソース製品のオープンソース化などです。今まさにそのとおりのことが起きているということです」
企業によってオープンソースが所有される危険
Oracle社の買収熱について誰もがMickos氏のように楽観的なわけではない。PostgreSQLの開発者Josh Berkus氏は、「企業によってオープンソースが所有される危険」を以前から懸念しており、Oracle社によるSleepycat社買収は「その典型」であるという。
Berkus氏は、PostgreSQLのように特定企業の支配下にないプロジェクトであれば、単に競合相手を買収するだけのOracle社のような企業に大きく影響されることはないという。だが、MySQLのように特定企業が進めているオープンソースプロジェクトの場合、大きく方向性が変わる可能性がある。たとえば、Nessusだ。
2005年10月、Tenable Network Security社は、GPLをやめ、Nessusの新しいバージョンについてはプロプライエタリラインセンスにすると決定した。このライセンスでコミュニティ・フォークが可能とはいえ、NessusはPostgreSQLやApacheのようにはコミュニティ開発の恩恵を受けられなかった。NessusのGPL版フォークは出ているが、開発者とユーザを今後も長くつなぎとめていけるかどうかは不明だ。
MySQLへの影響は?
Mickos氏によれば、Oracle社のInnobase社買収がMySQLのユーザに与える影響は当面ないという。「InnoDBはGPLに基づいて提供されるので、ライセンスについてそれほど変動はありません。商用ライセンスに対応した現在のInnoDBの契約には、段階的縮小と存続の条項がありますから、ユーザは安全です」
Oracle社の元幹部で現在はSolid Information Technology社のマーケティング/ビジネス開発担当副社長のPaola Lubet氏は、違う考えだ。
Lubet氏は、Sleepycat社とInnobase社が「Oracleの戦略にもたらすもの」はMySQL打倒以外に考えられないという。「これらの技術の進歩と将来は、もうMySQL社の手元にはありません…。こうしたデータベースコードの開発は非常に複雑であり、たとえMySQLがコードを入手できるとしても、MySQLに(Berkeley DBやInnoDBの)開発者はいないのですから」
MySQL以外でBerkeley DBを利用しているプロジェクトにとって、Oracle社のSleepycat社買収はどのような影響があるのだろうか。Berkeley DBがOpenOffice.org、Subversion、Sendmail、OpenLDAP、その他多数のオープンソースプロジェクトで使用されているということは、Sleepycat社の売りでもある。
Sleepycat社の社長兼CEOであるMichael Olson氏は、Sleepycatブログで次のように述べている。「Sleepycat社が開拓して順調に進んできたオープンソース戦略を変える予定はありません。Berkeley DB製品は、これからもオープンソースライセンスとプロプライエタリライセンスの両方で提供されます」Sleepycat社へのインタビュー申し込みには回答がなかった。
Lubet氏は、Oracle社によるSleepycat社とInnobase社買収は「オープンソースの勢いを弱めることになり、この状況はコミュニティにとってもユーザにとっても不利」だという。
特にMySQLには不利であり、「MySQL打倒以外の動機は考えにくい」と同氏は話す。
一方、Oracle社の目的がMySQL打倒だという考えに反対する声もある。Jeremy Zawodny氏は、Oracle社の買収熱の狙いはMySQLだという意見に次のように反論する。
MySQLを追い込むという戦略だとしたら、ずいぶん短期的な見方だと思います。Oracle社が考えているのは、5年先、企業規模のインフラソフトウェアコンポーネントの共有化が進んだときの世界がどうなるか、ではないでしょうか。いま行動しなければ、分け前は少なくなるだけだと予想しているのです。Oracle社がJBoss社その他を狙っているという噂も、こうした考えと完全に符合します。
“伝統的”なOracleソフトウェアを使っても使わなくても、次世代の重要なビジネスアプリケーションを作ろうする人にとってOracle社がワンストップショッピングの場となることができれば、Oracle社は新世界でも重要な位置を維持できるでしょう。そして、そこには同社の重要な収入源であるコンサルティングサービスも含まれます。
Mickos氏も次のようにいっている。「Oracle社の企業買収の理由が、わたしたちに関係あるかどうかはわかりません。オープンソースに参加したいのかもしれないし、Microsoft社、IBM社、SAP社と張り合うためかもしれませんが、わたしにはわからないことです」
Oracle社の動機がなんであれ、同社はその疑問に答えようとしない。電話および電子メールでコメントを求めたが回答はなかった。
今後の動向
オープンソース企業の買収はSleepycat社で終わりではない。噂によれば、Oracle社はZend社とJBoss社も狙っているいるというし、IBM社やHP社などの大手IT企業もオープンソース企業買収を検討していることはほぼ間違いない。
特定のオープンソースプロジェクトに依存している企業は、そうしたプロジェクトが特定団体の気持ちひとつで左右される可能性がないか、また、Sleepycat社、JBoss社、MySQL AB社のように、出資企業の管理なしに存続可能な健全なコミュニティプロジェクトかどうか、よく検討すべきだろう。
Oracle社の動きがオープンソースにとっていいか悪いか、何の影響もないかの議論は別として、Oracle社にとっては賢明な行動であることにまず異論はないだろう。Berkus氏はこう話す。「Larry Ellisonの立場だったらわたしも同じことをするでしょう」
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