無料データベースの登場はオープンソースの実力の証左

このところ、データベースの大手老舗企業が続々と自社製品を無料提供したり、開発をオープンソースに移したりしている。先週も、IBMがDB2 Express-Cパッケージを、プロプライエタリ・ライセンスのまま無料で提供すると発表した。

それ以前にも、IBMは、Cloudscapeをオープンソース化(開発を含む)しており、ほかのデータベース・ベンダーも相次いで軌道を修正している。Oracleは昨秋オープンソース・データベース開発企業Innobaseを買収し、Oracle Database 10gの「初心者向け」バージョンを無料で提供している。Sybaseは、2004年から自社データベースのLinux Express Editionを無料で提供、Microsoftもしばらく前からExpress Editionを公開している。その他、CAもIngresデータベースを2004年にオープンソース化している。

IBMのデータ・サーバー担当ディレクタBernie Stangはフリー・オープンソース・データベースとその開発者たちの意義と競争力を評価し、IBMを含む老舗データベース・ベンダーがフリー・オープンソース・モデルに向かっているのは「開発者コミュニティのニーズと考え方に応えた方がビジネス・チャンスが広がる」という認識があってのことだと述べた。

また、DB2 Express-Cは、オープンな標準とインタフェースを支援するという1990年代に始まり「今も続く活動」の一環だという。「オープンだということはクライアントが柔軟性を得られるということでもあります」と述べ、無料データベースやオープン・データベースあるいはコモディティ・データベースの価値を2年前はまだ十分に理解していなかったかもしれないと述べた。「オープンあるいは無料のデータ・サーバーによって、私たちはデータ・サーバーの利用に大きな可能性があることを知りました」

また、DB2 Express-Cという、従来よりオープンなDB2データベースの無料バージョンを市場に送り出したことはDerbyの開発やCloudscapeオープンソース・データベースに対するIBMの姿勢の変化を示すという見方を否定した。

「いいえ、Derby Projectに負の影響がないことは確かです。この世界の開発コミュニティは1つだけではありませんから」

Stangによると、DerbyとCloudscapeでIBMとデータベース技術関連コミュニティが得たのはピュアJava製品であるが、今回新たに提供されるDB2 Express-Cは高速でテスト可能なDB2の無料バージョンで、しかも高いスケーラビリティを持つデータベースのコア・アーキテクチャとアプリケーション・インタフェースはそのまま継承しているという。

オープンソース・コミュニティの反応

古くからのオープンソース・データベース・ベンダーはIBMの発表を歓迎している。

PostgreSQLのコア・チーム・メンバーJosh Berkusは、次のように述べている。「構成に関する制限で見ると、Express版を出したIBMがOracleを『一歩リード』したといったところでしょうか。ひょっとしたら、IBM、Oracle、Microsoftのコモディティ化競争で最高性能の無料版が飛び出すかもしれないと考えているところです。そうなれば嬉しいのですが」

そして、そのような競争にならなかったとしても、超ハイエンド市場を除いて、データベース管理システム(DBMS)がコモディティ化しつつあることは誰にも否定できない事実だと言う。「OSSプロジェクトにとっては朗報ですね。コモディティ化で活発になりますから。データベースの利用者にとっても朗報です。浮いた資金でほかのことができますからね」

さらに、データベース市場における無料化の動きによって機能や性能による競争が促進され、革新を促すだろうと言う。「DB市場にとって最悪の事態は独占です。革新が完全に止まってしまうでしょうから」

また、定評のあるデータベースの無料「軽量版」が使えるということはオープンソース・コミュニティにとって現実的な開発上の利点があると言う。「新機能は『商用データベースではどのように実装されているのか』といつも考えていますから。無料版があれば、簡単に確認することができます。それに、『Express』バージョンを使って、統合や移行のツールを試行することもできます。もちろん、ライセンスが許せばの話ですが。ユーザーにとっても利点があります。小さなデータベースであれば性能を直接比較することができます」

MySQLのCEOであるMarten Mickosは、次のように語っている。フリー・オープンソース・データベースは無償利用とコードや開発のサポートを提供しているが、商用データベース・ベンダーがそれを真似るということは、MySQLのビジネス・モデルや「オープンソース・データベースが持つ実力の見事な証明」だ。「つい最近まで、老舗DBMSベンダーは私たちを無視し、次に嘲笑し、その後はDBMSビジネスがコモディティ化していくことに抵抗していました」

老舗ベンダーがオープンソース寄りに姿勢を変化させたことは、競争上の脅威によるものというよりも、オープンソース・データベースの実力を証明するものであり、「DBMS市場が実際コモディティ化しつつあるという認識」が正しいことの証拠だと言う。

心境の変化

プロプライエタリ・データベースはオープン化されるという予想を老舗データベース・ベンダーの大方は一笑に付したが、この予言は今現実になりつつある。

「しばらく前から予想していたことです」とMickosは言う。「IBMやOracleに留まらず、Microsoftにも随分前から自社製品の機能を絞った無料版があります。Sybaseも同じです」

Berkusによれば、IBM、Oracle、Microsoft、SybaseはいずれもOSSデータベースには現実的な脅威はないと言い続けてきたという。「そのうち、ローエンド市場向けに無料版を提供するようになりました。そうした市場ではライセンス販売はしていませんでしたから。今は、ライセンス料を割り引いたりバンドルを増やしたりしています。大手4社はどこも通常のビジネスだと言っていますが、その行動を見れば市場の圧力を感じていることが見て取れます。彼らの立場であれば、私もまさにそのとおりのことをするでしょうね。多分、4社中の3社よりは早く無料版の提供を始めていたでしょうが」

老舗データベース・ベンダーが報道発表で何を言おうと、その行動はオープンソース・データベースが自社製品にとって競争上の脅威であると認めていることを示しているという。

値段つきの無料

Mickosは、オープンソース・データベースの圧力で商用ベンダーが軌道を変更したことは自社のビジネスの正しさを示すものだと慎ましく言うが、「無料」の提供や「オープン」な提供の内容が当初と今とでは違ってきている点も指摘する。

「今では、どのベンダーにも無料の製品があります。しかし、注意しなければならないのは、そうした製品はすべてクローズド・ソースであり、意図的に機能が制限されているということです」。これは「それが無料の昼食ではないこと」を示しており、「利用者を非常に高価な商用版に誘導するために」無料の製品には機能制限という「わな」が仕込まれているのだと解説する。「一方、無料の昼食はなくても、私たちの提供するフリー・ソフトウェアの存在を示すことはできます。フル機能を備えた完全なMySQLサーバーがGPLの下で誰でも自由にダウンロードできますし、実際、毎日50,000回ほどダウンロードされています」

「すべてをGPLにするには決心と勇気が必要です。しかし、そうするだけの価値はあります。FOSSコミュニティは、どの企業と比べても力があるのです」

原文