オープンソースソフトウェアとゲーム

現在、多くのコンピュータ処理の領域では、独占的なWindowsベースの世界から提供されるものに勝るとも劣らないプログラムがオープンソースのエコシステムによって生み出されている。ただし、ゲームの領域は別であり、この傾向はしばらく続きそうだ。だが、この魅力的な領域をよく調べると、見通しの明るさを示す発展が数多く見受けられる。

オープンソースのゲームは確かに存在し、その開発の舞台は活気と創造性にあふれている。Linux Game TomeのようなLinuxゲームに特化したサイトを訪れれば、その雰囲気を感じ取ることができるだろう。このサイトではオープンソースのゲームプロジェクトの最新情報が毎日取り上げられている。また、通常は毎週2件のペースで新たなオープンソースのゲームプロジェクトが公表されている。

ところが、たいていは斬新で興味深いアイデアとコンセプトに基づいているにもかかわらず、こうしたプロジェクトの大部分はいくつかの理由から、洗練された本物のユーザの支持を得ることなく、期待はずれの道楽プロジェクトに終わってしまっている。

まずは、適当なオープンソースゲームの貢献者一覧を、使っているオープンソースユーティリティのものと比較してみるとよい。ゲーム開発のプロジェクトにはたいてい1人しかメンバーがいないことに気づくだろう。ゲームの開発者がチームを組んだり、既存のプロジェクトと協力することはめったにない。成功するオープンソースユーティリティの特徴として挙げられる気勢、協力関係、相乗効果が、オープンソースのゲームに見られることもほとんどない。

ゲーム開発というのは、最初は創造的で、楽しく、非常にやりがいのある作業だ。しかし、製品をリリースするまでには、ゲームプレイには必ずしも関係のない機能に大変な労力をつぎ込まなければならない。とはいえ、ユーザの立場からは重要な機能であることに変わりはない。こうしたものとして、メニュー、オプション、グラフィック、堅牢性、パフォーマンス最適化、レベル、シナリオ、ゲームプレイの調整などが挙げられる。

優れたゲームには、卓越したプログラマだけでなく、グラフィックアーティスト、アニメータ、ユーザビリティの専門家、ミュージシャン、効果音のクリエイタも必要である。プロジェクトのほとんどはこうした貢献者を欠いており、そのことが顕著に表れている場合が多い。

対策と見通し

この状況を打開する試みとしてLinux Game TomeのGame of the Month(GotM)プロジェクトがある。このプロジェクトのメンバーは有望なゲームプロジェクトを定期的に選定する。選ばれたプロジェクトには多数の開発者が加わり、互いに能力を発揮し合いながら、より使いやすく楽しいものにすべくゲームの洗練化と顕著な欠点の改善を行う。これはオープンソースゲームの問題への合理的な対処法であり、これまで著しい成果を挙げている。Linux Game Tomeはまたフォーラムも運営しており、ゲーム開発者はそこで共通の問題について議論したり、他の開発者からの援助を求めることができる。

クリエイティブコモンズ(CC)の普及によって、オープンソースソフトウェアの背景にある考え方は他のメディアにも適用され、関連する特定のライセンスに依って制限はあるものの、オープンソースゲームの作者が自由に利用できる質の高いコンテンツが大量に生み出されている。こうしたコンテンツとの連携は期待されるほどの効果をまだあげてはいないが、CCコンテンツのクリエイタ、ゲーム開発者、ユーザはゆくゆくはこの恩恵を大いに享受することになるだろう。CCライセンスの下で音楽再生を行うカーステレオの機能を持ったドライビングシミュレータを考えてみよう。このCCライセンスによってアーティストには然るべき称賛と栄誉が与えられる。実にすばらしいことだ。

面白さと単純さ

だからといって、既存のオープンソースゲームすべての出来が悪いわけではない。多くのユーザを楽しませ、Linuxのディストリビューションに成果物が収められるほどに成熟したプロジェクト数は(ゆっくりとではあるが)着実に増えている。例えば、Foobillard、Armagetron、Chromium B.S.U.、Frozen Bubbleなどは優れたオープンソースゲームだ。

こうしたプロジェクトに共通する属性を探し出せば、壮大なシナリオ、詳細にこだわった舞台設定、あるいは豊富なキャラクタという特徴にとらわれない数少ないプロジェクトであることがわかるだろう。つまり、こうしたゲームには現在の市販ゲームにある複雑さがまったくないのだ。それでも、単純だがセンスがよく、うまく実装されたゲームは、素朴でありながら優雅なグラフィックと一貫した手応えのあるプレイのおかげもあって、十分にプレイを楽しむことができる。

革新性と独創性を備えたゲームの例

オープンソースの利点の1つは、市販製品を取り巻く状況ではより安全で保守的なコンセプトに落ち着いてしまうことが多いのに対し、オープンソースでは自由に革新性と創造性を発揮できることにある。この利点は、特にゲームプレイのモードによく当てはまる。ゲームのモードには革新の余地があり、開発においてそれほど多大な労力を必要としないためだ。

その良い例として、長 健太氏のゲームがある。長氏のゲームはWindows向けに書かれているが、オープンソースでOpenGLやSDLのような標準のライブラリを使用しているため、その多くはLinuxにも移植されている。美しい抽象画と様式化されたグラフィックでまとめられ、滑らかで上品なアニメーションを特徴としている。長氏のゲームは丹念に練り上げられ、バランスの取れたゲームプレイに工夫が見られる。

例えば、Gunroarは多くの点で標準的な縦スクロール型シューティングゲームといえる。だが、得点の仕組みが独特で、敵を破壊するとすぐにその破片が自分に向かって飛んできて得点表示へと姿を変える。また、操作モードにはいくつかの種類があり、同時に2隻のボートを操るモードまで用意されている。このゲームには独自の機能がまだまだあり、その多くはゲームプレイに大きく影響している。例えば、(ステージのボスだけでなく)大部分のボートには損傷しやすい部分があったり、ゲームの進め方によって難易度が動的に調整されたりするのだ。

TUMIKI Fightersも長氏のゲームだが、こちらはさらに想像力に富んでいて独創的だ。これは横スクロール型のシューティングゲームで、おもちゃ仕立ての敵が墜落しているときにその上を飛び越えると敵のブロックを自分のボートにくっつけることができる。その結果、ボートには支離滅裂な方向にブロックがくっついて奇妙な姿になるが、ステージボスを倒すための防御力と火力を得るにはできるかぎりブロックを増やす必要があるのだ。

一方、A7XpgとそのLinux移植版は非常に単純なパックマン風のゲームである。しかし、そのプレイはとても奥が深く、高度な反射神経と経験が要求される。例えば、得点はゴールドに触れるときのボートのスピードによって決まるのだが、ボートのスピードを操作するのはかなり難しい。

長氏のゲームのほかにも、珠玉のオープンソースゲームは他にもたくさんある。例えば、NeverballとNeverputtはリアリティあふれる物理現象とすばらしいグラフィックに力が注がれた非常に楽しいゲームだ。Neverballは障害物の多いフロアを傾けて球をゴールまで転がしていくゲームで、Neverputtはミニゴルフを再現したものだ。これらは共通の優れたゲームエンジンとグラフィックを利用しているのだが、プレイヤーにはまったく別のゲームに見える。両ゲームともリプレイ場面をオンラインで保存する機能も備えている。プロジェクトの成功はこのサイトが好評であることからもうかがえる。

開発者の才能、創造性、協調性とCCコンテンツとの相乗効果によって、オープンソースゲームの開発者たちがプログラムの質を引き続き向上させていくことを我々は強く望んでいる。

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