Red Hatが最優先プロジェクトを発表

Red Hat社の2か年計画が明らかにされ、Linuxコミュニティにとっても興味深いいくつかのプロジェクトに予算がついて、開発が進められることになった。同社がマスコミ向けに発表したところによると、2006年と2007年にはSystemTapOProfileを含む各種フリーソフトウェアプロジェクトのほか、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)用の仮想化技術とステートレスLinux技術が優先プロジェクトに指定され、強力に推進される。

Red Hat社は、顧客のためにハードウェア費用の削減を実現した。だが、それは同社が描くオープンソースアーキテクチャの技術的未来像の半分を達成したにすぎず、今後は、さらにその先を目指すことになる。具体的には、ネットワークの構築と管理の面で費用を削減し、信頼性を高め、使いやすさを向上させる、と同社RHEL総責任者のScott Crenshawは言う。

「ツールとその最高の使い方からなるサービスを1つのパッケージとして提供する予定です。これで、社内開発と独立ソフトウェアベンダ開発の2本立てによる分散開発が進むでしょう。コードの品質が向上し、市場に出るまでの時間が短縮されます。開発をしやすくし、開発速度を上げ、開発されるコードの品質を高める――それを実現するためのツールとサービスの組み合わせです」

Red Hat社は、また、私企業とオープンソース開発コミュニティとが協力関係を維持するための方法を模索しており、コミュニティの意図に沿った作業プロセスとツール開発のモデル作りでも手助けしたいと考えている。この協力関係があれば、企業は「世界で最も大きく、最も成功している開発プロジェクト」のモデルに従い、高品質かつ高性能のコードをスピーディに開発できる、とCrenshawは言う。

社内開発プロジェクトに活力を与えるのが、たとえば、アプリケーションやシステムの動作を非侵入的に分析するソフトウェア、SystemTapと、類似の各種システムツールである。SystemTapプロジェクトのWebサイトによると、SystemTapはKProbesインフラストラクチャ上に構築されており、Sun Microsystems社のDTraceやIBM社のDProbesからヒントを得ている。DTraceはSolaris上で動作するツールだが、企業顧客の関心は大きく、Linuxにも同様のアプリケーションが欲しいという声が強い。

Red Hat社はOProfileにも力を入れている。これは、カーネルをリアルタイムで間断なく監視するソフトウェアであり、システムパフォーマンスの調整に役立つ。同プロジェクトのWebサイトによると、システム上で実行されるすべてのコードのプロファイルを作成し、システムに関するさまざまな統計値を管理者に提供するという。もともと、Compaq社のDCPIプロファイラに触発されたプロジェクトであり、Hewlett-Packard社が後ろ盾となっている。ところが、カーネルの更新後、RHオペレーティングシステム上で動作しなくなったため、Red Hat社が独自バージョンを開発した――とプロジェクトFAQにある。

Red Hat社が計画の中で推進をうたっているプロジェクトの1つに、その発足に同社も一役買っていた統合開発環境プロジェクト、Eclipseがある。これと並び、もともとEclipseと統合される予定だったFryskの名前も見える。Fryskについては、ソフトウェア分析の方法を従来のデバッグツールから一変させるものという期待が大きい、とRed Hat社技術最高責任者(CTO)Brian Stevensは言う。

Stevensは、Mudflapにも言及している。これはGNU Compiler Collection(gcc)の一部をなすメモリ分析ツールであり、CとC++におけるコーディングエラーをなくし、メモリリーク、ランダムグリッチ、クラッシュ、セキュリティホールを防止するという目的のもとに設計されている。

CrenshawもStevensも、いくつかのツールへの「支援と投資」と言うにとどめており、Red Hat社としてとくにどのツールに関心を持っているかは言っていない。ただ、Crenshawには「わが社のためのプロジェクト支援という域を超える」という発言もあり、ネットワークとオペレーティングシステムを使用するうえで不可欠のツールである以上、顧客に必要なものを提供するのがRed Hat社の使命、というニュアンスが感じとれる。

「開発者の声は十分に届いていますよ」とStevensは言う。「声の多くは、Unix/Windowsレガシー環境を一気に飛び越えるような開発ツールを求め、探しています。同時に、その要求を実現する力をオープンソースモデルに求めています」

Red Hat社の将来技術を支える「3本柱」は、仮想化と、ステートレスLinuxと、Fedoraプロジェクトを通じて開発者に最先端のソフトウェアを生み出しつづけてもらうことだ、とCrenshawは言う。また、Red Hat社はユーザや企業顧客と協力し、最大費用がどこで発生し、最大困難がどこに潜在するかを特定しようと努力してきた、とも言う。その結果、こうした問題のほとんどが、ネットワーク管理とハードウェアの最適使用に関係していることがわかった。Red Hat社はすでにいくつかのソリューションを温めている。

Xen仮想化ソフトウェアは、すでに以前からFedora Coreの一部として出荷されており、ユーザによる使用、テスト、RHELでの稼動に備えた強化が進んでいる。オペレーティングシステムと「緊密に統合された」仮想化が必要であるというのがRed Hat社の認識であり、その認識に基づいて「市場投入時期ができるだけ早まるよう、Linuxコミュニティだけでなく、Xenコミュニティにも多大な投資をしてきました」と、Crenshawは言う。

「FedoraへのXen統合が進んでいますし、いずれRed Hat Enterprise Linuxにも統合されます」とStevensも言う。「仮想化機能があれば、コンピュータグリッド全体の利用率が高まりますし、動作特性のうち敏捷性とスケーラビリティが強化されますから」

平均的なサーバは、CPU能力の15〜20%程度しか使用していないというデータがあり、これが仮想化への動きに弾みをつけている、とCrenshawは言う。仮想化を取り入れれば、この値は80%以上にも跳ね上がり、「少ないハードウェアから大きな生産性を絞り出せます。要するに、少ない費用で大きな生産性が得られるということです。より速い、よりよい、より安いハードウェアが現れれば、それをすぐにでも利用できます。実働までの整備サイクルなど必要ありません。なぜなら、ソフトウェアは仮想マシンに対応していて、ハードウェアには左右されませんから」

費用が劇的に削減されるのは、仮想ネットワークが出現するときだ、とCrenshawは言う。仮想化されたネットワークによってサービス水準は極限まで高まり、ピーク時の負荷も、故障も、ダウンタイムも、ユーザへの影響など出さずに処理できる。ハードウェア分離の水準も向上し、新しいハードウェアを導入しても、アプリケーションスタックの再整備に費やす時間や資金は少なくてすむ。すべては、ステートレスLinuxへの追い風となる。

ステートレスLinux

ステートレスLinuxの目標は、数多くのLinuxクライアントを簡単に管理することである。従来、コンピューティングには軽量(シン)クライアントと重量(ファット)クライアントという2つのアプローチがあったが、ステートレスLinuxはその「両方のよい部分だけをとる」ことを目指している。

RHELで重視されたのは費用の削減だった、とCrenshawは言う。その方法を突き詰めていくなかで、Red Hat社は、「仮想化の時代にあっては集中化」が鍵となるという重要な事実を発見した。これが実現すれば、ネットワーク管理者はローカルハードディスクやローカルステート情報に煩わされず、効率よく情報を管理できる。必要なサポートが質的にも量的にも大幅に減少する。

「これで操作のスケールが格段に大きくなります」と、Stevensは言う。「Linuxクライアントとサーバが何千台あろうと、その管理費用は、実質的に1つのシステムを管理するのと変わりません」

ステートレスLinuxで実現される大スケールでは、現存する性能と要求される性能、サーバの起動と停止など、さまざまな状況に合わせてサーバからサーバへ柔軟に作業負荷を移動できる。したがって、「仮想化ときわめてうまく噛み合います」と、Crenshawは言う。すでにRed Hatのステートレスシステムを部分的に運転している顧客もいるが、完全なシステムの提供は2006年末と見込まれている。

Red Hat社は、すべてのソフトウェアをオープンソースライセンスのもとでリリースする。したがって、ステートレスLinuxを目指す同社の努力は、最終的にLinuxコミュニティ全体の利益になる、とCrenshawは言う。「わが社の役割の1つは、社のリソースを1つの目標に向けて集約し、コミュニティがツールを開発しやすい環境を整えることだと思います。開発されるツールのなかには、わが社のお客様にとってありがたいものもあるでしょう。もちろん、開発者コミュニティが重宝するものもあるでしょう」

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