データベースが続々とオープンソース化する理由

販売するにせよ無償で提供するにせよ、新しいオープンソース・プロジェクトで、もしくは独自のオープンソース・ライセンスで、ソースコードが完全に公開されたデータベースをリリースする企業が増えてきている。データベース業界にオープンソースの波がやってきていることは間違いない。

IBM、Sybase、CAなどの、実績あるデータベース・ベンダが、それまでプロプライエタリであった製品のコードを続々と公開しているのだ。しかしこれらのベンダは、MySQL、PostgreSQL、BerkelyDBのSleepycat、そしてFirebirdによるパーティには出遅れている。これらのベンダは、データベースのお祭り騒ぎに貢献できるだろうか。それとも、ただ様子を伺いに来ただけなのだろうか。

プロプライエタリ製品をオープンソース・ライセンスで公開するという流れを、ビジネスおよび技術的な面で利用するか、それとも、オープンソースという人気者へのリップサービスとして、あわよくば古い製品を復活させようという狙いで利用するかは、それぞれのデータベース・ベンダによって異なる。

Oracle:オープンソースの広告塔と挑戦

オープンソースの流れに組しない数少ない企業の1つであるOracleの技術マーケティング担当副社長Robert Shimpは、NewsForgeが行ったインタビューにおいて、一部のオープンソース化の流れに関して批判的であった。具体的な名を挙げることはなかったが、Oracleとしては市場の成長とオープンソース・データベースとの競争は歓迎するものの、オープンソース・データベースの多くは「orphanware」(訳注:作者が特定できない、もしくは現存しない製品。アバンドンウェアと同義)になるだけだと指摘する。

Shimpは、「古い製品に注目を集めるためのマーケティング手段としてオープンソースを利用している」企業を例に挙げた。「この古い製品がorphanwareになる。商品価値がなくなったため、手放して動向を見てみようというわけだ」

Shimpは、オープンソース・データベースの戦略を2種類に分類する。透明性を実現し、開発者やユーザが学び、共有する「真面目な」オープンソース・データベースと、アバンドンウェアに注目を集めるための「広告塔」だ。

Shimpは、Oracleの最大の競合相手はファイリング・キャビネット(書類棚)であると述べ、オープンソース製品との競合に関して、Oracleは他のデータベースを資産と見なしているという。つまり、データベース市場に新しいユーザを招き入れる存在と考えているのだ。Oracleの課題と利点は革新である、と述べるShimpによれば、フリー、またはオープンソースのデータベースを入り口としてデータベースに触れ、ニーズが拡大した結果、Oracleに移行してくるユーザも多いという。

「われわれは、誰もがOracleを使いたいと思うようなすばらしい製品を作れると確信している」と彼は言う。「しかし、オープンソースの存在によってもたらされる挑戦も貴重なものだ」

IBM:市場に種まきをする

Apacheの実験プロジェクトDerbyを通じてCloudscapeデータベースをオープンにするという方針を決定した、IBMのプログラム・マネージャLes Kingは、Cloudscapeがアバンドンウェアだという意見には賛同できないと言う。「オープンソース化を決定する前から、非常に人気のある製品だった」とKingは語っている。

彼はさらに、IBMもOracleと同様、開発者にオープンソース・データベースを提供することにより市場シェアを拡大する手段として、オープンソースを捉えていると語った。

「ベンダがベース・コードを提供すれば、自らの市場を開拓することにつながる」とKingは言う。「当然、種まきをするには、蒔くための種が必要だ。DerbyはDB2 Expressの種をまく準備が整っている」

フル装備の、エンタープライズ規模のDB2の一部をIBMがオープンソース化するという噂はあるが、Kingはコードの複雑さと価値を根拠に、その考えを否定した。

「(DB2の)数百万行のコードを手に入れても、すべてのコードを投げ売りすることにはつながらない」とKingは言う。「それに、今は販売するソフトウェアに多くの知的財産権が絡んでくるので、すべてをオープンソースにすることは望んでいない」

しかし、Kingは、今後より多くのデータベース・ベンダが、オープンソースに関連する活動を行うようになるだろうと予想している。

開発者にとっては、「この先企業が、ターゲットとするソフトウェアをオープンソースにするに従って、選択肢が増えるだろう」とKingは語っている。「この動きが下火になるとは思えない」

IBMもOracleも、オープンソースによってデータベース市場全体に新しいユーザが増えるのは喜ばしいことだと考えているが、OSデータベースのベンダは、より高いレベルにおいても、ユーザたちが、DB2やOracleに匹敵するようになったオープンソースの方を好むと考えている。

CA:必需品の競合

Computer Associatesの開発担当上級副社長Tony Gaughanは、一種の「種まき」について語っている。indicating his company — 今年、独自のTrusted Open Source Licenseの下でIngresデータベースをリリースしたCAは、意見交換を行い、コミュニティと協力して改善につなげるための機会としてオープンソースを捉えている。

Ingresのオープンソース化は、データベースの「ルーツ」、つまりUC Berkeleyでのオープンソース・プロジェクトへの回帰だとGaughanは述べている。彼はまた、データベースの必需品化についても指摘する。

「顧客はデータベースを買おうとは思わない。彼らが買うのは、データベースを必要とするアプリケーションの方だ」と彼は言う。

Gaughanは、「われわれは、エンタープライズ規模のオープンソース・データベース・ソリューションを求める声を耳にしてきた。MySQLは、読み取り専用の操作や、HTMLコンテンツのサーバでの利用に適している。PostgreSQLは機能がより充実しているが、拡張性に問題があり、エンタープライズ・レベルのサポートを提供してくれる企業がない。Ingresは、成熟した、拡張性の高いトランザクション向けデータベースであり、クラスタ化やピアツーピア・レプリケーション、分散クエリのサポートなどを提供している」と述べた。

CA Trusted Open Source LicenseはOSIに認可されておらず、Ingresのオープンソース化はいい加減なものだという指摘に対し、Gaughanは、公開されているソースに含まれていないのは、B1セキュリティと空間オブジェクト・ライブラリで、いずれもCAの所有物ではないと述べている。

「ソースから除外したセキュリティ・コンポーネントはB1セキュリティで、国家安全保障に匹敵するほどのレベルにおいてのみ使われる。これは、Sun CMWなどのB1レベルのセキュアOSでしか利用できない」彼はさらに、CAは、OpenGIS準拠の、新しい3D空間オブジェクト・ソリューションを、コミュニティと協力しながら開発する予定であると付け加えた。

PostgreSQL:他の企業は、遅すぎる

PostgreSQLチームののコア・メンバであるJosh Berkusは、他の企業のオープンソース化は、マーケティング戦略であると同時に、技術的な理由からも行われていると指摘する。

Berkusは電子メールでのやり取りの中で次のように語っている。「データベースに関する最近の動きは、オープンソースがソフトウェア界で、分野を1つ1つ併合しながら今後も拡大していくことを立証している。企業にとってオープンソース戦略は、必要か否かではなく、いつ必要になるかが問題だ」

彼によれば、SybaseとCAが、もし3年前にLinuxおよびオープンソース戦略を取っていたとしたら競合の問題が発生したかもしれないが、いまオープンソースの発展によって危機的状況に置かれているのは、より大規模で、歴史のある企業だという。

「私からしてみれば、この2つはどちらも、オープンソースに置いていかれるのを恐れているプロプライエタリ・ソフトウェア企業の典型のように思える」とBerkusは述べている。

彼は、データベースはソフトウェア・スタックのうち、最もオープンソース化されやすい部分であると考えている。データベースはインフラ・ソフトウェアであり、開発者を惹きつけやすいからだ。しかしBerkusは、SybaseまたはCAが、もともとオープンソース、またはフリーとして生まれたデータベースと同じメリットを享受できるだろうかと問う。

「CAの場合、判断を下すのは、そのライセンスがOpen Source Instituteによって認定されてからにしたほうがよいだろう。現時点では、実質を伴わない単なるPRのように思える。IBMとは異なり、CAはIngresをCAの製品管理から切り離していない。つまり、開発者はあまり魅力を感じないと思われる。BorlandのInterbaseとSAPのSAP-DBの、オープンソース・プロジェクトとしての失敗を比べてみてほしい。Borlandの元を離れてからは活発なプロジェクトになったFirebird DBには悪いが、CAは同じ過ちを繰り返しているように思える」

Sybaseについては、Linux向けのフリー版をリリースした動機は、PostgreSQLによってSybaseは市場から追い出されるだろうという見解を示したSoftware Development Magazineによる調査だろうとBerkusは考えている。Sybaseはこの点については回答していない。

Berkusは、他のベンダがどのような動きを見せようとも、オープンソース・データベースはプロプライエタリの競合製品に追いついているか、特定の分野ではすでに追い越していると述べた。

「他の製品にはまだかなわないが、Sybaseに関しては、いくつもの分野においてPostgreSQL、さらにはMySQLのほうが勝っている」とBerkusは言う。「Sybaseにとって、PostgreSQLは特に脅威だろう。強力なACIDトランザクションの完全サポート、高可用性、カスタムの統計関数や複雑なクエリのサポートによって、PostgreSQLは多くの金融アプリケーションに全面的に対応できるからだ」

MySQL:みんながおもちゃになりたがっている

MySQLのCEO、Marten Mickosにとって、ベテランのデータベース・ベンダが次々とフリー/オープンソース・データベースに歩み寄っているのはよいニュースであり、これは、オープンソース・データベースが現在、高いレベルで競合していることの証である。

Mickosは、「これはユーザにとって朗報だと思う。オープンソースの世界ではIngresを、そしてLinuxの世界ではSybaseを歓迎したい。このような流れはしばらく前から予期していた。これによって、MySQLのビジネスモデルが間違っていなかったことが証明された。2年前、MySQLなんておもちゃだと誰もが思っていた。それが今は、みんながおもちゃになりたがっている!」

Mickosは、データベース業界におけるオープンソースの波は、複数の要素が組み合わされた結果であり、また、「古い製品をもっと有名にしたいと思っている大企業の典型的な反応」だと考えている。

「何年か前、BorlandがInterbaseで同じことをしようとしたが、結局オープンソースの世界からいなくなってしまった」

しかし彼は、一昔前のクローズドコードがオープンソースでうまく育った例として、かつてのSAP DBであるMaxDBデータベースを挙げている。

「MaxDBは、クローズドソースとして出発して、その後オープンソース化に成功した唯一のDBMSだろう。SAP AGは何年か前にオープンソース化され、現在は我が社が、MaxDBのオープンソースおよび商用のチャネルとして機能している。MaxDBは非常に強力なエンタープライズ・レベルのデータベースで、世界中で増加しているSAP R/3アプリケーションを支えている。さらに、コスト意識の高い企業、政府機関、発展途上国で採用されることが増えている。これを見れば、長い歴史を持つDBMSであっても、新しい舞台で成功できることもあるとわかるはずだ」

Sybase:企業による受け入れは先送り

Adaptive Server Enterprise(ASE)データベースはオープンソースとしてリリースされてはいないが、SybaseはフリーLinuxバージョンのデータベースで成功を収めた。Sybaseの上級グループ・マーケティング・マネージャAmit Satoorは、データベースの進出方法として他のベンダと同様の理論を挙げ、多くの企業がフリーまたはオープンソースのデータベースからエンタープライズ規模のデータベースへ移行しようと奮闘していると述べた。

「顧客の多くは、拡張性の高いプラットフォームに配備できるプロジェクトを立ち上げるための、低コストのソフトウェアを求めているだけだ」とSatoorは言う。

Sybaseは最近、ASEデータベースが今後、IBMのeServer OpenPowerサーバ(Power 5プロセッサをベースとした卓越したLinux実装)で動作するようになると発表することで、Linuxデータベースの強化という目標を明らかにした。

Sleepycat:オープンソースからの圧力

オープンソース・データベースBerkeley DBのベンダ、Sleepycat Softwareのマーケティング担当副社長Rex Wangによれば、Sybase、CA、IBMなどの動きは、オープンソースの新参者の侵攻に対する老舗たちの反応であるという。

Wangは、フリーのLinux ASEがオープンソース・データベース、DB2、そしてOracleと真っ向から競合するようなものになるというSybaseの発表について、「これらのプロプライエタリ・データベース・ベンダたちは、オープンソース・ベンダの成功を黙って見ていられなくなって、このような行動に出たのだろう」と言う。「大規模で現役のプロプライエタリ・ベンダがこのような動きを見せているということは、ついにその時が来た、ということを意味する」と語る。

Wangによれば、たとえばSybaseは、価格に関する強大な圧力を感じた結果、市場の中でもコスト意識の高い分野向けに、制限付きのフリー・バージョンをリリースすることになった。「彼らの狙いは、フリー・バージョンをまず触ってもらい、用途が拡大したら制限無しのバージョンを買ってもらうことだ」

しかしWangは、そううまくはいかないと考えている。Berkeley DBが開発者をターゲットにしていることと、ここ8年間の市場における相対的な成熟度を考えれば、すでにミッション・クリティカルな利用に耐えるものになっているとわかるからだ。

オープンソースはよくなった

Yankee Groupの上級アナリストDana Gardnerによれば、エンタープライズ・レベルにまで拡張可能な幅広い製品群を顧客に紹介するために、フリーのLinuxまたはオープンソース・データベースを利用するのは正統な手段だと言う。しかし、Gardnerは同時に、最初からオープンソースのデータベースのほうが、発展を続ける総合的なオープンソース・ソリューションの恩恵を受けやすいとも指摘している。

「フル装備のオープンソース・コンポーネントがデファクト・スタンダードになれば面白いことになる」とGardnerは言う。「最善のオープンソース・アプローチを考えたとき、デファクト・スタンダードの一部となるデータベースはどれだろうか」

Gardnerは、MySQLやPostgreSQLのようなオープンソース・データベースが、主流であるOracleやDB2に取って代わることはないだろうと断った上で、オープンソース・データベースの能力はこれらにすぐに追い付き、レベルの高いユーザにとっても十分なものになるだろうと付け加えた。

「MySQLとPostgreSQLは、非常に高機能だ」とGardnerは言う。「今後もこのペースで進歩を続けるなら、多くのユーザにとって必要十分なデータベースになるだろう」

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