HP側の主張:「知的所有権補償プログラム」はSCOとの共謀ではない

あなたがSCOからのライセンスを受けずにLinuxを実行した場合、SCOはそれを知的所有権の侵害であると見なす。しかし、あなたがHPを通じてLinuxを入手した場合、たとえそれがHP製の低コストPCに付属しているMandrake LightのCD( opentechpress.jp記事)という形であったとしても、HPは、SCOがあなたに対して起こすかもしれないどんな訴訟についても補償してくれるということだ。

SCO側は、「HPはこのような措置を取ることで、Linuxの少なくとも一部のコードはSCOのものであることを認めた」と主張しているが、HPのLinux部門の責任者Martin Finkはそれを否定している。なお、この補償の申し出にはちょっとした落とし穴がある。ソースコードを自由に修正することは認められていないのだ。それでもHPの法的な「安心毛布」にくるまれているという点は変わりない。

Finkによれば、ソースコードを修正した経験のあるユーザは「10,000人に1人」に過ぎず、いずれかのディストリビューションのバイナリをHPから入手し、それをHP製のハードウェア上で使う限りにおいては、補償が適用されるということだ。Linuxが付属している新しいHP製コンピュータを購入し、それと同じバージョンのLinuxを物置から引っ張り出してきた古いHP製ラップトップにインストールした場合も、補償の範囲内である(しかし、それを東芝のラップトップにインストールした場合は補償の範囲外になる)。

Finkは今日の正午の電話会見において、修正の有無は「ケースバイケース」で判断すると説明した。私が具体的に、OpenOffice.orgのスプラッシュスクリーンの抑制( opentechpress.jp記事)というごく一般的な修正についてはどうなのかと質問してみたところ、彼はこのわずか2行のコード修正が補償取り消しの理由になるかどうかを返答することができず(あるいは返答したがらず)、修正をどこでどのようにして判断するかについても答えてくれなかった。

その後、高名な技術ジャーナリストで、NewsForgeの寄稿者でもあるSteven J. Vaughan-Nicholsが、セキュリティパッチは補償を無効にするかという質問をした。それに対してFinkは、「無名のサードパーティから入手したパッチの場合は」ケースバーケースで判断することになるが、HPと提携しているディストリビューション発行者からバイナリの形で入手したパッチの場合は補償の範囲内である、と返答した。

GPLか補償か

HPの世界では、GPLに基づいてLinuxソースコードを変更する権利を行使するか、HPの広い背中の陰でSCOから保護してもらうかを選択できるようだが、両方という選択肢はないらしい。ある意味では、これはHP側としては譲れないポイントと言える。仮に、すべてのHPマシン上のすべての修正済みLinuxについてSCOの法的措置に対する保護を適用した場合には、よく知られたSCO所有のコードをわざと追加し、訴訟を引き起こしてHP(そして当然SCOも)をトラブルに巻き込もうとする輩がきっと出てくるだろうと予想されるからだ。

しかし、前述の会見でアナリストが指摘したところによれば、HPは、サードパーティが販売または再販するプロプライエタリソフトウェアについては補償をいっさい行わないそうだ。Finkは、プロプライエタリソフトウェアに関しては通常は発行者が補償を負うものだと説明した。このやり取りには続きがある。先のアナリストが、プロプライエタリソフトウェアベンダの多くは顧客に補償を行っていないと指摘すると、Finkは、そのとおり、これはきわめてまれなケースです、と答えたのだ。

「我々はSCOのLinuxビジネスパートナーではない」

FinkはSCOについて「ビジネスパートナー」という言葉を使った。これをどのように解釈すべきかと質問したところ、「SCOとHPの間には、HPのProliantサーバ上で彼らのOpenUnixを販売してきた長い歴史がある」という答えが返ってきた。HPを通じてOpenUnixを購入しているユーザがまだいるのかと私が質問したときには、彼は笑みを浮かべながら、「正確な数は把握していません」と言葉を濁した。さらにFinkは、Linux分野に関してはSCOとHPの間にビジネスパートナーシップはないと明言した。

Finkに対しては、今朝発表されたSCOのプレスリリース(全文は下記)内の主張についても質問が投げかけられた。そのSCOの主張とは次のようなものだ。「Linuxにまつわる重要な構造的問題の存在を否定している多くのオープンソースリーダーとは異なり、HPはこの問題の存在を認め、安心を求める顧客の要望に答えようとしている。HPの行動は、Linux業界をライセンス制度へと導こうとするものである。つまり、Linuxは無料ではないということだ。」

FinkはSCO側の主張を「興味深い解釈」と評し、HPはこのSCOの主張の正当性をどうこうする公的立場にないと慎重に述べた。「判断するのは法廷ですから」ということだ。

Finkはこう語っている。「HPとしては、補償を行った方が、対抗訴訟やその他の手段を取るよりもよいと考えています。これは大きく複雑な訴訟であり、すべてが終わるまでにはたいへんな時間がかかってしまいます。」

Finkは、HPのLinux顧客がSCOに対してどのように保護されるかを「市場からの差別化」などの営業的フレーズを織り交ぜながら説明し、とどめに非常に説得力のある問いかけをした――「他に同じサービスを提供する会社があるでしょうか?」。確かに、ITバイヤーたちは(HPの主張によれば)「顧客を支援してくれるベンダと契約したい」と願うはずである。

ただし、ここにもう1つ落とし穴がある。現時点では、HPが自社のLinux顧客に補償を行うのは、SCOによるLinux関連の知的所有権訴訟に対してだけである。もしも他の企業がSCOと同じように一部または全部のLinuxの知的所有権を主張してきた場合には、あなたは自力で立ち向かうしかない。

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2003年9月24日に発表された、HPの補償プログラムに関するSCOのプレスリリース全文:

ユタ州リンドン、2003年9月24日 ―― 本日、SCO Group, Inc.(NASDAQ: SCOX)は次のコメントを発表した。

今朝発表されたHPの行動は、Linuxを使用するエンタープライズエンドユーザは法的なリスクにさらされている、ということを明言するものだ。Linuxにまつわる重要な構造的問題の存在を否定している多くのオープンソースリーダーとは異なり、HPはこの問題の存在を認め、安心を求める顧客の要望に答えようとしている。HPの行動は、Linux業界をライセンス制度へと導こうとするものである。つまり、Linuxは無料ではないということだ。

我々は、HPが大手Linuxベンダの中で唯一、顧客保護のために強い立場を打ち出し、Linuxの使用にまつわる法的問題に補償を出すという決断を下したことを喜ばしく思う。この行動は、HPが彼らの顧客のLinuxユーザが実際にLinuxの著作権違反と知的所有権の問題についての訴訟に直面しうる、という事実を認めたことの証であろう。顧客を強力にサポートする企業の役目として、HPはこの問題について何かしらの対策を取ったというわけだ。

いまや、HPは顧客のために歩を進め始めた。Red Hat、IBM、およびその他の大手Linuxベンダもこれに倣うよう我々は再度要請する。顧客もそれを望んでいるはずだ。