オフショア・サービス現象のインパクト:グローバルな視点

2003年6月5日のテレコンファレンスでIDCのアナリストたちはこんな予測をしていた。IT業界ではグローバルなアウトソーシングが増加し、中国、フィリピン、インド、ベトナム、東ヨーロッパの労働者は気楽だが、米国と西ヨーロッパのIT労働者は今後も不振にあえぐことになる、というのだ。もっともフランスは別だが。

IDCの説明によると低賃金の国々にできるだけ業務を移そうとする傾向は今に始まった話でない。IDCのアナリストの一人はこう言う。「米国の場合、この傾向は1960年代にアパレルと電子機器の分野で始まり、これらの業界はオフショア化を徹底して推し進めた結果、現在では国内で製造されるTV受像機は1台も存在しないほどである。」

今や、IT機器の製造開発のみならずソフトウェア開発、経営の諸機能(人事管理、顧客サービス)、ITサービス(インフラ管理)なども高賃金の国々から海外へ出ていこうとしている。

IDCはこう見ている。「先進国では “労働力の輸出” というアイデアが政治的な反発を呼んでおり、多くの地域でその動きを差し止める法案が提出されるものと思われる。しかし、グローバル企業はそうした制約を避けて通る道を見つけるに違いない。」

IDCが2003年1月に行った調査によると、米国のIT企業の15%弱はオフショア労働者を使うことに反対しており、20%はどちらかと言えば米国内の人的資源を使いたがっている。また、約65%の企業は米国外の人的資源を使うことを容認している。

IDCはこう警告する。「インドのIT中心地、バンガロールは世界のIT労働力の供給基地としての価値をもはや失っているようだ。インフラは限界に近づいているし、熟練労働者の賃金がどんどん上がって、新卒者の年棒が4,000ドル(米国ドル)を超えることも珍しくない。バンガロールだけでなく、インドのどこも同じ状況だ。」

中国はインドに比べると賃金は低いが、IDCによればインドほど簡単には開業できないという。中国では「政治的関係」なるものを作り上げるのに相当時間をつぎ込まねばならないからだ。

ヨーロッパは、インドや中国や極東の国々を労働力の供給基地としてそれほど重要視していないようだ。

ヨーロッパのアウトソーシング・パターンは東に向かっており、チェコ、ロシア、ルーマニア、バルト諸国(ラトビア、エストニアなど)が主な供給基地となっている。

このパターンを崩しているのが英国とフランスだ。IDCが言うには、英国は歴史的にインドとの結び付きが強く、英国企業にとってインドが労働力の供給基地となるのは、自然のなりゆきのようだ。フランスは自国のソフトウェア・ハウスを自慢する傾向があって、たいていのフランス企業はたとえお金が節約できたとしても国外から労働力を調達することを避けるという。

議論が白熱したのは、現地に事務所を開いて社員を直接雇うべきか、受託業者を介して間接的に労働力を調達すべきかという点であったが、これに関して意見の一致はみられなかった。直接雇用にはいろいろ利点があるが、現地の会社を使う方が責任を負う度合いが低く、アウトソーシング・チェーンのあちら側とこちら側に存在する政治的な問題を排除できるというのである。

今いたるところで、小さなソフトウェア会社やIT関連企業を大企業が先を競って買収しているという。

IDCの挙げるもう1つの注目点は、世界中のITコンサルティング事業者が「厳しい値下げ圧力」にさらされていることだ。つまり、ある特定の国ということではなく、世界中で誰もが値下げ競争に耐えているというのだ。

もう1つの傾向は、米国、カナダ、西ヨーロッパなどよりも低賃金で生活費のかからない国々が押しなべてアウトソーシング・ビジネスに参入しようとしていることだ。それは高賃金のIT分野だけでなく、低賃金のコールセンターや給与計算など、熟練を必要としない必須事務分野にわたっているという。

ITに関して何もかもがオフショアへと移転する現在の状況をある程度逆転させる要因があるとするなら、それは “ユーティリティ・モデル” によるオンデマンド・コンピューティングの進展にかかっている。これが進展すれば、ユーティリティ・スタイルのコンピュータ・センターをどこか特定の国に設置する意味が失われるからだ。しかし、この重要性に関してIDCのアナリストたちの意見は分かれており、IDCとして “公式” の見解は表明していない

しかし、オンデマンド・コンピューティングが来るべきサービスであり、IBMやEDSなどの巨大企業、つまり世界中でデータセンターを運営して必要に応じて資源をやりくりできる巨大企業がそれを牛耳ることになるという点で、IDCのアナリストたちの意見は一致しているようだ。IDCによれば、この変化が現実のものになると、米国、ドイツ、中国、インドなどどの国でも、国内のみを活動の場とする会社は厳しい競争の渦に巻き込まれることになるという。

結論

おそらく、特定の文化に依存しない仕事 ── “一般テレワーク” とでも呼ぶか ── は最も賃金の低い地域へと移動し、多くの国々に進出している大企業が国内のみを活動の場とする会社よりも優位に立つものと思われる。

ビジネス分野によっては多くの言語と文化が入り混じった都市にも優位性があるという。例として挙げられたのは、バンクーバー、トロント、シドニー、メルボルンの4都市であった。

グローバルなアウトソーシングを推し進める要因としてLinuxとオープンソースも挙げられたが、それらは直接的な要因というよりもITサービス・ビジネスの初期投資を抑える点に意味があるということであった。

「大局的に見れば、LinuxはIT全般の必需品としてますます成長する」とIDCのアナリストの一人は言う。

「この必需品化の傾向は今後も続き、グローバルなアウトソーシングの動向に関係なく、近い将来IT産業の処方箋に必須の要素となるに違いない。だが、1998年〜2000年の “栄光の時代” が再び巡ってくることはないだろう。」