事業継続に赤信号直前の割には、どこも報じないターボリナックスの決算[update:2/27]

気付くのが遅いですが、ターボリナックスが決算を発表しています。今回は四半期や半期ではなく19年度決算の発表で、しかもちょっとした大きな数字の発表だった割には、どのIT系サイトも記事を出しませんでした。IT系メディアを経営する立場となった身からしても、このネタを取り上げないのはそりゃそうだよなぁ…、とは思いつつも、数字検証を楽しみにしている人もいるらしいので、ちょっとだけ数字を眺めてみます。

まず資料は、 ターボリナックスのIRニュースから平成19年12月期決算短信を取り寄せ。

 連結(単位:百万円)
       売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
 19年12月期  713   -555   -634   -1,221

 単体(単位:百万円)
       売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
 19年12月期  394   -433   -433   -1,206

連結にはレーザー5やZend Japanを含むので、単体のほうがWizpyとdistro事業の合算の数字となる。逆に連結から単体を差し引けば、レーザー5やZend Japan等もろもろの数字ということになるでしょう。海外のほうは数字に貢献していないと見られるので、そのあたりは無視してよいかと思います。

まず目をつくのは、当期純損失の12.2億円の項目ですが、それに純粋な赤字となる6.3億円の 経常損失に加えて、子会社絡みののれん償却で1.5億円、ソフトウェアやライセンスの評価損で 1.4億円、Wizpy在庫の評価損で2.7億円をそれぞれ特損で計上したからのようです。この大きなWizpy評価損をどう捉えるかですが、貸借対照表の流動資産の製品で1億円ほど計上していますので、若干Wizpy在庫分が残っているのかもしれませんが、OSパッケージもあるでしょうから、 多くはとりあえず今回の特損で処理したということのような気がします。決算を読む限りは、Wizpy事業が失敗だったと認め、単体ではOS事業に注力と感じられますが、今後のためにもWizpy事業は綺麗にしなければいけなかったということなのでしょう。

現在のところ、ターボリナックスの連結の販管費は8億円程度で、Wizpy事業があることにより 売上原価率は66%という高率になっています。今の規模と事業を維持するのであれば、赤字解消には軽く20億円以上の売上が必要になりますので、このあたりからも何らかの事業の変革しなければいけないことは事実でしょう。昨年2月に 10億円のMSCBを発行していますが、今の資産状況を見ると、どうもそれがなければキャッシュが続いていなかったと思いますし、今後についても流動資産的に余裕があるわけではなさそうです。とりあえず、今のうちに身の丈に合ったビジネスにシフトする必要があるように思います。ぼやぼやしてるとキャッシュが枯渇してしまいますしね。

もう少し詳細に、単体の売上から考えていくと、2007年6月中間期での考察の時に書いたように、半期では単体で2.34億円の売上であったので、下期では1.6億円とブレーキがかかっています。特損で処理したことからも、Wizpyがブレーキをかけたと言いたいように見えますが、前回の考察時で2200台と予測したWizpyの販売台数がどうも年間の数字の近いようなことを考慮すると、売上自体への影響は小さく、OS事業のほうもそれなりに売上減少が進んでいるように考えられます。前回の予測がある程度正しいとすると、ここ2年程は一貫してOS事業も売上を下げていることになります。今後Wizpyを継続する意思があるのかどうかは分かりませんが、OSに回帰したいという強い意思は読み取れます。しかしながら、四半期で五千万円を越える程度の売上に落ち込んだOS事業を立て直すのは、今のターボの置かれている状況からすると厳しいかもしれません。まあ、それでもベースとなる売上がありそうなので、頑張れば売上減少を止めるのは可能かもしれません。ただ、20年度で5億円を越すのは難しいような気がします。(そもそも国内でdistro事業というのは、有り得ない道だと思いますし。)

私の予測はあくまで外の人間の戯言ですので、内部の予測を参照すると、20年度の単体予測は中間で売上2.9億円(営業損失1.8億円)、通期で売上7.2億円(営業損失2.7億円)となっています。私の肌感覚的には中間で1.5億程度、通期で4億円といったところですが、内部予測を 鵜呑みにしてさえも、今期とさほど大差ない赤字が待っていることになりますので、Wizpy事業のみならずOS事業もかなり抜本的な転換をしなければいけないということになるかと思います。

本体ではなく子会社の売上のほうは、19年度で3億円ちょっとで1億円程度の赤字となっています。20年度の予測も通期で売上8億円で赤字は1億円以下との予測となっており、赤字基調なのは変わりませんが、本体ほどは悲惨な状況ではないようです。ただ、3億円の売上から8億に ジャンプアップするわけですのでそれなりの材料が必要だと思いますが、それについては、 決算に記述のある「経営改善計画」の骨子を読む限りは、子会社のWebシステムの受諾開発と PHPエンジニア育成を柱にしていきたいように見えます。そのあたりはレーザー5がターボソリューションズに社名変更したこととリンクしているのでしょう。今さらWebの受諾開発とSIに転換という気もしますし、現在の売上を倍増される売上を全くの新規事業で獲得というのは少々乱暴な気もしますが、こちらのほうは売上が未達であっても痛みは小さいでしょう。

元々はライブドアが随分と無理をしたように思われる上場ではありましたし、つい最近も 上場時の監査人がICF関連で逮捕されたりと、どうにも運がないというか、運すらないターボリナックスですが、いまだに60億円の時価総額をつけられているのも一つの評価ではありますし、内部から変革をさせやすいタイミングではありますので、残っている社員の方々にはここでいい方向へ向けて頑張ってもらいたいものです。

[追記(2/27)]

どうやら2chには補足されてるようですが、MSとの提携への言及がないと書かれてるので補足しておきます。 このリリースを、MSが三顧の礼をつくしてターボに技術協力を申し入れ、というように解釈したい人達(というかホルダー?)がいることは理解できますが、私の感覚ではMSのパートナープログラムの一社として参加しただけにしか見えません。 このNIKKEI BPの記事に代表されるように、メディアがそのまんまリリースを垂れ流すのでどうも誤解というか、おかしな期待が膨らんでしまうわけですが、このリリースにおいて実質的に意味があるのは、知的財産の保証の部分だけでしょう。 ただ、これによってセールスが伸びるとかそんな類の話ではなく、Linspire、Xandrosといった零細distro企業も契約しているMSからの免罪符を獲得したということで、かえって追いつめられている印象があります。MicrosoftがRed Hatを中心とした勢力を追いつめるための世界戦略の一部に加わったというのは、ターボの当座の業績にはあまり関係のないことでしょう。

また、ターボリナックス発のリリースの信頼性の問題もあるでしょう。2007年7月にもMSと Open XML-ODF Translatorプロジェクトで技術協力というリリースを出してはいるのですが、そのリリースでターボリナックスが参加したとしている OpenXML/ODF Translator ProjectにはNovellやその他各社が参加していることは書かれていますが、ターボについては全く言及はありません。SF.netのプロジェクトページには活動の痕跡があるのかと思いましたが、開発者リストにはそれらしき人は見つかりませんし、MLにも何もありません。 かろうじてWebフォーラムにturbolinux-prというユーザが Turbolinux joining the communityというタイトルで「Turbolinux from Tokyo, Japan will join the community to help testing Japanese version of Open XML Translator. We look forward to working with community members.」と投げているのみです。 このturbolinux-prというユーザはターボのプレスリリース前日に作成されたもので、特に何のプロジェクトに参加しているわけでもないので、このプレスリリースのためだけに作成されたアカウントなのでしょう。これだけで「MSと技術協力」と打ち出したとすれば、たった数分の時間での一行の挨拶だけの書き込みで市場を揺さぶり動かしたことになります。さすがに何らかの部分を担っているとは思いますが、リリースの信頼性に響いてしまうのは仕方がないかと思います。

そもそも、今回のエントリのネタとしたターボの決算短信には経営改善計画の骨子も書かれているのですが、そこにはOS事業においてはMandrivaとの協業(というよりもライセンスを買うのでしょう)を重視することは書かれていますが、MS絡みについてはどこにも触れられていません。広報的にはMSという名前を使いつつ、経営改善計画にはないというのは、ターボ自身もそこからは名は取れても身は取れないと分かっていて演じているような気がします。