KnowledgeTree――様々なニッチ市場を射程に捉えるドキュメント管理システム

 現代社会における効率的なドキュメント管理とは、地球上のどの場所からでもアクセス可能な形態にて情報を電子化し、安全なバックアップを確保した上で、必要なドキュメント変更を即座にアップデートできるシステムを意味するようになっている。そしてこれらすべての要件プラスアルファを満たしているのが KnowledgeTree というシステムだ。特にこのソフトウェアでは、各自のニーズに応じたカスタマイズを施すことが可能なオープンソースコミュニティバージョン(レビュー記事を昨年掲載)を含めた複数のエディションが提供されている。

 KnowledgeTreeは企業の社内サーバにインストールするだけでなく、オンライン接続型のホステッドサービスとして利用することも可能で、これを用いるとドキュメントの作成、編集、格納が、Linux、Mac、Windowsというクロスプラットフォームから行えるようになる。ホステッドバージョンであるKnowledgeTree Liveにアクセスするには、インターネットに接続されたコンピュータおよびサポート対象のブラウザ(Firefox、Safari、Internet Explorer)を準備すればいい。

 KnowledgeTreeのうちGNU GPLv3ライセンスの適用下で公開されているCommunity Editionは、自由にダウンロードすることができる。この場合ユーザによるドキュメントへのアクセスにはサードパーティ製WebDAVクライアントが必要となるが、ドキュメント管理機能については、ドラッグ&ドロップ、バージョン管理、検索など、他のバージョンに装備されているものと同様の操作が行えるようになっている。商用版KnowledgeTreeについては、ネームドユーザ単位でのライセンス体系が組まれており、年間120ドルから利用可能である。Community EditionではWordやExcelなどのMicrosoftアプリケーションとの統合が省かれてはいるが、その他の機能は有償版とほぼ重なっている。両バージョンにおける最大の相違点は、有償版に付属するテクニカルサポートがCommunity Editionでは利用できないことだろう。

 ホステッドバージョンの KnowledgeTree Live は1ユーザあたり毎月30ドルで提供されているが、これを使用するには最低3人のユーザが必要となる。すべてのデータはAmazonのS3ストレージサービスにて格納され、ここで各登録ユーザは10GBの容量を使用できる。Community Editionを利用中の企業が既存のデータをLiveサービスに移植する場合は、その処理をKnowledgeTreeのテクニカルサポートに依頼することも可能で、また将来的に同サービスの利用を停止する際には全バックアップをオープンソース版にリストアすることもできるようになっている。

 Liveバージョンはベータ版から脱して間もない段階ではあるが、その他のバージョンのKnowledgeTreeは既に1年以上前から利用可能となっている。例えばDHL Global Mailもワークフローおよびバージョン管理システムとして同ソフトウェアを利用しており、これを社内システムと結合させることで南北アメリカでの郵送サービスに対する罹災時の復旧およびビジネス継続性を確保するプログラムを構築しているとのことだ。

 DHLの品質管理責任者を務めるDan Wilder氏は、「弊社ではこのシステムをMicrosoft Wordのドキュメント変更管理に使用しており、現場への配布時にはドキュメントをPDFフォーマットに変換させるようにしています。私どもの認識としてこれは、KT(KnowledgeTree)をドキュメント管理システムとして組み込んだ1つのエンドツーエンドなソリューションなのです」と説明している。

 Wilder氏はKnowledgeTreeの導入について「困難でもなければ簡単でもありませんでした」としており、最大の課題は「(同社で使用する)ドキュメントで関連付けられている24種類のメタデータをまとめてインポートするという独自のニーズに合わせることでした。検討時にはその他のソリューションも視野に入れていましたが最終的な結論をKnowledgeTreeとしたのは、その管理ワークフローが弊社のニーズに一致したことおよび、使用可能なオープンAPIを用いることで同プログラムで使われている各種のアプリケーション群と現在開発中のアプリケーション群との相互接続が将来的に可能となる点を評価してのことです」と語っている。

 Wilder氏からは、同ソフトウェアの導入を検討している他の企業に対する助言として、プランニングを確実に進めた上で更なるプランニングを重ねるようにとのアドバイスが出されている。「具体的な使用法を入念に検討し、KnowledgeTreeに関する情報を精査した後に、必要な結果を得るための実装プランを構築することです。口で言うのは簡単ですし、克服すべき課題の中にも簡単なものもありますが、そうでない問題も潜んでいます。いずれにせよすべては適切なプランニングを構築することに帰着するでしょう」

 同ソフトウェアは多数のカスタマで利用されているが、KnowledgeTreeのCEOを務めるDaniel Chalef氏は、規模の小さい企業こそKnowledgeTreeで何ができるかを検討すべきだとしており、その理由として「通常、大企業がKnowledgeTreeを利用する場合、部門や支店ないしチームレベルで運用されるものですが、そこで取り組む具体的な問題の規模は中小企業のサイズに相当しているからです」という点を挙げている。

 「弊社のKnowledgeTree Liveは広範なカスタマ層によって利用されており、下は3から5人程度のユーザ数ですが、より規模の大きいものでは50人以上のユーザで利用したいという問い合わせを頂いたこともあります。私どもは、こうした1つのソフトウェアシステムとして提供するサービスこそが、プロフェッショナルなサービス分野において高い成長性を有していると考えています」

 Amazon Elastic Compute Cloud(別名EC2)の使用を前提とするLiveバージョンの仕様は、KnowledgeTreeの開発チームに対して1つの課題を提示することになったと言う。Chalef氏によると、Liveの開発においてはコアアーキテクチャを共通化しておくだけでなく、EC2にて固定されたストレージを確保できない点を克服してクラウド中にデータを格納する方法を確立する上で“発想の転換”が必要であったとのことだ。

 「(これらの課題を)解決する過程で革新的なアプローチを編み出すことができました」と同氏は語り、「そうした作業を進めていく中でインハウス版システムでも活用可能なテクノロジを構築できたのです。例えばインハウス版システムのユーザを対象としたクラウドに対する深夜バックアップ機能を(第2四半期にて)提供できる予定です。Webスケールのコンピューティングは、突発的に発生する巨大な負荷に対応したスケーリングを行う必要があるため、通常その扱いは困難となるものですが、Amazonの提供するプラットフォームはこの要件に対処する上で適していました」と解説している。

 KnowledgeTreeはオープンソースコミュニティの開発者たちに目を向けることも忘れておらず、同社の提供するAPI群を用いたKnowledgeTree用の機能拡張プラグインの作成を奨励しており、現状では、SugarCRM、ProcessMaker、Drupalの統合ツールとして25種類以上の言語パックが利用可能となっている。

 「弊社は、相補的な関係にある各種のオープンソースアプリケーションとの統合を歓迎しています。オープンソースベンダーとして私どもがより価値のある製品をカスタマに提供できれば、それに越したことはないはずですから」とChalef氏は語っている。

 KnowledgeTreeがオープンソースコミュニティを重視し、同ソフトウェアのオープンバージョンを提供する決断を下した理由については、Robin ‘Roblimo’ Miller氏によるChalefおよび協同設立者のJohn Thorneの両氏に対するインタビュービデオを参照して頂きたい。

Linux.com 原文