LinuxでM-Audio製品を試用する

 M-Audio社は、20年に渡ってコンピュータ・ミュージシャンにハードウェアとソフトウェアを提供し続けている。音楽好きのPC初心者をターゲットとし、“今すぐ音楽を(make-music-now)”というコンセプトに基づく同社の新しい製品シリーズには、マイク、スピーカー、ドラムマシン、DJミキサーデッキなど揃っている。ただ残念ながら、これらにバンドルされているSessionというソフトウェアはWindowsでしか使えない。我々が挑んだのは、M-Audioのハードウェア(具体的には、MIDIキーボードKeyStudioとオーディオインタフェースFast Track)をLinuxアプリケーションで試すことだった。そして、半ば成功という結果が得られた。

 タッチセンス付きのフルサイズ49鍵を備えたKeyStudioキーボードの仕上がりは上々だ。動きは若干軽めだが“タッチ”は問題なく、少し慣れればフォルテやピアニッシモを弾き分けられるようになる。Fast Track同様、このキーボードはUSB駆動で動作する。また本体には、演奏時にエフェクトをかけるピッチベンドとモジュレーションの各ホイール、またピッコロやダブルベースをエミュレートするためのオクターブボタンも付いている。

 KeyStudioキーボード自身はサウンド機能を備えておらず、ソフトウェアであるSessionとの併用が想定されている。Sessionは豊富なMIDI音源のサンプルとエフェクトを持ち、Fast Track経由、またはSessionによって提供されるM-AudioのMicro USB Audio Interfaceを介してデータを出力する。今回試したのは、LMMS、Rosegarden、Timidityなど、我々の知るLinuxのMIDIおよびオーディオソフトウェアがこのキーボードで利用できないか、という点だった。

 オンボードのサウンドカードやゲーム用のサラウンド対応サウンドカードであれば、通常、入力系統はラインイン端子またはマイク端子に限られる。だがこれらの端子に適した用途といえば、VoIPによる通話やテープ/レコードデッキからの録音程度である。エレキギターのジャックやステージマイク用のXLRプラグとの互換性はまったくない。M-Audioは、Fast Track USBのインタフェースを“ギターやボーカルの録音にうってつけ”としているが、適切なケーブルを利用しさえすれば、このインタフェースはどんなラインレベルの音源の録音にも利用できる。

 Fast Trackのデザインは上品かつシンプルで、フロントパネル上で目に付くコントロールといえば、マイク入力レベル、入力/再生のミキシングバランス、メイン出力レベル(ヘッドフォン出力とRCA出力の音量にのみ影響)の3つだけだ。ほかには、信号レベルおよびピークのLEDインジケータ、1/8インチのステレオヘッドフォン出力、ステレオ/モノラルのモニタリング選択ボタンがある。

 本体背面には、バランスXLR入力のソケット、1/4インチのライン/楽器入力、入力レベル切り換えボタン(ライン/ギター)、ステレオRCA出力、USB接続ソケット、それにKensingtonロックコネクタが備わっている。電源は必要なく、USBポートからの電力供給によって動作する。Fast Trackの考えられる“難点”といえば、従来のオンボードまたは後付けのサウンドカードが使えなくなるので、インタフェースにスピーカーを一組つなげる必要があることだろうか。

ALSAとASIO

 一般的なPCサウンドシステムは音を再生するために作られており、入力系統に関しては質の高い処理は望めない。たとえばMicrosoft Direct Soundシステムでは、サウンドカードとCPUとの信号伝送がPCI経由で行われ、その間CPUはWindowsの別の処理もこなしているため、信号データがキューにたまってしまう可能性がある。こうした遅延を回避するため、(Cubaseで知られる)Steinberg社が開発したのがASIO(Audio Stream Input/Output)プロトコルだ。これにより、オーディオインタフェースを直接PCハードウェアに接続して遅延を減らすことができる。

 LinuxのALSA(Advanced Linux Sound System)にも似たような遅延の問題があるが、ASIOのLinux実装は存在しない。一部のWineコードをSteinbergドライバと共にコンパイルするといったハックも存在するが、今回はLMMS、リアルタイム処理のコアとなるJACK、そしてUbuntu Studioを用いることにした。

KeyStudioとLMMS

 LMMS(Linux MultiMedia Studio)の活動は2003年に開始され、プロジェクトはまだ成長途上にある。今回Kubuntu 7.10とKDEの下でテストしたのはUbuntuリポジトリに収録されているバージョン0.30で、若干不安定だが使えるレベルにある。LMMSは録音/演奏の機能を備えたMIDIエディタであり、単体では“鳴らない”今回のKeyStudioのように、サウンドシステムを持たないキーボードやハードウェアシンセサイザと組み合わせて使用する。

 LMMSのインストール後、KeyStudioキーボードをつないでLMMSを実行すると、キーボードの検出が自動で行われる。まずは、「Samples」タブをクリックして楽器フォルダを開く。音源の楽器を選んでダブルクリックすると、Beat+Baseline Editorの画面が現われる。キーボードのアイコンをクリックし、「MIDI Input」で該当するキーボードを選択する。MIDI出力についても同様の手順を繰り返し、使用しているサウンドカードを選択する。これで、演奏準備は完了だ。録音の場合は、Beat+Baselineエディタ上のトラックをダブルクリックすると、録音ボタンの付いたPiano Rollエディタが現われるので、これを利用する。

 LMMSには仮想楽器がまずまず揃っており、ドラムやベースのループも用意されている。遅延の問題もなんとかクリアされていて、問題なく使える。ただし、MIDIファイルを保存してプロのミュージシャンにアレンジを頼んだりすることはできない。また、歌詞を書き込めるような従来のスコアも作成できない。このあたりは、RosegardenとLilyPondを組み合わせれば可能だ。

KeyStudioとRosegarden

 Rosegardenは、LMMSと同じく基本的にはMIDIエディタである。LMMSと違うのは、音楽のプロをターゲットにしている点と、スタンドアロンのアプリケーションという形ではなく、既存のアプリケーションとの連携を重視したLinux本来のやり方に従っている点だ。Rosegardenでは、さまざまなソフトウェアシンセサイザ、エフェクタ、ドラムシミュレータ、オーディオアプリケーションとのリンクがJACK(Jack Audio Connection Kit)を介して行える。JACKは、本物のスタジオで見かけるケーブル類の束のソフトウェア版といえるものだ。また、RosegardenはLilyPondともリンクできる。LilyPondは“本物の楽譜”が作成できる、以前から定評のある楽譜作成用エディタだ。

 ところが、これらのアプリケーションはKubuntuの環境ではうまく動作しない。Rosegardenを立ち上げると、JACKサーバが稼働していない、低遅延のカーネルではないといったメッセージが表示されるはずだ。JACKはオーディオやMIDI関連のとにかくあらゆるソフトウェアとハードウェアとリンクできるのだが、KDEのサウンドシステムaRtsとは相性がよろしくない。JACKを動作させると、aRtsが落ちてオーディオ出力が使えなくなるのだ。

 気を取り直して、自力でUbuntu Studioのインストールを行った。なお、このインストールは、従来のUbuntuまたはKubuntuのインストール環境からメタパッケージとして行うこともできる。Ubuntu Studioには、メディア処理と遅延低減に重きを置いたLinux-RT(Real Time)カーネルの修正版が載っている。Ubuntu Studioのインストールを普通の(K)Ubuntuから行う場合は、最初にこのRTカーネルをインストールする。リブート中にEscapeキーを押してGRUBブートメニューを表示し、RTカーネルを選択する。ロードがうまく行けば、Ubuntu Studioをインストールすることができる。

 Rosegardenの使い方はLMMSほどわかりやすくないが、やはり柔軟性の点ではこちらが上だ。必要な設定のすべてをJACKで行いさえすれば、RosegardenとKeyStudioキーボードの連携性は悪くない。また、Ubuntu Studioに含まれている仮想シンセサイザZynAddSubFXと、KeyStudioの組み合わせも試してみた。そのための設定は簡単で、JACKのMIDI設定セクションにある「Connection」ウィンドウを使って、KeyStudioのMIDI出力デバイスとZynAddSubFXのMIDI入力デバイスとの接続を作成するだけでよい。これで、キーボードからのMIDI信号がRosegardenに送られ、そこからZynAddSubFXに出力される。あとは、JACKの「Audio」リストでZynAddSubFXをサウンドカードに接続しておく。パフォーマンスはなかなかで、キーを叩いて音の出方を聞いたが遅延は認められなかった。

Ubuntu Studio、JACK、Fast Trackの連携

 KeyStudioでの成功に勢いづき、Fast Track USBのセットアップも行ったが、これはうまくいかなかった。PCにFast Trackをつなぐと電源のLEDが点灯し、JACKによって正しく認識されてインタフェースのリストに表示が追加された。コンピュータでのオーディオ録音に必ずつきまとう問題は、PC上のほかの処理によってデータのスムーズな流れが妨げられ、ノイズや音の途切れが生じることだ。Linuxシステムではこうした問題をxrunsと呼び、その発生はJACKが知らせてくれる。しかし、Fast Trackではそうした状況にはならなかった。というよりも、Audacity、Rosegarden、Ardourのどれを使っても、まったく録音ができなかったのだ。これら3つのうち、なんらかの異常の発生を教えてくれたのはAudacityだけで、インタフェースの設定を確認してください、というメッセージが録音を試みるたびに出ていた。RosegardenとArdourの場合は、エラーメッセージこそ出ないが、Fast Trackとの間のオーディオデータのやりとりはまったく行えなかった。

 M-AudioのUSBインタフェースにはオープンソースのドライバが存在するが、最近リリースされたFast Track向けのアップデートがまだ行われていないのは致し方ない。そのアップデートが出るまでは、LinuxでFast Trackは使えないということのようだ。

 しかし、KeyStudioがLinuxに対応したことは、オープンスタンダードの勝利といえる。期待したとおり、このMIDIキーボードはプラットフォームを問わずにMIDIソフトウェアと連携できる。一方、SteinbergのASIOを採用したFast Trackは今のところLinuxでは動作しない。

Phil Thaneはデザインとテクノロジの教育に従事したのち、英国の教育ソフトウェア会社でサポートマネージャを務めた。長年にわたってさまざまな教育および技術系雑誌に寄稿を続け、2005年にフリーランスライタとして独立。Gwyn Jonesは英国レクサムのNEWIでスタジオ録音と演奏のテクノロジを学び、現在は定職を探しつつさまざまな音楽プロジェクトに携わっている。

Linux.com 原文