新たな流行語「Web 3.0」に踊らされるな

 米国の調査会社ガートナーは、先ごろラスベガスでWebに関するコンファレンス「Gartner Web Innovation Summit」を開催した。その場に参集した同社のアナリストらは、新しい流行語になりつつある「Web 3.0」には「Web2.0」に匹敵するだけの革新性がないと切り捨てた。一方で、彼らは、企業が今なすべきはWeb2.0の着実な導入であるとし、Web2.0の導入によって企業体質の強化と、競争力の向上を図るよう訴えた。

 一般の企業では、やっと今、Web2.0テクノロジの実装に乗り出したところだろう。にもかかわらず、すでに業界では「Web 3.0」が語られ始めている。

 だが、安心していただきたい。米国ガートナーが先ごろネバダ州ラスベガスで開催したコンファレンス「Gartner Web Innovation Summit」(9月19日~21日)で、同社のアナリストたちは、口をそろえて「Web 3.0は単なるマーケティング用語にすぎない」と言明したのである。

 例えば、その1人である同社フェローのデビッド・ミッチェル・スミス氏は、「Web 3.0という用語をはやらせようという動きは各方面から出ているが、仕掛け人と目されているのは、仮想技術、セマンティックWeb、モバイルWebなどを売り込もうとしているベンダーだ」と指摘する。

 つまり、スミス氏らは、仮想世界やセマンティックWebといった技術にWeb 3.0のような「新たな総称」をつける必要はないと考えているのである。というのも、それらの技術には「(Web2.0の世界を切り開いた)AJAX、マッシュアップ、ブログ、Wiki(ウィキ)、ソーシャル・ネットワーキング・ツールのような、根本的な変革を引き起こす威力はない」(ガートナーのディスティングイッシュド・アナリスト、ジーン・ファイファー氏)からである。

 「(現在、Web 3.0と呼ばれている技術では)Web2.0に続く新時代を切り開くことはできない。なかには興味深い革新技術も含まれてはいるが、それにしてもせいぜい『Web 2.1』といったレベルだ」(同氏)

社会に、そして企業に定着しつつあるWeb2.0

 いずれにしろ、Gartner Web Innovation Summitの各セッションでも報告されていたように、Web2.0テクノロジは確実に社会に定着しつつあり、企業IT部門がこれを積極的に導入すれば、コラボレーションの改善が図れるだけでなく、企業としての競争力が強化されることになるのは間違いない。

 しかしながら、実際に導入するとなると、事はそう簡単には運ばない。

 ガートナーのフェロー、トム・オースチン氏も、「Web2.0を導入する際の最大の問題は、企業が『どの製品を買えばいいのか、どれくらいの人々が利用するのか』といった点にとらわれすぎてしまうことだ。Web2.0の導入は電話サービスの導入とは違うということを正しく理解していないと、導入したはいいが、結局『何1つ正しく機能していない』といった事態に陥ってしまうことになる」と、安易な導入に警鐘を鳴らす。

 しかしながら、ビジネスを運営するうえで、Web2.0は――好むと好まざるとにかかわらず――もはや避けては通れない存在になっている。その裏には、昨今、職場と個人生活の境界があいまいになっていること、そして、いわゆるデジタル世代が就職年齢に達し、企業に「侵入」し始めたことがある。デジタル世代にとっては、ブログ、Wiki、ソーシャル・ネットワーキング・ツールを使った交流は当然のことであり、職場でも当然それらが使えると思い込んでいるのである。

 仮にそうした環境が整っていない職場であっても、「デジタル世代は勝手にいろんなものを持ち込み、自分たちのプロセスに組み込んでしまうため、会社としても最終的には受け入れざるをえなくなる」(ファイファー氏)のである。

 顧客と販売業者が互いをレーティングし合うeBayのように、若い世代は、Webサイトを使って、同僚、ポップ・カルチャー、教師、製品などのさまざまな側面を評価したがるものなのだ。オースチン氏も、「企業に勤めるデジタル世代は、上司、同僚、さらには顧客までをも(Webサイトを使って)評価するようになるだろう」と、それを認める。

 ガートナーでは、Web2.0市場は2011年まで42%の複合年間成長率で成長を続けると見込んでおり、Web2.0を「早期段階の新興成長市場」と位置づけている。これに対し、電子メールおよびERPは「成熟」と「減退」の間に位置づけられ、またWebコンファレンスは「急成長市場」に位置づけられている。

適切な業務に導入すれば効果は大

 Gartner Web Innovation Summitではケース・スタディの報告もなされたが、オースチン氏が最初に取り上げたのは、米国プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の事例であった。

 同氏によると、これまで同社の研究開発業務はすべてオハイオ州シンシナティにある本社内で行われていたが、「InnoCentive」などのコラボレーティブWebサイトを採用した数年前からは、夜間アルバイター、学生、エンジニア、主婦などからも新製品の開発につながるようなアイデアが寄せられるようになった。そして、今日においては、P&Gにおける新製品の40%が、こうした社外の研究開発(アイデア)に基づいて生まれているという。

 オースチン氏が次に取り上げたのは、イリノイ州シカゴを拠点とするThreadlessであった。Webを介したTシャツの製造・販売を手がける同社では、一般からTシャツのデザインを募って人気投票を行い、その結果に基づいて製造するデザインを決定している。

 ちなみに、毎週選ばれる優勝者には、賞金2,000ドルが贈られることになっている。つまり、同社は、「製品デザインとマーケット・テスティングを社外の一般人の手にゆだね、しかも、そのことによってTシャツ好きの人をしっかり顧客としても取り込んでいる」(オースチン氏)わけである。

 このように、P&G、Threadlessのいずれのケースでも、Webがビジネスを推進するうえでの原動力となっている。

 こうした事例を背景に、オースチン氏は、「Web2.0は、問題解決を早め、従業員のスキルアップを促し、電子メールの有効性を高め、情報と知識の共有と再利用を向上させるための有効な手段だ」と強調する。

 なお、Web2.0を導入するにあたって企業が注意しなければならないのは、Web2.0を実装する個所の見極めだ。ガートナーのリサーチ・ディレクター、アンソニー・ブラッドリー氏によれば、事実の究明や高度な分析といったような業務には、Web2.0はあまり適していないという。

 これに対して、イノベーションやアイデアの多様化を促進したり、人々の認識を把握したりするのが目的であれば、コラボレーティブな構造が求められるため、Web2.0を実装する価値があると言える。簡単に言えば、「Web2.0は、強力なコミュニティ要素を必要としない取り組みには適していない」(ブラッドリー氏)のである。

 そのほか、匿名性については、悪用されるケースが多いので基本的に認めるべきではない、と複数のアナリストが警告している。とはいえ、過剰な制約はイノベーションを抑制してしまう。そのため、あるアナリストが言うように、「ある程度の悪意ある行為はそのつど修正する心づもりでいること」というのが、現実的な対応なのかもしれない。

 最後に、IT部門にとって最も重要な予算についてのアナリストの考え方を紹介しておこう。

 ファイファー氏によれば、例えば、マッシュアップ技術には数十万ドルのコストがかかり、ブログやWikiツールを導入するのにも数千ドル規模の出費が必要になるという。だが、従来型のソフトウェア・インフラを購入・管理するコストと比較すれば、これらは、決して高い買い物とは言えない。

 「新しいテクノロジのために予算を獲得するのは容易ではないが、とてつもない資金を投じるわけではないし、適切な業務に導入すれば期待を裏切る結果にはならないはずだ」(ファイファー氏)というのである。

(ジョン・ブロドキン/Network World オンライン米国版)

米国ガートナー
http://www.gartner.com/

提供:Computerworld.jp