中国政府のインターネット検閲は不完全――実証実験で明らかに

 米国の研究家グループによると、不快な情報が自国のインターネット・ユーザーの目に触れないようフィルタリングする中国政府の検閲システム(通称 Great Firewall of China)は、実際にはすべてを見渡せる監視塔のようなもので、真の意味でのファイアウォールではないという。監視されていると思わせることで国民に “自主検閲”を促したいというのが、中国政府の本音のようだ。

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こちらは、中国国内からアクセスできるサイトかどうかをチェックしてくれる「 greatfirewallofchina.org 」。中央付近をクリックしてサイトのURLを入力する。検閲によってアクセスがブロックされるサイトの場合は「Your URL is Blocked!」と表示される

 「やり方の違いこそあれ、何らかのインターネット検閲を実施している国は多い。一般には、特定のWebサイトやアドレスをブロックするシステムが使われている」と、カリフォルニア大学デイビス校の大学院でコンピュータ・サイエンスを専攻する研究者、アール・バー氏は話す。中国の場合は、「Webコンテンツにキーワード・フィルタリングをかけ、Webページを選択的にブロックするというやり方だ」(同氏)という。

 バー氏は、ジェド・クランドール氏をはじめとする数人の研究者とともに、英国ケンブリッジ大学の研究者らが2006年に開発したシステムを使い、中国の複数のインターネット・アドレスに対し、不快と思われるさまざまな単語を含むメッセージを送信した。

 もし中国政府の検閲システムが真のファイアウォールだとしたら、これらの単語は中国のインターネット国境でブロックされるはずである。だが、実際にはブロックされるまで複数のルータを通り抜けたメッセージもあったと、バー氏は説明する。

 同氏はさらに、「禁止されている単語やフレーズはすべてブロックされるはずなのに、実際には実験対象パスの28%が宛先アドレスまで到達した。インターネットのトラフィックが重いときは、フィルタリング性能が悪化する傾向が見られた」と指摘する。

 研究者らは、使用する単語をランダムに選んだわけではない。中国版ウィキペディア(Wikipedia)から単語を1つ1つ抽出し、それぞれの単語の関係を知るため潜在意味解析(LSA)という数学的手法を用いた。そして、どれか1つの単語が中国の検閲対象であることがわかったら、その単語に近い関係にあり同じくブロックされそうな単語も調べた。

 実験の結果、中国で禁止されていたのは、法輪功運動、1989年の天安門事件、ドイツのナチをはじめとする歴史的出来事、そして民主主義と政治的抗議活動に関する単語だった。

 最近カリフォルニア大学デイビス校を卒業し、現在はニューメキシコ大学工学部でコンピュータ・サイエンスの准教授を務めるクランドール氏は、キーワード・フィルタリングについてこう説明する。

 「例えば米国の議会図書館から、白人がアメリカ・インディアンを虐殺した“Wounded Knee massacre(ウンデッド・ニーの虐殺)”に関する歴史を消し去りたいとする。その場合、“Bury My Heart at Wounded Knee(我が魂を聖地に埋めよ)”といった数点の歴史書を取り除くか、あるいは図書館全体から“massacre(虐殺)”というキーワードを含むすべての書籍を排除する方法がある」

 研究者らによると、中国のインターネット検閲もこうしたキーワード・フィルタリングに基づいているという。

 キーワード・フィルタリングの場合、特定のWebサイトをブロックするのでなく、特定の言葉をフィルタリングする。そのため、プロキシ・サーバやミラー・サイトを使って検閲を回避しようとしても無駄だ。ただし、キーワード・フィルタリングは100%有効な方法ではないため、中国政府としてはユーザーの自主検閲を求めざるをえないのだろうと、バー氏はみている。

 「中国のインターネット・ユーザーは、特定の単語や思想、概念がかなりの割合でブロックされているのを見て、そうした話題は避けたほうが賢明だと自己判断しているのかもしれない」(バー氏)

(リンダ・ローゼンクランス/Computerworld オンライン米国版)

提供:Computerworld.jp