虚言に満ちたプロプライエタリ系ソフトウェアベンダによるオープンソース批判
仮に無知が罪として問われるならば、今ごろGreene氏は絞首台で宙づり状態になっていて然るべきだろう。同氏によるウソで塗り固められた主張のデタラメ具合に比べれば、厚顔無恥で知られる企業のPR部門で働く連中ですら色あせてしまうくらいだからだ。今回Greene氏は、同氏の語るところのオープンソースにまつわる3つの誤解をベースにして、独自のマーケッティング戦略を繰り広げている。本稿では、やや後ろ向きの喜びに浸りつつ、同氏の主張を1つずつ検証していこうと思う。
主張その1:「オープンソースはフリーである」というのは誤解に過ぎない
さて、2007年という今日を取り巻く環境において、「free as in speech, not as in beer」(自由の意味のフリーで、無料の意味のフリーではない)というお馴染みのスローガンを耳にすることもなく、その意味を理解することもなく生活できるものだろうか? どうやらGreene氏はそうした難事業を達成しているようである。なにしろ同氏は、オープンソースソフトウェアを非難する理由として“人件費がかかる可能性”なるものを持ち出しているのであるから。
不幸なことにGreene氏は、オープンソースに関する誤解として自らが掲げた怪しげな主張を、自身の手で破綻させている。例えば、信頼性を備えたオープンソース系ネットワーク用ソフトウェアなどは、インターネット上を探せばいくらでも見つかるものであり、それを入手するのに余分な人件費などは必要とはしないし、それ以前に同氏の主張する「hefty service fees」(法外なサービス料金)をユーザがしぶしぶ支払う必要などもありはしない。この人は、Apacheというオープンソース系プロジェクトの存在を聞いたことがないのだろうか? Webサーバの世界に話を限れば、かのMicrosoftといえどもこのソフトウェアの前では赤子のごとき立場と化すというのに。
ところで、Greene氏の経営するIpswitchについて少し調べてみたところ、同社のWebサイトでは、Windows 2000サーバ上でWindows IIS 5.0を運用していることが判明した。その他のWindowsユーザの例に漏れず同社のサーバも毎週1度は再起動をさせる必要があるようなのだが、やはりGreene氏に言わせれば、そうしたダウンタイムに付随する損失などは、これらサーバ製品がもたらすセキュリティと信頼性に比べれば取るに足らないものでしかないということになるのだろうか? 私が思うに、仮にサーバが頻繁なリセットを必要としないのであれば、そうしたサーバの製造元は巨大なリセットスイッチを筐体の前面に配置しようとはしないのではないだろうか?
主張その2:「オープンソース環境でのバグフィックスは迅速かつ安価に行われる」というのは誤解に過ぎない
Greene氏は、これが誤解であるという主張を裏付ける証拠を何一つ提示していない。同氏が行っているのは“それが正しくない”と語るのみで、「Can you really afford to wait for one [developer] to agree with you on the urgency of action if your network is down?」(手元のネットワークがダウンしたら(開発者に)事態の緊急度を理解してもらうなどという悠長なことをしていられるだろうか?)と読者に問いかけているだけである。
一つ明らかなのは、欺瞞に満ちたプロプライエタリ系ソフトウェアの方が、透明性を備えたオープンソース系ソフトウェアよりもGreene氏にとっては好みであるということだ。例えば昨年Appleが同社のワイヤレスセキュリティに関する欠陥を認め渋ってなかなか対処しようとしなかった際にも、この人物はそうした態度を問題視せず、その一方で、同種の問題についてBSDプロジェクトが迅速に対処したことは無視していたのである。
主張その3:「ツールを“素材”として入手すれば後は社内のITスタッフが必要に応じたものに仕上げられる」というのは誤解に過ぎない
まず第1に、この件に関してGreene氏は“オープンソース系ソフトウェアは提供されているそのままの状態では使い物にならない”ということをほのめかして、実用に供するにはユーザによるカスタマイズが不可欠だとしている。確かに、オープンソース製品を使うに当たってユーザ側が何らかのカスタマイズを施すことができるのは事実ではあるが、特にカスタマイズする必要がなければそのままの状態で実務に使えるのは、プロプライエタリ系ソフトウェア同様にオープンソース系ソフトウェアにも当てはまる話である。
そして第2に、ここでの誤解についても先の場合と同様Greene氏は“それが正しくない”ことを示す証拠を何一つ提示していない。その代わりに同氏が行っているのは、オープンソース系ソフトウェアを利用している企業は、「will migrate to commercial software as business demands outgrow the ability of open source and the capacity its in-house technology advocates」(業務上の要求がオープンソースの機能や社内のITスタッフの能力では賄えきれなくなって、商用ソフトウェアに切り換えることになる)という主張を根拠もなく書き連ねているだけである。
このようにGreene氏は、自らが創作したウソという名のソフトボールをもののみごと三球三振している訳だが、そもそもこの人物は何故しゃしゃり出てきたのだろう。その理由は推測するしかないのだが、私が思うに、欲望という要素が働いているのではなかろうか。というのもGreene氏の率いる会社は、ネットワークモニタリング、セキュアファイル転送、電子メールサーバに関係するソフトウェア製品の販売を手がけているのだが、その業績を、Nagios、GroundWork Open Source、FileZilla、Sendmail、Qmail、Postfixなどのオープンソース系ソフトウェアが圧迫している可能性が考えられるのである。
おそらくは世知辛い競争社会の厳しさが、これらソフトウェア製品の日々の売り上げを生活の糧としている同氏の脳裏に作用して、この種の問題に関して発言する際の客観性を奪い取り、競合製品を妨害しようとするFUD行為を可能な限り手広く展開しようとする動機となったのであろう。
そのような立場にあるGreene氏に対して『Network World』がオープンソースの危険性に関するコメントを求めるのは、反リベラルで知られるAnn Coulter氏に同性愛の公認に賛成票を投じるかを尋ねたり、あるいは民主党員にブッシュ現大統領を信任するかを質問するようなものである。いずれのケースにしろ、どのような答えが返ってくるかは聞くまでもないはずだ。
世の中には、競合するオープンソース系ソフトウェアよりも優れているプロプライエタリ系ソフトウェア製品も確かに存在している。同じく、ミッションクリティカルなソフトウェア製品で、オープンソース系の同等品が存在していない分野も存在している。またオープンソースであっても、品質や信頼性の点で疑わしいプロジェクトも存在している。こうした事実を今回の「Face-off」欄の記事から『Network World』の読者が得ることはできない。カスタマや読者に“一方的なマーケッティング上の理由のみで成立する真理”を客観的分析であるかのごとく装って提示するのは、闇に閉ざされた商用ソフトウェアの世界やそれらの追従記事を載せることで潤うマスコミ業界ではありふれた手口かもしれず、先の見えた企業がその場限りの取り繕いで糊口をしのぐのに多少は役立つかもしれないが、それ以外の人々には何のメリットももたらさないのである。