Sidux――不安定版DebianをベースとしたライブCDディストリビューション
これまでの私の人生において、実際に試用する前のディストリビューションに感銘を受けたという経験はほとんどないのだが、siduxはそれに成功した希有な存在である。というのも、リリースから2日しか経っていないプレビュー版のダウンロードと焼き込みを完了した数時間後に、その次のリリースがダウンロード可能である旨が同プロジェクトからアナウンスされたからだ。迅速なリリースという方針を厳守しようとするsiduxチームの姿勢が伺える。
この新規版リリースをダウンロードしている間、私は関連フォーラムを覗いてみたが、いずれも非常に活発な活動をしている様子が見て取れた。誕生後数カ月の歴史しか有さず、未だ最初のファイナルリリースにも達していない新参ディストリビューションであることを考慮すると、既にかなりの人気を博していることの裏付けだと考えていいだろう。
ライブCDのハードウェア認識機能は、私の試したいくつかのシステムにおいて正常に動作しており、ハードディスクへのインストール作業そのものも非常に簡単で、パーティション作成、フォーマット、ベースパッケージのインストール、設定、システムのアップデート、追加ソフトウェアのインストールなど、個々の手順をステップバイステップに実行できるようになっている。
インストール時には、デフォルトのKDEの代わりに使用するウィンドウマネージャとして、Xfce、fluxbox、fvwm-crystalのいずれかをユーザが選択することも可能だ。作業の大半はインストーラが自動的に処理してくれるので、その間に私はコーヒーブレイクで一服することができた。オプションの追加パッケージをダウンロードするメタパッケージインストレーションの実行に関しては、ベースインストレーション時の約3倍の時間を要したが、所要時間の合計は45分ほどで済んでいる。
インストール時に私が遭遇した最大の問題は、APTを介した追加パッケージのインストールを行う段階で、新規パッケージを追加するごとにユーザによる「y」の入力が求められたことである。このためインストールの後半、私はマシンの前に拘束され、画面をにらみ続けなければならなかった。とは言うもののその間は、フレンドリーな雰囲気で活発な議論が交わされていたチャットルームにデスクトップにあるIRCショートカットを介して参加できたため、この待ち時間もさほどの苦になった訳ではない。なおこのチャットルームでは複数の言語で様々な質疑応答が繰り広げられており、私は主として英語とドイツ語でのやりとりを眺めていた。
siduxをインストールする手段は、こうしたライブCDのみに限られている訳ではない。私もチャットの中で知らされたのだが、制作者名を冠したh2’s scriptというスクリプトを使うと、KanotixおよびDebianインストレーションをsiduxにアップグレードさせることが可能だというのだ。このスクリプトが行うのは、既存のソースを削除してsiduxのソースをポイントし直し、siduxのキーリングをインストールするという処理である。ただしKanotixからのアップグレードについては将来のバージョンで削除される予定とのことなので、アップグレードするなら今のうちということになる。何らかのトラブルに遭遇した場合は、sidux関連のフォーラムにメッセージを投稿すればいいが、各種のIRCチャンネルでも活発な情報交換が行われている。
siduxシステムのセットアップが終了したところで、ちょっとした事実を発見した。このディストリビューションの場合、その作成方針に従って、CSSデコーダやFlashプレーヤが同梱されておらず、デフォルトのシステムにインストールされるフォントやマルチメディア系コーデックもフリーなものだけで占められているのである。つまりsiduxチームは、完全にフリーなソフトウェアだけで構成することを目指しているのだ。不足分を自分でインストールする作業は別手間になるが、制作側の意図も十分に理解できるので、特別反論をする気はない。なおドライバ類を含めた非フリー系ソフトウェアをリポジトリから取得するには、APTソースファイルを編集する必要がある。
こうしたフリーソフトウェアベースという理念を貫くため、siduxの開発はすべてボランティアによって支えられている。寄せられる支援金もその全額が、インフラストラクチャの整備、回線容量の確保、装置のテストに回されるそうだ。
読者の中には「Debianとの共通部分がこれだけ多いのならば、オリジナルのDebianを差し置いてこちらを選ぶ理由は何なのだ?」という疑問が浮かんだ方もおられるだろう。これと同様の質問を何人かのsiduxユーザにぶつけてみたところ、得られた回答で多かったのは「操作が簡単だから」というものであった。確かにインストールは呆気ないくらい簡単であるし、ハードウェアの認識力も非常に優れている。私自身は根っからのDebianファンなのだが、正直siduxと比べると、インストーラのユーザフレンドリ度とセットアップの手軽さの点でDebianの方が劣っていることを認めざるを得ない。
またあるユーザからは、彼の使うAthlon64システムに搭載されたハードウェア群を正確に認識できたディストリビューションはsiduxだけであった、という話を聞かされたことがある。その他、siduxはワイヤレスサポートの点で優れているのでラップトップ用のディストリビューションに適している、という意見を述べたユーザも何人かいた。開発者側が自慢しているのは新たに導入されたISO作成プロセスであって、これを用いるとディストリビューションのカスタムフレーバを極めて短時間で作成することができるので、将来的には特殊な用途の専用バージョンを作成する際に利用することを検討しているとのことだ。
siduxを選択して得られるものは、こうした操作性に優れた最新版のシステムだけではない。例えば、現状で公式にサポートされている訳ではないが、既に多くのユーザはsidux用のBeryl(3Dデスクトップ対応のウィンドウ・マネージャ)を利用している。3Dデスクトップは趣味ではないというユーザであれば、任意のアートワークを選択して、siduxのデスクトップを自分好みのスタイルに演出することも可能だ。
私が使用してきた範囲において、sidux関連のトラブルに遭遇したことはないが、最先端のソフトウェアであるからには何らかの不具合が発生する可能性は否定できないはずだ。公開直後のアップグレードを適用し続けるのであれば、そうしたデメリットを抱え込むことも覚悟しなければならない。siduxは操作性と高速性を両立させたディストリビューションであり、たいていの機能は問題なく動作する。位置関係としては、UbuntuよりもDebianオリジナルの姿に近いと言えるだろうが、実際Ubuntuでは失われたDebianとの互換性を維持している部分も多い。サポートに関しても活発に活動しているコミュニティが存在し、ドキュメント類も各種の言語版が整備されている。これらすべてを総合した上で、siduxは秀逸なディストリビューションの1つだと結論づけていいだろう。
Preston St. Pierreは、コンピュータ情報システムの学生としてUniversity of the Fraser Valley(ブリティッシュコロンビア州、カナダ)に在籍している。