FOSSコンサルティングの優位性と課題

フリーおよびオープンソースソフトウェア(FOSS)が主流になってきたことをはっきりと示す徴候として、FOSSに特化した小規模コンサルタント業者の増加が挙げられる。地域のユーザ・グループやハイテク・フォーラムに名前を載せるほか、多くの場合は自ら売り込みを行うが、こうしたコンサルタントがトップ記事で取り上げられることは滅多にない。それでも彼らは、現在の北米各都市における小規模事業のなかではかなり大きなグローイング・ニッチ(成長する隙間市場)を代表する存在なのである。

独立系コンサルティング業におけるFOSSの役割を理解するため、それぞれに経歴の長さが異なる典型的なコンサルタント3名に話を伺った。1998年に香港でFOSSコンサルタントとして開業、その後事業の拠点をカナダに移したSEB Global IntertechのSteve Bougerolle氏、4年前からVG Universe Designを経営しているVivien Anayian氏、そして大学のコンピュータ・サイエンス学科を最近卒業してrmd Studioという名でフルタイムのコンサルタント業を始めたばかりのRastin Mehr氏である。彼らは皆、FOSSに賛同する人々が増えていることについて、また現在FOSSコンサルタントが感じている優位性や抱えている潜在的な問題について話してくれた。

FOSSの選択

彼らのようなコンサルタントにとって、FOSSを扱う仕事を選ぶことは難しい決断ではなかった。Bougerolle氏とAnayian氏はどちらも、以前の本業でFOSSの仕事を経験したうえでコンサルティング業に手を広げている。Mehr氏がFOSSを扱う仕事を選んだのも同じような理由からだ。「学校でコンピュータ・サイエンスを学ぶと、絶えずオープンソースを扱うことになる。そうこうするうちにオープンソースのあらゆるツールに慣れてしまったので、プロプライエタリなソフトウェアに乗り換える理由なんてまったく見当たらなかった」。Mehr氏には、彼自身が「熱狂的な.NET開発者」と呼ぶ友人が大学にいたのだが、その友人の誘いに乗ろうとしたことは一度もなかったという。「彼にできることは何でも理解できたし、オープンソースでも同じことができた」とMehr氏は語る。

彼らの決断をさらに容易にしたのは、大半のクライアントが関心を示すのは結果であって、その結果を得るためにどんなテクノロジを使うかにはそれほど関心がないという事実だった。Bougerolle氏は、香港でコンサルタントをしていたときのことを最初は「途方もなく困難な仕事」と述べ、やがては自身のビジネスを「実入りのない仕事」とまで言い切り、数年前にカナダに戻ってきたわけだが、当時の状況について彼は、自身の専門性よりも経済的環境の厳しさと経験不足に起因した問題があったと語っている。「最近は、2週間か1週間に一度はクライアントから相談の電話がある」と話す彼は、クライアントを失うことを恐れてはいないとも言い、その理由を次のように説明する。「オープンソースのソリューションを求めているのでなければ、私以外の人でも対応できるからね」

Anayian氏とMehr氏にとっても、FOSSの専門家であることが仕事のうえで不利になることはない。Anayian氏は次のように話す。「クライアントの皆さんは、私がどんなソフトウェアを扱っているのかを本当に気にしていません。もちろん私が仮に、何らかのソフトウェアのために支払いが必要になります、と言えば気になさるでしょう。ですが、私が追加料金を請求することは一切ないので彼らは満足してくれます。ほとんどの場合、彼らは私がどんなソフトウェアを扱っているのか知ってさえいないのです」。事業は順調そのものと彼女は言う。「クライアントがASPやColdFusionによるWebサイトを必要としていることがわかった場合、そのプロジェクトはお引き受けしません。いつでも他の仕事を見つけることができますから」

Anayian氏やBougerolle氏よりも経験の浅いMehr氏ですら、クライアントがプロプライエタリなソリューションを求めるケースについて次のように述べている。「そういうクライアントは誰かほかの業者に紹介する。オープンソースだけを求めるクライアントはたくさんいるので、僕はクライアントの選り好みができる立場にある」

ビジネス面の優位性

ご想像のとおり、今回話を伺ったコンサルタントは3名とも根っからのFOSS支持者である。「オープンソースソフトウェアを対象にした仕事をしているからといって特に不都合なことはありませんが、メリットならあります」とAnayian氏は言う。具体的には、新しいテクノロジの学びやすさと、コーディングの問題に対する解決策をインターネット上ですばやく見つけられる点を彼女は挙げている。他の2人はもう少し控えめな意見だが、FOSSにビジネス面での優位性があるという点については概ね同意している。

顧客に話をする際、Bougerolle氏はFOSSについて「安価で出来も良く、より優れたものになると、特に信頼性が高い」ことを強調している。Mehr氏もほとんど同じような口ぶりで「素晴らしい歴史と優秀なコミュニティを持つオープンソースプロジェクトであれば、一般にその品質はきわめて高い」と話している。彼は具体的に昨年のGoogle Summer of Codeの期間中に携わったことのあるJoomla!に言及し、「これは最先端のプロジェクト管理システムだが、彼らがその内容を実践している」とも述べている

また、Mehr氏は「修正やセキュリティ対応の多くはプロジェクト側で行われるので、クライアントはそれほど多くの作業に追われなくて済む」とも話す。彼は自らの経験に基づき、定評のあるFOSSプロジェクトは比較的迅速にバグ報告に対応していると信じており、そうした事例として「報告からわずか6~8時間後」に問題が修正されたFOSSの例を挙げている。一方、「プロプライエタリなソフトウェアでは、企業側の対応を待たなければならず、そのことで途方にくれた後でやっとパッチのリリースが決定される」と彼は話している。

ただし、仕事の多くでコンテンツ管理システムを扱っているMehr氏は、FOSSの大きなメリットはすぐに利用できるアプリケーションが豊富に存在することだと感じている。「すべてをスクラッチから作る必要なんてない」とMehr氏は言う。それどころか、彼はクライアントに追加費用を少しも負担させることなく、さまざまな成熟したソリューションを提供することができる。「僕がやるべきことは、クライアントのビジネスモデルに関係するソフトウェアを仕上げることであり、そのソフトウェアに関するビジネスモデルを完成させることではない。結局のところ、それがクライアントのニーズなんだ」と彼は言う。

だが、さまざまなソリューションを提供するために、彼は「そのアーキテクチャについて自分が知ることのできる限りのことを知り、どのソリューションがクライアントのニーズに合うかを知るためにその機能について知る」必要がある。彼が特定のソフトウェアの専門家として自らを売り込むことはない。というのも、時間の経過に伴う各プロジェクトの発展や移り変わりによって自分の使用するツールもまた変わっていくことを想定しているからだ。

課題

熱烈に支持する態度を表明しているにもかかわらず、3名のコンサルタントは彼らの専門分野であるFOSSの課題についても率直に語ってくれた。Mehr氏は最新のFOSSプロジェクトを賞賛しながらも、プロジェクトの初期段階では、プロプライエタリなソフトウェアに比べて「成熟するまでにずっと長い時間がかかる」と述べている。

また、この10年でFOSSに見られたあらゆる改善内容にもかかわらず、FOSSに欠けている点もまだいくらか残っている。「場合によっては、単純に欲しいものが見つからないこともある」とBougerolle氏は話す。「たとえば、誰かがオープンソースのパブリッシング・システムを求めてきた場合は、その希望には添えないと正直に伝えることになるだろう」

もう1つの課題は、FOSSの多様性に目を向けながら最新の開発状況を追い続けることだ。世間の認識とは違ってプログラマは1日の仕事時間の半分しかコードを書いていない、とMehr氏は言う。「残りの時間は、オンライン・マニュアルやWikiを読んだりフォーラムの投稿に目を通したり、また他の人々との連絡や話し合いをするのに費やされる。僕たちは毎日そうやって過ごしている。そこには手に負えないほどの仕事があふれている」

Anayian氏は、ブログやコンテンツ管理システムのようなWeb 2.0テクノロジがビジネスコミュニティによるFOSSの理解に役立っている、と述べる。しかし、FOSSの理念についての説明は、依然としてFOSSコンサルタントが気を遣う部分だ。Mehr氏は次のように回想する。「小切手を手渡してくれようとしたクライアントから‘ところで君たちはオープンソースでどうやって稼ぎを得ているのか’と尋ねられたことがあった。そのときは確か‘たった今あなたから小切手を頂きましたが’のように答えたかな」

Bougerolle氏は、何よりもライセンスの問題を挙げている。「ライセンス条項には注意しなければならない。オープンソースコミュニティから入手したものを売れると思っている人がいる。たとえば、そういう人たちはパブリックドメインとGPLの違いを知らない。しかし、企業にソリューションを売ろうとするなら、彼らにはライセンス条件をきちんと知ってもらう必要がある。ライセンスについて詳しいことを知らなければ、どんなものを探せばよいのかもわからない」。クライアントがわざわざライセンスの問題を理解しようとまではしない場合は、彼らをライセンスに従わせることもコンサルタントの責任になる。

Mehr氏の意見もほぼ同じだが「私の場合は、ソフトウェアを自分たちのものにしたいと考えている顧客が多い」と述べている。そうしたケースにおいて彼は、スクラッチから開発すれば何百万ドルとかかるものを数万ドルで手に入れようとしていることを述べるとともに、さらにそのソフトウェアを自由に変更できることを強調するという。

Bougerolle氏は、FOSSの人気が高まるにつれ、世間で言われているFOSSに関する神話の誤りを正すのに時間がかかるようになったとも感じている。「FOSSはセキュリティ面で安全だと勝手に想定する人が多いことにはやはり驚かされる」と彼は言う。「ほとんどのソフトウェアがダウンロードによって得られたものだという事実だけからでもその誤りに気付いてもよさそうなのだが」

また彼は、クライアントがいつもメンテナンスの必要性とコストを見過ごしている点も認めている。「問題は、彼らがたいてい私の言うことを信じてくれないことだ」

こうした課題をあからさまにすることはFOSSにとって好ましくないのではないかとも思えるが、それは違うとコンサルタントたちは言う。Mehr氏によると、企業の幹部の多くは「学校でオープンソースのビジネスモデルについて学んでいないからそんなものは知らないし、その存在も完全に否定している」という。多くの場合、コンサルタントは、クライアントがそうした状況から抜け出せるように救いの手を差し伸べる必要がある。

Bougerolle氏は、もっと重要なのは誠実さが専門知識の少ないコンサルタントとの差異化に役立っていることだと述べる。「Linuxに関わる人々の多くは、きわめて専門家らしくない主張を始めようとしている。そんなことをすれば、自分自身をプロフェッショナルとして認めないことになる」

FOSSコンサルタントはあい対するプロプライエタリなソフトウェアを利用できないことに不安を感じるかもしれないが、インタビューに応じてくれた人々は、結局、必要以上の努力をしたことはクライアントの満足感、リピート案件、口コミによる評判の拡大という形で報われるのだと伝えている。クライアントについてMehr氏は次のように語る。「彼らはいつもどおりに仕事ができるように、ただ問題を解決したいだけだ。だから、教育課程を修了したばかりでも、いい仕事をしさえすれば多くの顧客を幸せにできる」

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクタで、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。

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