IT業界キーマンに聞く──2007年に求められる人材とそのトレンド
【注目1】 IT業界でサバイバルするためのスキルとキャリアとは
「セキュリティ分野の報酬は、今年後半から急騰する」
──米国フート・パートナーズCEO兼最高研究責任者、デビッド・フート氏
一言で「IT業界の仕事」といっても、その内容は多岐に渡る。専門技能別で報酬見た場合、良好なのはアプリケーション開発全般だ。昨年後半よりエンタープライズ・ビジネス・アプリケーション開発や電子商取引アプリレーション開発に携わる労働者の報酬は右肩上がりである。今年はこの傾向がさらに加速するだろう。
その他にはBI(ビジネス・インテリジェンス)ソフトウェア開発や、ストレージ分野のネットワーキング、企業プロジェクト管理のスキルを持った労働者の報酬もアップを期待できるだろう。
なかでもITセキュリティ技能を持った労働者の報酬は、うなぎ登りとなりそうだ。同分野の報酬は今年後半から急騰し、その後数年は“高値安定”が続くと予想される。
「旧来型の年功序列が崩壊し、分権化が進む」
──カナダ・シンジケイテッド・リサーチ企業ニュー・パラダイム社長ドン・タプスコット氏/副社長、マイク・ドーバー氏
今年は企業がみずからの組織のあり方を見直す年となるだろう。旧態依然とした年功序列体制にピリオドを打ち、専門分野に特化した人材が権限を持てるような新たな環境作りが必要となる。
「インターネット世代」と呼ばれる若い世代がそれぞれの専門分野で最大限の実力を発揮できるような環境とシステムを構築しなければならない。
ただし、誤解をしてほしくないのは、若い世代は必ずしも管理されることを嫌悪しているわけではないということだ。むしろ、自分の実力と成果を正当に評価し、適切に指導してくれる監督者の必要性を感じている。
「“オールマイティIT”から“スペシャルIT”の時代へ」
──米国フート・パートナーズCEO兼最高研究責任者、デビッド・フート氏
やみくもにIT化を推進する時代は終焉した。今年はこれまでに行ってきたIT化が自社のビジネスにどのような役割を果たし、実際にどのような利益をもたらすかを再検討するときである。そのような中で重要視されるのは、以下の業種だろう。
プロジェクト/プログラム・マネジャー、ビジネス・アナリスト、ビジネス・プロセス・マネジャー、ストラテジスト/社内コンサルタント、社内リレーションシップ・マネジャー、IT財務スペシャリスト、ベンダー・マネジャー、IT人事スペシャリスト、
さらにアプリケーション開発、データベース管理、ITセキュリティ管理、エンタープライズ・アーキテクト、システム分析、ストレージ管理、Webサービス、ネットワーキング、Webサイト開発といった分野も注目されている。これら分野のスキルを持つ労働者は引っ張りだこになるだろう。
「要求される学位は学士レベル。理系人間は超売り手市場に」
──カナダ・シンジケイテッド・リサーチ企業ニュー・パラダイム社長ドン・タプスコット氏/副社長、マイク・ドーバー氏
複雑なマネジメント・サイエンス・アルゴリズムの普及に伴い、最先端のIT職種では、高度な数学の学位が採用条件として求められるだろう。例えばグーグルの募集要項を見ると、営業職でさえも理学士号取得が条件になっている。
【注目2】 今年も最優先事項はセキュリティ分野
「法令順守に即したアイデンティティ管理と情報セキュリティ管理が重要に」
──米国ミネソタ・プライバシー・コンサルタンツ社長、ジェイ・クライン氏
大企業では社内で保持している情報が分散化されている。さらに、アプリケーションの統合が複雑であるため、内部統制ができていないのが現状だ。そのような状況は、法令順守に即したアイデンティティ管理と情報セキュリティの確保が要求されるだろう。
「先端技術には常にアンテナを張るべし」
──米国インターナショナル・セキュリティ・マネジメント・アソシエイツ創設者兼CIO、マーク・ガーテンバーグ氏
クライアント企業の情報を扱う際には、細心の注意を払う必要があることは言うまでもないが、特に身元を特定できるような個人情報の取り扱いには、気をつけたい。それには最新技術の動向に常にアンテナを張っておく必要がある。
例えば、バイオメトリックス認証やマルチファクタ認証を内蔵したコンピュータの導入を検討するのも1つの手段だろう。また、電子商取引を行う時にも何かの認証技術を導入するべきである。
「物理的な安全を追求すると、サーバは地下に潜る」
──米国レバレッジ・パートナーズマネージング・ディレクター、バート・パーキンズ氏
情報セキュリティを考える際には、自然災害や暴動、テロリストによる攻撃なども考慮する必要がある。今後は、セキュリティを確保する“場所”として、地下のサーバセンターが重要性を増すだろう。
外敵の侵入防止と自然災害からの隔離を考えれば、地下ほど最適な場所はない。
【注目3】 既成概念は崩壊し、新たな指針が生まれる
「CIOの“I”は“イノベーション”か“インフラストラクチャ”に」
──米国ケース・ウェスタン・リサーブ大学バイスプレジデント兼CIO、レヴ・ゴーニック氏
企業の規模を問わずCIO(最高情報責任者)は多忙を極め、その任務は多岐に渡る。日々のマネジメントに追われるCIOを見ていると、その業務内容が近年ドラマチックに変貌していると実感する。
もはや、CIOが「Chief “Information” Officer」と呼ばれていた時代は終わった。今年はCIOが「Chief “Innovation” officer」(最高イノベーション責任者)と呼ばれるか、「“Cheap Infrastructure” Officer」(チープなインフラ責任者)と呼ばれてしまうのか決定される年となるだろう。
多忙ゆえにその判断力が鈍ったCIOは、「ドクター・ノー」と「チープなインフラ屋」をミックスしたような人間に成り下がる気がしてならない。
「新たなIT経済学を理解すべし」
──米国ガートナーシニア・アドバイザー、ハワード・A.ルーベン氏
今年のIT業界における最大の課題は、実践に即したIT経済学を極めることだ。目先のコスト・ダウンにとらわれると痛い目にあう。ムーアの欠陥──ユニット・コストが下がれば、ビジネスの複雑さがそれ以上に増し、結果的にトータル・コストが高くなる──の被害者とならないよう、ビジネスの大局を見極める目を養う必要がある。これに成功した企業は高い競争力を持つことができるだろう。
「情報を取捨選択する能力をつけるべし」
──米国INGインシュアランス・アメリカズCTO(最高技術責任者)、レイモンド・カレンバウアー氏
過去10年間、企業はエンタープライズ・インテリジェンスを充実させるべく、あらゆる情報を収集/蓄積してきた。その結果、ほとんどの企業にはみずからの情報をはじめ、顧客、サプライヤーに関するデータが溢れかえってしまっている。今年はその中から信頼できる情報を抽出する作業が必要になるだろう。
「超低価格PCの登場で、IT業界は再編成される」
──レバレッジ・パートナーズ、マネージング・ディレクター、バート・パーキンズ氏
今年のトレンドの台風の目は、超低価格PCだ。マサチューセッツ工科大学メディアラボの創設者であり、同ラボ名誉会長のニコラス・ネグロポンテ氏は、同氏が旗振り役となって、今年末までに1,000万台の100ドルPCを世界の貧しい子供たちに配布することを計画している。
これらの超低価格PCは先進国もターゲットとして、市場に登場することが考えられる。そうなれば、PC業界の価格体系は一新され、新たなIT経済学が生まれるだろう。
【注目4】 “ニッチ”テクノロジーが大化けする?
今度こそ、今年こそVoIPの波が到来
──カナダ・シンジケイテッド・リサーチ企業ニュー・パラダイム社長ドン・タプスコット氏/副社長、マイク・ドーバー氏
今年は企業による大規模なVoIP導入が見込まれる。スカイプなどのプロバイダーからは、さらに低価格(無料の場合もある)で高品質な製品が提供されるだろう。
今までVoIP導入の足かせになっていたのは、ハードウェアのリプレース期間だった。ここ数年、大規模なリプレースを行った企業は多くなく、それがVoIP普及の障害となっていたことは否めない。
今年は一般ユーザー向けのWindows Vistaがリリースされる。Windows Vistaを導入する企業は、PCのリプレースを行うだろう。その時にVoIPを活用できるソフトウェアとヘッドセットを社員に提供する企業が続出することも考えられる。
「音声認識機能が実用化へ、コスト削減の切り札に」
──レバレッジ・パートナーズ、マネージング・ディレクター、バート・パーキンズ氏
一般に普及しているとは言えない音声認識機能だが、今年は同機能が活用される場が増加するだろう。
例えば、自動車やサーバ内の故障予知などがそれにあたる。米国にある三菱電機研究所では、部品が劣化したことにより発生する、きしみ音や異常音を識別する音声認識ソフトウェアを開発中だ。長期的に音声分析することで、視覚的な検査技術よりも信頼性が高い故障予知が可能となる。そしてこれらは低価格で提供されるようになるだろう。
(Computerworld 米国版)
提供:Computerworld.jp