成長著しいHPC市場、2010年には143億ドルに

 ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)の市場が成長を続けている。調査会社IDCによると、HPC市場は年9%のペースで拡大中だ。ハードウェア・ベンダー各社も、大型で使いやすい高性能クラスタ製品の開発に意欲的に取り組んでいる。

 IDCのディレクターであるアディソン・スネル氏は、HPCに対する支出が今年は100億ドルを超え、2010年には143億ドルに達すると予測している。「HPCは、最も成長著しいIT分野の1つだ」と同氏は言う。

 米Sun MicrosystemsやSGI、Linux Networksなどは、高性能のクラスタ製品をすでに製品化済みだ。これらの製品に共通しているのは、「セットアップの容易さや使いやすさを重視している」(スネル氏)という点である。

 このほど米国フロリダ州タンパで開催された「HPC International Conference on High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis(SC06)」は、厳密に言えば学術的な会議だ。だが、広大な会場フロアからは、成長著しいHPC市場でシェア拡大をもくろむベンダー各社の意気込みが感じられた。各社とも、手の込んだ巨大なブースにシステムを展示し、セットアップの容易さを強調していた。

 イリノイ大学にあるNCSA(国立スーパーコンピューティング応用センター)でプログラム・マネジャーを務めるテリー・マクラーレン氏は、ベンダー各社が使いやすさをアピールしていることを、「経験の浅いユーザーや、利用経験が長くないユーザー・コミュニティにとっては価値がある」と評価する。ただし、同氏は併せて、「先端技術という点から見た場合、使いやすいかどうかはあまり関係ない。技術革新のスピードについていくことのほうが重要だ」とも語り、専門知識を持ち、自分たちでシステムを開発できるユーザーや組織にとっては、使いやすさはさほど魅力的ではないとの見方を示した。

 一方、ミシシッピ州立大学HPCコラボラトリの上級システム管理者、ロジャー・スミス氏は、HPCシステムの導入にあたり、セットアップの容易さを重視した1人だ。同大学は先ごろ、サンと共同で行う実証プロジェクトの一環として、1,024個のOpteronプロセッサを搭載した500台の「Sun Fire x2200」から構成されるSunのHPCシステムを導入した。スミス氏によると、導入に際し、セットアップに要した時間は1日だけで、システム到着後に行う若干のネットワーク接続作業だけが必要だったという。

 スミス氏が最も心配したのは、Sunが同大学の望むとおりにシステムを構成してくれるかどうかという点だった。しかし、「それは杞憂に終わった」とスミス氏は振り返る。同氏は、オレゴン州にあるSunの工場を訪れ、Sunが期待どおりに作業してくれていることを確認したという。「システムが稼働して2週間になるが、何も問題はない」と同氏は満足げだ。

 IDCによると、現時点でHPC業界をリードしているのは、およそ33%の市場シェアを持つヒューレット・パッカード(HP)だ。ただし、ハイエンド・クラスに限れば、BlueGene/Lなどを提供しているIBMが強い(シェアは28%)。以下、17%のDell、10%のSunがこれに続いている。

 また、以前はUNIXベースのOSが多く使われていたが、現在はLinuxが全体の65%を占めている。IDCのスネル氏によると、多くの独立系ソフトウェア・ベンダーが、特定ベンダーのLinuxにソフトウェアを最適化するよう求めるユーザーの圧力を感じているという。「皮肉なことにLinuxでも複数のフレーバが登場しており、次第にUNIXと同じ方向に向かい始めている」と同氏は指摘する。

 HPCシステムの主なユーザーは、依然として学術機関や生命科学の研究所などだ。特に政府系の研究所が進める大規模プロジェクトは、ベンダー各社にとって自社製品をアピールするまたとないチャンスとなる。例えば、ベンダー各社が現在心待ちにしているのは、DARPA(国防総省国防高等研究事業局)が多額の予算を投じて推進しているスーパーコンピューティング・プロジェクトの次のフェーズがいつ動き出すのかということだ。次期フェーズでは、ペタスケールのHPCシステムを開発することになっている。

 DARPAは2003年、Cray、IBM、Sunの3社に対し、およそ1億4,600ドルの資金を分配してHPCシステムを開発するよう命じた。現在、3社は36カ月の研究開発段階を経てシステム設計を終えており、次のフェーズでは、ベンダーを2社に絞り込んだうえで試作システムを開発するという。だが、ベンダーの選定は、今年の夏に行われる予定だったが、今のところまだ行われていない。だが、今夏に予定されていたベンダーの選定がいまだ行われておらず、DARPAの広報担当者も「発表日は明らかにできない」とコメントしている。

 実績から言えば、有力なベンダーの1社はIBMであろう。ちなみに、同社はBlueGeneの強化プロジェクトにかかる費用の一部を米国政府が負担することを明らかにしている。このプロジェクトは5年計画で進められ、総費用5,800万ドルのうちIBMが負担するのは2,300万ドルで、残りはエネルギー省と国家核安全保障省から提供される予定だという。

(パトリック・ティボドー/Computerworld オンライン米国版)

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