Ubuntu Edgyアートワーク問題の舞台裏

この10月に公開されたEdgy Eftリリースを初めて起動した多くのUbuntuユーザは、その様子に驚かされたに違いない。今回のEdgyリリースについては、スタートアップ時に表示されるスプラッシュ画面やバックグラウンドのデザインを一新することが開発サイクルの初期段階で約束されており、専用のArt Team(アートチーム)も新設されていたからだ。ところがリリースされたEdgyを起動してみると、そのアートワークは1つ前のバージョンであるDapper Drakeのものと大差ないのである。

実際Art Teamのメンバは、新規リリースまでの数カ月を費やし、チーム内部の意見やUbuntuコミュニティから提供された作品を整理して、デザイン用の新規マテリアルをすべて用意し終わっていた。ところが10月12日にUbuntuの創設者であるMark Shuttleworth氏が新規パッケージに却下の判断を下したため、収録するアートワークはDapper Drake段階のものに戻されることとなったのである。Shuttleworth氏は、その決断に至った理由をubuntu-artメーリングリストで説明したが、同メーリングリストのメンバやUbuntuフォーラムの参加者からは否定的な反応が返されており、その多くは今回のShuttleworth氏の決断について、最終的な決定はArt Teamの手に委ねるとした同氏の以前の約束を反故にする行為だと見なしていた。

Ubuntuコミュニティで巻き起こった不満は、当事者不在の状態でくすぶり続けていた。つまり、コミュニティの間に広がったデザイン変更に対する批判意見は様々な論争を巻き起こしていたのだが、そうした状況をよそに、最大の当事者であるShuttleworth氏はArt Teamの主要スタッフ3名と協議し、Dapperのアートワークパッケージを一部変更して若干の洗練を加えることでEdgyのリリースに間に合わせるよう作業を進めさせていたのである。注意しなければならないのは、この種の論争においては感情が高ぶりすぎて状況を客観的に把握できなくなるという事態に陥りがちなことだ。そしてEdgyのリリースから1週間の期間を開けた後、Ubuntuプロジェクトのチーフアーティストを務めるFrank Schoep氏は、世間に広まっていたArt Teamと管理サイドの間に衝突があったのではという誤解をはらすべく、今回の問題に対する自身の見解を述べることに同意したのである。

EdgyのアートワークがDapper版に戻された経緯

ボランティアコミュニティの一部で広まっていた噂の1つを信じれば、Shuttleworth氏またはUbuntu管理サイドがArt Teamによるスケジューリングないしコミュニケーション力に不満を抱いていたことになるが、Schoep氏の語るところでは、同チームの提案したアートワークが却下された本質的な理由はデザイン上の観点に帰するものであり、またマーケッティングチームからは商標関連の問題が指摘されていたとのことである。

その他の不満として、Shuttleworth氏がArt Teamの作品を拒絶したのはコミュニティの総意に反するのではないかという声が上がっていたが、その点についてSchoep氏は、Art Teamが“デザイン事務所”であるとすればUbuntuというスポンサーは“クライアント”の立場にあるのであって、そのことを同チームは常に心得ており、プロフェッショナルなデザイナの役割とは自分たちの我意を通すのではなく、クライアントの意向に添う形で仕事をすることがその本質であると説明している。「実のところ、当方の進めていた作業の方向性が、私が思っていた程はクライアントの意向に沿っていなかったのです」とSchoep氏は語る。「MarkはEdgy用のアートワークについて明確なビジョンを抱いていましたが、私どものチームが行ったアートワークの作成方針が最終的にそのビジョンに一致していなかった訳です」。

そうした食い違いが生じた理由であるが、アーティスト側の抱いていたEdgyのデザインをより斬新なものに改めようという思惑がある程度寄与していたのは間違いないようである。「私たちはゼロから作り直してDapperを超えた出来にするつもりでしたが、MarkにとってはDapperこそが理想に近かったのでしょう」。

問題となったアートワークは現在も公開されており、その目玉の1つはビジュアルエフェクトの採用であったのだが、feature freeze(機能の凍結)の期限が近づいた段階においても、カラーパレットとの不整合など技術上の未解決問題がいくつか残されたままという状態であった。そしてShuttleworth氏によるデザインの差し戻しがアナウンスされた後、Schoep、Jonathan Austin、Jozsef Makの3氏は、整合性を取るのに必要な作業をDapperのアートワークパッケージに施し、エフェクト的な変更は光沢効果を加える程度に限定したのである。

コミュニティとデザインチームの共同作業

土壇場でテーブルをひっくり返された形になったSchoep氏だが、Edgyの開発プロセスで行った作業がすべて無駄になったとは考えていないようである。「チームとして学んだことが多くあります。私自身に限っても、まったく新規なデザインを起こすことで、チーフアーティストとして多くの経験が得られました」と同氏は語っている。「特にEdgyの開発プロセスでは、コミュニティとの共同下でアートワークを構築するという、過去にないアプローチを採用していました。その経験を生かし、この7月にはパリ(で開かれたUbuntu Developers Summit)において、Kenneth Wimer氏(Kubuntuのチーフアーティスト)、Troy James Sobotka氏、それと私という組み合わせのグループが、プロの仕事としても通用するであろうプロセスプランを草案として提出しています」。

同プランの構成は、必要な要件の特定、修正点の提示、反復的なソリューション開発という、複数のステージに分かれている。Schoep氏の説明によると、こうした過程を経ることは、クリエータ集団のブレインストーミングで陥りやすい混乱状態を抑制するのに役立つとのことである。「20名ものデザイナが各自の作品をバラバラに持ち寄っても、それぞれが自分のデザインを基準にしろと声を荒げるだけになってしまうので、そうした人たちが協力しながら相互の作品を生かした作業を進められるシナリオを用意したつもりです」。

実際今回のケースでは、自由参加形式で集まったアーティストの人手が過剰になったことがプロジェクト管理上の障害となり、その弊害はリリース期限が迫り最終的な仕上げが必要となった場面で特に顕在化したという。「全員が協力してアートワークの最終的な仕上げをしているべき段階なのに、20人のバラバラの集団が20通りの方法で各自のデザインを進めている、と言うに等しい状況に陥っていました」。

Schoep氏によると、同チームはVersion Control Systems(VCS)などの従来から使われてきた管理ツールの採用も検討したが、今回のアートワークデザインでは独特なワークフローを採用していた上、デザインというプロジェクトの性質そのものがソースコード開発の場合とは異なるものであったため、適したツールが見つからなかったとのことだ。「仮にVCSが機能したとしても、それは最終の仕上げ段階だけだったでしょう。もっとも今回の場合は、仕上げ段階にたどり着いた時点で、デザインの方向性が間違っていたからすべてをやり直すということになりましたから、いずれにせよ機能しなかったはずです」。

一方でSchoep氏は、Edgyリリースサイクルにおいて副産物的にTheme Team(テーマチーム)という大きな成果が得られた点に言及している。ここで言うTheme Teamとは、独立した自己管理形式のテーマ作成プロジェクトであるが、そこでは各自が思う存分にそれぞれのデザイン的感性を発揮しつつ、完成した作品をUbuntuリリースに同梱して世に出すというメリットを享受できたとのことだ。Edgyリリースサイクルでは新たに4種類のテーマが生み出されたが、Schoep氏は次回以降のリリースにおいてその数は更に増えるものと予想しているという。

汚名返上の雪辱戦に向けて

Schoep氏によると、EdgyリリースサイクルでArt Teamが生み出した作品やコミュニティからの提供物には、アーティストの1人としても、Ubuntu開発プロセスに正式メンバとして新たに参加した1人としても、非常に感心させられたとのことである。また同氏は、新米チームリーダとしていくつかの失敗を犯したことを速やかに認めているが、自らの運営スタイルについては前向きの姿勢を維持しており、Ubuntuの次回リリースであるFeisty Fawn用の作業に取りかかり始めているArt Teamおよびボランティア参加のアーティストに向けて、改めるべき点を指示するための準備を整えつつある。

「こうした混乱は、避けられない道だったのでしょう。Humanアートワークがデフォルトに採用されなかったことにコミュニティが不満を抱いているのは理解していますが、それでもEdgyの開発プロセスに寄与してくれたアートワークのコミュニティには、参加者全員に感謝の言葉を伝えたいと思っています」。

「来るFeistyについては、手順に大幅な変更を加えるつもりです」と同氏は語る。「今後はコミュニティが作業に取りかかる前にMarkの抱くデザイン面のビジョンを明確化しておくので、誤った方向に作業を進めるような事態は再発しないでしょう。こうした措置はまた、デザインの方向性を見定める負担を解消するので、それだけコミュニティは創造的なアートワークの作成に集中できるはずです」。

既にArt TeamはFeistyに向けてart.ubuntu.comサイトの改修に着手しているが、Schoep氏の意向としては、チームの共同作業およびコミュニティからの作品提出がより行いやすくなることを期待しているとのことだ。今後も正式なスタイルガイドやドキュメントなどが定められる可能性は残されているが、現状でSchoep氏はその詳細について語ろうとはしない。「私の予想では、最終的にUbuntuのアートワークについてはより具体的なスタイルの規定が定められることになるでしょうが、そうした措置はコミュニティからのアートワークの提供を行いやすくし、結果的にはパッケージに同封されるアートワークをより多彩なものとするはずです」。Feisty Fawnのリリースは2007年4月に予定されている。

NewsForge.com 原文