KMyMoney:それなりの機能を有すも今一歩の完成度

KMyMoneyは、KDEに用意されている個人利用を想定した会計管理プログラムである。それほど複雑な会計処理を必要とせず、既に同種ソフト上に会計情報を多数登録していないユーザであれば、取引項目の設定や関連情報の入力および最終的な書類作成が簡単に行え、ドキュメント類も充実したKMyMoneyを1つの選択肢と考えてもいいだろう。逆に小規模事業主などにとっては、KMyMoneyに用意されている機能だけでは賄いきれない部分が残されているのも事実だ。

KMyMoneyでは、基本的な当座預金や普通預金などに関するアカウントを始め、投資勘定のアカウントを設定した上でYahoo!などのオンライン投資サイトから情報を自動的に取得して投資履歴を管理させることもできる。また収入と支出のカテゴリを設けるオプションも用意されているので、税務申告に記載する情報を管理することも可能だ。ローンに関する記録や、住宅や車などの資産情報を管理するのも、KMyMoneyを使えば簡単に行える。

このように管理対象については非常に柔軟な指定が行える反面、予算管理に関するウィザードが用意されていないのは意外である。専用のツールを用意して、特定のカテゴリに対して割り当て予算をあらかじめ入力しておき、一定のタイムスパンにおける実際の支出との対比状況を随時レポートする機能があれば、非常に重宝するはずだ。

その他に気づいたのは、手形処理に関する印刷機能は用意されていないのに、支払金や残高の繰り越しといった定期的に処理しなければならない作業をスケジューリングする機能は装備されているという点だ。将来的なリリースにおいて、手形処理の印刷機能を追加した上でスケジューリング機能と組み合わせ、支払期日が近づいたら自動的に印刷するという使い方ができれば、非常に便利になるのではないだろうか。

今回のレビューではKMyMoneyを、Ubuntu Dapper、Edgy、Fedora Core 5にインストールしてみた。最も多くのテストを行ったのはUbuntu Edgy環境である。また今回は、エンドユーザが選択するであろうという観点から、ビルト済みのインストレーションパッケージを用いてみた。KMyMoneyについてもソースコードを入手することはできるが、yum、APT、Synapticなどの自動ツールが利用できるので、わざわざソースからコンパイルする必要もないだろう。

実際の操作感

KMyMoneyを試用するにあたり、私の使っている銀行からダウンロードしたQIFファイルをインポートし、取引のカテゴリを設定してから、レポートを作成してみた。ここで残念な報告だが、この作業が順調に進まなかったことを以下にお伝えしなければならない。

新規に取引先やアカウントを定義する作業はごく正常に行えた。KMyMoneyは問題なくQIFファイルをインポートできている。取引件数は500を超えていたが、そのインポート処理はごく短時間で終了した。なおKMyMoneyはOFXソースのインポートもサポートしており、GNUCashのファイルを扱うこともできる。

次の操作に進むためLedger(台帳)アイコンをクリックすると、カテゴリを設定すべき取引項目が表示された。すると、なんと取引項目のリスト全体が真っ赤にハイライトされて点滅されているではないか! こうした表示は、取引項目を色分けすれば済むだけではないだろうか? この開発者たちは、インターネット上でHTMLタグの「blink」機能が乱用された過去を忘れてしまったのだろうか? 点滅表示などは、気が散って操作のじゃまになるだけの不要な機能なので、早急に廃止すべきだろう。

とは言うものの、画面の表示を見れば、次に何をすべきかは大方の見当を付けることができる。実は先の点滅表示も、取引項目のカテゴリ設定が行われていないことを示していたのである。受取人を示すPayee列で並べ替えたところ、自動車ローンに関するすべての支払い項目が1カ所にまとまる様子を確認できた。ごく常識的な判断として、これらの項目はまとめて自動車ローンのカテゴリに割り当てればいいはずだ。と思ったら間違いで、実はこのアプリケーションの場合、カテゴリの分類はそれぞれの項目ごとに個別指定する仕様になっていることが、後になって判明したのである。

このように、同じカテゴリに属する複数の項目を一括登録できないというのは非常に不便で、新規ユーザが他のアプリケーションから乗り換える際の大きな障害となるだろう。実際今回のレビューでも、500もある取引項目を1つずつカテゴリ指定するのは大変なので、バックアップのアプリケーションを開き直して、テストに必要な程度の数の取引項目だけを入力することにした。

ゼロから再スタートするには、空のデータファイルを新規作成することから始めなければならない。もっともこの作業は、通常のユーザインタフェースを介した操作ではなく、ウィザードの指示に従うだけで進めることができる。またここで言う“データファイル”とは概念上の存在であって、インタフェースを通じて操作をする具体的な対象ではないので、その点は注意が必要だ。

データファイルの作成が終わると、KMyMoneyの起動画面に戻るかのオプションが、作業ペイン上に表示される。選択肢はそれだけで、その他のオプションは提示されない。1つ思うのだが、こうした画面の表示としては、「次の設定ステップとして行うのはアカウントの作成ないし取引先の定義ですよ」という情報をユーザに示すべきではないだろうか。特にこのアプリケーションの場合、その種の作業は、ユーザがそうした情報を踏まえた上で、ウィンドウ上端のツールバーやメニューにアクセスして実行するようになっているのである。

アカウントの作成が終了すると、取引項目の入力を始めることになる。Ledgerインタフェースにまでたどり着ければ、取引項目の新規入力に必要なボタン類は一目で見分けることができるだろう。ところが私の場合、ここでつまずいてしまった。今回のケースでは取引項目として「Roofers R Us」宛の手形を設定したかったので、受取人の名前を入力してからCategoryテキストフィールドに移動しようとしたところ、新たに受取人として「Roofers R Us」を定義するかを確認するダイアログが表示されたのである。その際に考えたのは、これは屋根の修繕業者への支払いであり、何回にも分割して定期的に振り込むのではなく一括払いで済ますタイプの項目であったので、新規に定義するまでもないだろうという判断であった。結果として、この判断が良くなかった。その瞬間に「Payee」フィールドの内容はすべて消去されてしまい、私は同じ内容を始めから入力し直す羽目に陥ったのである。苦言を呈すなら、この場合のダイアログとしては「KMyMoneyでは定義済みの受取人に対してのみ取引項目を登録できます」という点をユーザに忠告するようにすべきだろう。言い換えれば、作業を中断すると入力情報が破棄される状況で「この作業を続行しますか」と尋ねるような質問をして、そこで何の警告もなく「No」を選択肢として提示するのはやめて欲しい、というのが正直な感想である。ただし先のダイアログで「Don’t ask me again」ないし「Yes」を選択すると、処理中の受取人に対する定義が自動処理されるので、こうした挙動も実用上の問題にはならないはずだ。

書類作成機能

いくつかの取引項目およびカテゴリを定義して、スケジュールを組むタイムスパンを指定できたので、次にアプリケーションの書類作成機能を検証してみた。再び残念な報告なのだが、ここで作成できる書類は役に立つレベルではあるものの、正に“事務的な”という形容がよく似合うテキストオンリーの無味乾燥な形態でしか出力されないのである。これが他の同種のアプリケーションであれば、最低でも支出の内訳を円グラフで添付するなど付加機能が利用できるものなのだが。

こうした一部の不満点はあるものの、KMyMoneyには、税務報告、支出と収入の対比、純資産、保有株式を始め、取引内容の簡易レポートといった書類を作成するためのデフォルトセットが用意されている点を評価する必要があるだろう。一部の書類についてはカスタマイズを施すことも可能で、独自のレポートをユーザ定義することもできる。

投資管理

投資管理の処理に関しては、同じアプリケーションの機能であるにもかかわらず、その他の操作とは完全に趣を異にしている。つまり投資管理の場合、ある作業を完了させるのに右クリックによるコンテキストメニューの呼び出しが必要なのだが、それが分かっていないと何も処理が進まないのだ。結局、どうすれば株式売買の情報を登録できるのかは、解説書を参照して説明を探すまでは分からないままであった。既に取引項目をいくつか入力している場合、台帳に変更を加えた場合、カテゴリの追加ないし修正をしている場合など、その他の取引項目ベースで処理を進める部分とまったく同様な画面に遭遇するはずだが、そこで自分が今何の操作をしていたのかを見失ってはいけない。

要は、投資項目の処理を完了させるには右クリックをする必要があるのであり、それさえ分かっていれば、後は株式銘柄を登録して売買情報を入力するだけである。ここで注意すべきは作業の順序で、株式売買の取引項目を定義するには、その前に株式銘柄を定義しておく必要がある。こうした登録作業がすべて完了さえすれば、煩雑な資産情報の管理をKMyMoneyが代行してくれるようになり、所有する株式の売買記録なども、それなりに整った分かりやすいインタフェースを介して確認できるようになる。

インタフェースに関しては1つ奇妙な動作に遭遇したので、ここで指摘しておこう。株式情報については、最初に株式銘柄を登録した後で、次にその売買情報を入力するという手順になる。ところが、2つ目の株式銘柄を登録してから台帳インタフェースに戻って取引項目を追加しようとすると、登録しておいた2つ目の株式銘柄がドロップダウンリストに表示されないのだ。別の株式銘柄を登録して再度確認してみたが、取引項目を設定できるのはやはり最初の株式銘柄だけになってしまう。この問題に関しては、いったんKMyMoneyを閉じて再度開き直すことで解決された。

好意的に評価すべき点

KMyMoneyについては、いくつかの高く評価すべき点が存在する。その1つは、インタフェースの基本フレームワークの出来がよい点だ。指が痛くなるほどのクリックやコンテキストメニューの再表示を繰り返さなくても、大半の操作にアクセスすることができる。またGNUCashの場合のような強引な操作をしなくても、複式簿記をつけることが可能である。「この件については、こちらに支払った」という意味の項目が用意されているので、インタフェースに従ってゆけば通常の操作の1つとしてそのまま処理できるはずだ。ドキュメントについては『KMyMoney Handbook』という形式で詳しくまとめられており、KMyMoneyのHelpメニューにアクセスすれば参照することができる。

KMyMoneyの総合評価だが、あるべき機能のいくつかが装備されていないことおよび、インタフェース的な不整合が残されている点を勘案すると、一般的なホームユーザに勧めることはできないだろう。確かにいくつかの欠点は些細なものだが、見過ごせないレベルの問題点も残されているからだ。もっともKMyMoneyがこれらの問題点を克服するまでには、それほどの時間がかかることはないだろう。公平を期すために述べておくと、私はKMyMoneyがQuickenなどの商用プログラムに取って代わる存在だとは評価しなかったが、それは他のフリー/オープン系アプリケーションの完成度に関しても当てはまる話である。

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