Konsoleライセンス違反問題で表面化したGPLの曖昧さ

Konsoleの作者Lars Doelle氏は7月、2つのプログラムにKonsoleのライセンスであるGPL(GNU一般公衆利用許諾契約書)に違反している疑いがあるというメモをMotorolaFans.comのフォーラムへと投稿した。GPL違反という問題は今に始まったことではない。しかし今回の場合Doelle氏は違反者に対し告知するだけに留まらず、違反プログラムの「ユーザ」に対しても違反プログラムの使用禁止を命じている。

Doelle氏によれば、Konsoleのコードを使用しているeKonsoleとqonsoleという2つのプログラムがGPLに違反していると言う。eKonsoleとqonsoleは、Konsoleを組み込み環境で使用できるようにMontaVista Mobilinuxディストリビューションへと移植したプログラムだ。 どちらのプログラムの作者もその身元は明らかではなく、MotorolaFans.comのフォーラム上のニックネームでしか特定されていない。Doelle氏は、どちらのプログラムの作者にもフォーラム経由だけでしか連絡を取ることができなかったと言う。

「…私だってできれば(フォーラムという公の場で物議を醸すのではなくメールなどを使って)それぞれの開発者と個人的に一つ一つ問題を解決していく方が良かった…本当に心からそう思っている。プログラムを移植することができるほどの頭の持ち主なら、当然、ライセンスを正しく取り扱うことくらいできるだろう」とDoelle氏は言う。

これまでのところDoelle氏は、残念なことにどちらのプログラムに関してもライセンスに従わせることはできていない。Doelle氏によると、eKonsoleの作者とは連絡が取れたものの、彼は「忙しい」と言っており、ライセンス問題の解決へ行動を移すことはしていないとのことだ。

プログラムが違反に至った経緯

今回の場合、ライセンス違反が何故起きたのかと言えば、意図的にGPLを無視しようとしたからというよりも、Konsoleのコードの配布方法(具体的には、後に述べるライセンスの明記の方法)に原因の一つがあったと言うべきなのかもしれない。 Doelle氏によるとKonsoleのコードはまず最初、モバイルデバイス用のOpie 1.2.2ディストリビューションに含まれている「EmbeddedKonsole」の中で再使用されていた。

その後、Opieの開発者とは別の開発者であるJim Huang氏が「qonsole」というプログラムを作成した。(このqonsoleはDoelle氏が違反と言っているプログラムとはまた別のqonsoleだ。)

さて、後にこれがライセンス違反を誘発する一因となってしまったわけであるが、Doelle氏は通常のGPLヘッダを使用せず、また、Konsoleのソースコードが含まれるディレクトリの「一つ上位の」ディレクトリ内にGPLの文面を含むCOPYINGファイルを置いていたとのことだ。「COPYINGファイルをともなわない形でコードのファイルだけが取り出されることがあるかもしれないということを想定していなかった」とDoelle氏は認める。

「そのためその後実際に何が起こったのかと言えば、移植の過程で驚くほど短期間の内にCOPYINGファイルがどこかに行ってしまい、そしてそのためライセンス情報がなくなってしまうと言う事態が起こってしまった。最後にかろうじてライセンス情報が書かれてたのはJimの移植したqonsoleで、その時点ではまだ適切にライセンス情報が書かれているものの、その(ライセンス情報が書かれている)場所というのが配布元のウェブページだけという状態だった。」

「結果的に、COPYINGファイルがどこかに行ってしまい、ライセンス情報が抜け落ちてしまった。これでは、以後、qonsoleのコードを再利用しようとする開発者たちは、(配布元のウェブページを注意深く確認しなければ)Konsoleベースのコードをライセンス情報なしでリリースしてしまうかもしれない。」

実際、eKonsoleの場合、Doelle氏によると「どちらかと言うと軽微な違反だった。というのも作者はソースコードをリリースしていて、欠けていたのはライセンス情報だけだったからだ。ある意味(すでにqonsoleの時点でライセンス情報が抜け落ちつつあった事情を考慮すると)この違反は起こるべくして起こってしまった」とのことだ。この件についてはDoelle氏は、作者が将来的にはGPLに従いライセンスを明記することを約束したため、現在バイナリとソースコードが(ライセンス情報なしというGPL違反のまま)公開され続けていることを黙認しているという。

一方qonsoleの再移植版(非Jim版)の場合、まったく状況が異なるという。Doelle氏によるとqonsole再移植版のソースコードは現在公開されていない。「バイナリを投下して笑って逃亡?そんなことは絶対にダメです。」

Doelle氏によると、同氏はqonsole再移植版の作者とフォーラムを通して連絡を取ろうとした。そしてフォーラムの管理者にも協力してもらい、qonsole再移植版の作者がフォーラムへの登録時に使用していた電子メールアドレスへとDoelle氏の電子メールを転送してもらったとのことだ。しかし「今のところは生きているのかどうかさえも分からない」状態だと言う。

qonsole再移植版の作者からの応答がないため、現在バイナリはMotorolaFans.comともう一つのフォーラムから削除されている。Doelle氏によるとフォーラムの管理者たちは協力的でよく助けてくれたが、Google検索に長けている人であればバイナリを入手することはまだ可能な状態になっているとのことだ。

ここ(配布の差し止め)までは今や珍しいことではない。しかしDoelle氏はさらに一歩踏み込み、ユーザがqonsole再移植版を「実行」する権利さえも認めないと宣言した。

使用を禁止することはできるのか?

GPLは、配布者がGPLに違反した場合、作者は配布を禁止することができると、はっきりと謳っている。一方はっきりとしていないのは、GPLの下にあるコードを実行する権利を著作権保持者が無効にすることをGPLが認めているのか否かという点だ。非常に充実した GPL FAQ でさえも、もろにこの問いに答えることはしてくれていない。

Doelle氏の解釈によると、プログラムを実行する権利は「バイナリがライセンスに従った上で作成されている場合にのみ成り立つ」ということは特に明記されていなくても当然のことだと言う。そしてqonsole再移植版はGPLに従っていないので、ユーザはそもそもGPLの下でプログラムを得た訳ではないとみなされ、GPLでライセンスされたわけではないからして、プログラムを実行するユーザの権利を無効にすることは可能なはずだと同氏は主張する。

GPLでは、GPLの下にあるプログラムを「実行する」際には受諾は必要とはならない。また、GPLは暗黙的に「プログラムを実行する行為は制限されない」としている。それらを考慮するとわれわれnewsforge編集部には(たとえプログラムがGPL違反の状態にあったとしても)プログラムの使用を作者が禁止できるというDoelle氏の立場を直接的に支持するものを見い出すことはできなかった。そもそもGPLはその点に関してはっきりしていないのだ。そこでわれわれは本家本元から直接的にはっきりとした裁定を得ようとした。しかしFSF(Free Software Foundation)からもSFLC(Software Freedom Law Center)からも決定的な公式の答えを得ることはできなかった。ただしわれわれとの非公式のやり取りにおいては、プログラムがGPL違反の状態で配布されていたとしても、そのプログラムをユーザが実行するのを作者が禁止することはおそらくできないだろうとのことだった。

とは言え、これは非公式な発言であり確定的なものではない。われわれがやり取りした中で、GPL違反の状態で得たコードの実行をユーザが禁止される可能性があるのかどうかについて公式の発言をしようとしたり確定的な答えを示そうとしたりする人は一人もいなかった。

このような消極的な態度は、そのようにユーザがGPL違反コードを実行するのを容認する方向の裁定を下すことにより、GPLに従わないケースを助長してしまうことになりかねないという懸念の表われなのかもしれない。確かに、GPLに違反したプログラムを使用しても何のお咎めもないと認めてしまうことになれば、ただでさえ困難なライセンス順守の施行がますます困難になってしまう可能性がある。

しかし、作者がユーザによるプログラムの使用を制限することをGPLが認めるかどうかには関わらず、Doelle氏の状況は、その他のGPLアプリケーションの開発者たちにとって訓話となるものだ。

Doelle氏が指摘するように、GPLの文面を含んだCOPYINGファイルのみに依存するのではなく、GPLヘッダが各ファイルに含まれていたなら、問題は部分的には回避できたかもしれない。GPLヘッダが含まれていたなら、コードがGPLでリリースされていて再使用するためにはGPLに従う必要があるということが一目瞭然だということは少なくとも間違いなかっただろう。

Doelle氏の主張では、違反状態が解決するまでの間、違反状態にあるプログラムの存在は「ライセンスに従ったプログラムの開発意欲をそいでしまうことになる。というのも、そのような違反プログラムであっても、したいと思ってることがまったく問題なくできてしまい、そうすると本来なら開発意欲に繋がるはずの、欲しくてたまらないという気持ちがなくなってしまう可能性があるためだ。当然私はそのような存在を合法と認めるつもりはない」とのことだ。

Doelle氏は「私にとってだけでなくユーザにとっても、この問題はライセンスに従ったバイナリが登場しない限り解決することはない」と断言する。

NewsForge.com 原文