ブレインダンプ系の試験対策サイトにはご用心
多くの人々がオープンソース系ソフトウェアに関する資格を取得しようとしているが、その目的は、プロフェッショナルとしての自分の価値を高めたいという場合もあれば、純粋に自己啓発の一環として行う場合もあるだろう。そして、認証資格プログラムの制作サイドから寄せられる反対意見をよそに、こうした資格試験のシステムの大半が、試験対策のカリキュラムを受講しなくても本番の試験を直接受験できるようになっている。また資格取得の試験対策には様々な形式が存在するが、最も一般的なのは、オンラインでの受講、関連書籍の購入、実地での演習という方式だ。
Red Hat、Novell、SGIなどの大手ベンダからは、各自の製品に関する認証資格プログラムが提供されている。より一般的なオープンソース系の認証資格となると、Webサイトを用いたオンライン形式の試験対策カリキュラムがいくつか存在しているが、その内容は各種のソフトウェア企業が販売している訓練プログラムをベースとしたものだ。実際、多くの人間にとってこうした訓練サイトは有用であり、試験対策としての効果も充分に期待できるだろう。
問題は、同じようなトレーニングサイトでも、最初の受験での一発合格を“100%保証”という謳い文句で認証資格の希望者を誘い込んでいるような所だ。この種のサイトは「ブレインダンプ」(brain dump)と呼ばれることが多いが、認証資格プログラムの主催者とその受験者の双方から、猜疑の目で見られている存在なのである。こうしたサイトの中には、単に信用できないだけならまだしも、下手をすると完璧な違法活動を行っている所もあることが、認証資格の業界では半ば常識化している。
「こうしたWebページに掲げてある謳い文句は信頼できませんし、場合によっては(問題のサイトが)試験問題を倫理的にもとる手段で入手しているケースもあるのです」と語るのは、Linuxおよびオープンソース関連の認証資格試験とトレーニングプログラムを提供する独立系組織のLinux Professional Institute(LPI)にて広報責任者を努めるScott Lamberton氏である。「確かにいくつかのサイトは合法的なものであり、正規に公開されている試験要項を基に独自の例題を作成している所もあります。ところがブレインダンプ系サイトは、受講者を勧誘する手段として、裏口から実際の試験問題を入手しているんです」。
ブレインダンプ系サイトが原因でIT業界に巻き起こっている波紋には、様々なものがある。1つ目は、こうしたサイトに試験問題を提供する者の中には、該当する資格試験を以前に受験した人々がいるのだが、そのような試験ではたいていの場合、試験の内容を第三者に販売ないし譲渡しないことを定めた機密保持契約(non-disclosure agreement:NDA)を受験前にサインさせているはずなのである。試験の問題を暗記して持ち帰り、それを誰かに提供したとなると、こうした機密保持契約を真っ向から破っていることになる。2つ目は、試験問題の提供者が暗記して持ち帰った情報に記憶間違いはないのかという問題であり、そのようにして得られた怪しげな設問に価値があるのかという疑問である。3つ目は、ブレインダンプ系サイトの存在が、実力で認証資格に合格した人々の価値をも損ねているという問題である。あるいは、認証資格という制度そのものの信頼性が、ブレインダンプ系サイトによって傷つけられているとも言えるだろう。
いかがわしげな試験対策サイトは、関連するベンダや正規の認証資格サイトにとって、以前から厄介者的存在であった。「これは試験業者すべてにとっての悩みの種です」とMySQLの認証資格マネージャを務めるCarsten Pedersen氏は語る。「いい加減な試験問題を売りつけているサイトの存在に気づいているのに、その対策を何も取らないでおくと、結果的には自分の所の認証資格プログラムそのものを損なうことになります。認証資格試験の価値というのは、本質的にそれが信用できるか否かにかかっているのですから」。
この種のサイトについては、過去においてCheetSheets.com(別名Cheet-Sheets.com)、TestKiller/TroyTec.com、Test4U.netなどについての訴訟が行われているが、その裁定結果はまちまちな内容であった。オープンソフトウェア系認証資格プログラムが注目している最近の事例としては、TestKing.comという試験対策Webサイトに対してMicrosoftが行った訴訟がある。この訴訟では、Microsoftの主催する資格試験の問題を無断に配布したとして、企業機密および知的財産を保障した連邦法(18 USC 1832)に対する違反行為で、TestKingの所有者が訴えられている。Microsoft側の主張によると、TestKingの提供している試験問題は、Microsoftが著作権を有する認証資格試験の内容と「同一ないし非常に類似」しているということだ。
こうしたMicrosoftの態度については、オープンソース系の認証資格を主催する多くの企業から賛同の声が寄せられている。「本当にTestKingが実際の試験問題ないしその類似問題を提供していたのかは分かりませんが、Microsoftが訴訟を起こす必要性を感じたというのは、ごく自然の成り行きだと思います」とPedersen氏は語る。
Lamberton氏によると、Microsoft側には2つの目的があるという。「1つは、不正な業者を将来的に排除すること。もう1つは、まっとうなサービスを提供している業者が“こうした連中と私たちは違います”と主張できるようにすることです」。
Red HatのGlobal Professional Servicesで上級管理職を努めるGary Jordan氏は、Microsoftの訴訟に関して立ち入ったコメントを避ける一方で、「誰もが、信頼できる認証資格プログラムを提供しようと思っているのですが、その障害になっているのがブレインダンプ系サイトです。私どもRed Hatでは、自らが主催する認証資格プログラムのレベルと信頼を確保するために積極的な活動をするつもりであり、同業他社によるそうした防衛活動に対しても協力を惜しんでおりません」と述べている。
Jordan氏によると、Red Hatの認証資格試験は実践的な知識を重視しており、その内容はブレインダンプ系サイトで得られる表面的な情報だけでカバーしきれるものではない、とのことだ。「確かにRed Hatの資格試験でも、カンニングや試験問題の流出、あるいはテクニック偏重の受験指導が行われているのを確認していますが、選択肢形式の出題をしている他のIT認証資格プログラムほどの影響は受けていません。私どもは不正受験者の対策を強化しており、試験問題を持ち出してRed Hatの信用を傷つける者については、罰則を持って挑むつもりです」。
Lamberton氏によると、LPIには「ブレインダンプとの疑いのあるサイトについての報告が定期的に入ってきます」とのことであり、そうしたWebサイトについては、問題を生じさせるような行為が行われていることをプロバイダに通知することで、大部分は速やかに解決されているということだ。
ITのプロフェッショナルは何を行うべきか?
Lamberton氏は、「ビジネスの現場では、必要な技能を有しているかを示す指標が求められており、雇用者側もそうした資格の有無を重要視するようになっているため、人々は資格を得るために多大な努力をするようになっています。いずれにせよ、実地で得た経験に勝るものはありません」と語っている。同氏によると、こうしたサイトの有用性を見極めるポイントは、「ソフトウェアベンダから公開されている試験要項に厳密に則した模擬試験を用意していると明記してある所を選ぶことですね。その点については間違いないでしょう」とのことだ。
Texas在住のデータベース管理者でコンサルタントも兼ねているBoyd Hemphill氏は、OracleおよびMySQLの認証資格に見事合格しているが、これらの試験に臨む際には、様々なリソースを用いて準備を行ったという。例えば、試験対策サイトを選ぶ際にはレベルの高い設問が用意されている所を探し、認証資格用の参考書については、いずれの場合も最低1冊は通読し、受験するトピックについてまとめられた“定評あるガイド”に目を通し、更には実地訓練をしてから試験に挑んだとのことだ。「試験対策を生かすも殺すも、それは受験生次第です」と同氏は語る。「そうした学習のプロセスそのものが、プロフェッショナルとしての私の総合的な技量を高めてくれるはずです」。
オープンソース系ソフトウェアのプロフェッショナルとしての資格を得るための方法は様々なものが存在しているが、業界の人間が言うことは共通している。「すべては選んだ者の自己責任です。受験対策サイトのほとんどは、客から金を巻き上げて高笑いしようと目論んでいる連中ばかりですから、選択時に用心するに越したことはありません」、というのはJordan氏の言葉だ。「自分の属する組織でITプロフェッショナルとしての尊敬を得る最短の方法があるとすれば、それはレベルの高いトレーニングを積んで、真剣に勉強し、まっとうな方法で資格試験に合格することです」。
NewsForge.com 原文