メッセージングサーバScalix 11 Community Editionの初見レビュー

オープンソースの新たなメッセージングサーバScalix 11 Community Editionが数カ月後にリリースを控えている中、それに先駆けてプレビューパッケージのバイナリが提供された。ただし、プレビューパッケージの使用許諾条件には「既知の問題を含むプレリリースソフトウェアであって実用には適さない」と記されている。Scalixの目指す方向性をただ確認したいがために試しに使ってみたところ、中小企業向けの的確な方向付けがなされていることがわかったので、その内容を詳しくお伝えしたい。

公式発表によると、Scalix 11はRed Hat Enterprise Linux 3.0/4.0、SUSE Enterprise Server 9、openSuse 10.0、Fedora Core 5で稼働することになっている。また各ディストリビューションの古いバージョンや他のディストリビューションでも「Community Edition Raw」が利用できる。Scalixは、その複雑なインストール作業を進めるための極めて周到な手順書を用意している。

ScalixシステムはSendmailからTomcatに至るまでの数多くのソフトウェアを必要とし、オンラインマニュアルにはその全リストが記されている。また、512MB以上のRAM、1GB以上のハードディスク容量(大部分はシステムデータ用で、ソフトウェアが実際に占有するのは200MBほど)が必要になる。

使い始めるだけにしては要件が厳しいように思えるが、エンタープライズ・メッセージングシステムとしては控えめなくらいである。Scalixのオープンソース開発の責任者は、自らの個人用ノートPCでテスト用サーバを実行していると主張している。Microsoftがリリースを予定しているExchange Server 2007では64ビット対応のハードウェアが必要になると報じられていることを考えると、規模の小さな企業がこの点に魅力を感じるのは当然である。3年前のPCを電子メールサーバとして利用している小さな会社がExchange Server 2007を稼働させようとすると、ハードウェアを買い換えなくてはならないからだ。

インストール

何をするにしても、まずはScalixのインストールマニュアルをしっかりと読む必要がある。インストール計画の説明だけで1つの章になっているほどのマニュアルだが、ひと通り読み終えれば、あとはPythonベースのインストーラの指示に従ってセットアップを進めることができる。インストールの最初のほうで、インストーラ側でコンポーネントを選んでくれる「通常(typical)」インストールと、好きなコンポーネントを自分で選ぶ「カスタム(custom)」インストールのどちらかを選択できる。続いてインストーラは各種Scalixコンポーネントに対応した十数個のRPMファイルらしきもののアンパックを行う。そこには、Scalix Server本体、オプションの管理用WebクライアントScalix Administration Console(SAC)、ScalixサーバとSACの通信を処理するScalix Remote Execution Service (RES)、Scalix Tomcat、Scalix Search and Index (SIS)、Scalix Platform API、携帯電話など無線デバイス用のWebクライアントScalix Mobileなどが含まれる。

標準のGUIインストールだけでなく、CLIによるインストールも可能である。ただし、このCLIインストールは、その名前から推測されるようなすべてを手作業で行うインストールではなく、GUIインストールで用いられるインストーラウィザードをテキストベースにしたものに過ぎない。おそらく「テキスト専用(text-only)」インストールという名前にすべきだろう。また3つ目の方法としてインストールを自動で行う「サイレント(silent)」インストールも利用できる。

Scalixは、Hewlett-Packardのかなり昔のソフトウェアOpenMailがベースになっているため、今でもコマンドのほとんどは”om”で始まる名前になっている点が面白い。たとえば、Scalixサービスを起動するツールはomon、システムを監視するツールはommonである。各種ツールは/optディレクトリにインストールされるが、その数は膨大で、サーバパッケージだけでも軽く300を超える。

プロプライエタリ版のScalixとは違って処理すべき必須のライセンスキーは存在しないが、Scalixが「フォンホーム(phone home)」機能 ― サーバおよびインストールの情報を定期的にScalixに送信する ― を備えているという警告が表示される。ローカル管理者は「内容が簡素にして透過的で秘密ではない」ことを確認できるようにこの情報のコピーを取得するが、この「機能」を無効にしようとすると使用許諾条件を破ることになってしまうのだ。

新しい機能

実際の機能面に関しては、Scalix 11には興味深い新機能が数多く存在する。非常に大きな進歩の1つが、Unicodeと2バイト文字に完全対応した国際化の取り組みである。アジア市場向けにはローカライゼーションと文字セットへの対応が不可欠だが、今回のリリースによってScalixがアジア市場にも目を向けようとしていることが伺える。

新たなWebクライアントが利用できるようになったこともScalix 11の大きな変化である。Scalix Web Access Mobileは携帯電話をはじめとする無線デバイスのためのもので、小さなGIF画像を用いた初歩的な電子メール制御の機能を提供している。またAJAXベースの管理用Webクライアント、Scalix Administration Console(SAC)は、今回から”SAClet”という機能拡張用のプラグインに対応できるようになっている。SACを使えば、ローカルおよびリモート管理の実行がブラウザから可能になる。リモートでSACを利用しようと考えているなら、そのインストール時にアクセスの安全性を高めるためのKerberosの設定ができる。

別の新機能として、電子メールメッセージに対するリアルタイムの検索および索引付けがあるが、このサービスはLucene上に構築されているようだ。またScalixは、プロパティファイルの編集と言語プロパティの指定だけで簡単にローカライズができる。現時点では、デンマーク語、オランダ語、英語、フィンランド語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ノルウェー語、ポルトガル語、ロシア語、スペイン語、スウェーデン語のオプションが用意されている。その他の言語用に独自のカスタムアナライザを追加することもできる。

ウイルス保護の面では、手のかからないプラグイン利用のアプローチをScalixは取っている。専用の保護システムを開発するのではなく、サードパーティのアプリケーションを活用しているのだ。ウイルススキャンはScalixサーバの内部で行われるため、社内でウイルスが発生しても保護されることになる。

スパムフィルタリングは、これとは別の仕組みで実行される。Scalix自体がSpamAssassinをScalixサーバ内で実行する設定を許可しており、Scalix外部の独自のアンチスパムシステムを別のサーバ上にセットアップすることもできる。

十分な文書化

Scalix 11には思わず困惑してしまうほどの数のプログラムが付随しているため、そのすべてに適切なmanページが用意されていると知ったときには頼もしさを感じた。さらに便利なのがサンプルディレクトリで、監査ファイルの作成やリモートのScalixシステムに対するディレクトリ更新の適用など、基本的な管理タスクの実行方法を示すサンプルスクリプトが10種類近く収められている。プレビューパッケージにもそれらしい「リリースノート」ファイルが付いており、Webクライアントはオンラインヘルプを備えている。

上記以外のマニュアルは、プレビューパッケージには含まれていない。ドキュメンテーションディレクトリにScalixマニュアルのサイトのURLがあり、すべてそこからダウンロードできるようになっているのだ。そこには6種類ほどマニュアルがあり、142ページに及ぶインストールガイドや148ページのセットアップガイドが含まれている。いずれ、これらに目を通す必要が出てくるだろう。同等クラスのどんなエンタープライズ電子メールサーバでも同じことだが、小規模なScalixシステムであってもいきなりセットアップして管理を始めることはできないからだ。

そのほかにもScalixは、公開メッセージフォーラムWikiなど数多くのオンラインサポートを提供している。

利用形態と有償版について

ScalixにはStanfordとPremiumという2つの利用形態がある。Stanfordユーザは電子メールへのアクセス以外に個人用カレンダー機能が利用できるが、Outlookクライアントのサポート、グループスケジューリング、公開フォルダ、無線電子メールといった特定の機能の利用はライセンスを受けたPremiumユーザに限られている。

無償のCommunity Editionの場合、Stanfordユーザに対する人数制限はないがPremiumユーザには最大25名までしか対応できない。それでも比較的規模の小さな企業なら、大抵の場合はこのCommunity Editionで間に合うだろう。

しかし、Community EditionではプロプライエタリなEnterprise Editionで利用できる一部の機能が使えない。Enterprise Editionは複数のサーバに対応可能で、制約のないPremiumライセンスを購入でき、技術サポートにも追加のオプションが用意されている。このほか、基本的にはEnterprise Editionと同じだがサーバを1台しか運用できないSmall Business Editionも存在する。

企業での利用に即したシステム

この原稿を書いている段階でScalixの顧客数は400近くにのぼっているが、同社のオープンソースプロジェクトのディレクタであるFlorian von Kurnatowski氏によると、同社ではある企業調査の結果に基づいて現在稼働中のScalixサーバを10,000台以上、ユーザを100万人以上と見ているという。これまでのCommunity Editionのダウンロード件数は35,000を超えている、とも彼は話している。この件数は、ほんの気まぐれでダウンロードしてみたとか、午後の遅い時間帯の暇つぶしにダウンロードが行われたことを表したものではないことがわかる。何といってもScalix 11の圧縮されたダウンロードファイルは300MB以上もあるのだ。

Scalixの創立は2002年だが、Hewlett-PackardのOpenMailには最終的にリリース番号が7になるまでの15年もの歴史がある。2003年後半にScalixのデビュー製品となったScalix 8は、HPから受け継いだコードをベースにしたものだった。

中小企業にとって、Scalix 11のような長い開発履歴を持ったシステムの導入は好ましいことである。登場して日の浅いソフトウェアではなかなか得られない信頼性という恩恵を受けられるからだ。数十名を超えるユーザで使うようなグループカレンダー機能を必要としない企業であれば、オープンソースのScalix 11 Community Editionは有望なソリューションになりそうである。

NewsForge.com 原文