GPLにドイツ裁判所からお墨付き
「これは極めて単純な訴訟です」。D-LINKは自社のNAS製品D-GSM600にLinuxカーネルなどの(L)GPLライセンス・ソフトウェアを使っていながら、ライセンス規約を添付せず、該当する全ソースコードの同梱もソースコードの入手方法に関する書面の提示もしていなかったというのだ。同様の不法行為は、Welteが発見したものだけでも、過去2年半で100件を超えるという。
D-LINKは以前にも同様の不法行為を行っている。「前回は、不法行為を止めるという念書を書き、訴訟および調査のための購入とリバース・エンジニアリングに要した費用を支払いました」。しかし、今回は費用の弁済を拒否し、GPLには法的拘束力はないという主旨の書面を送りつけてきた。「これはとても受け入れられるものではありません」と、自費でプロジェクトを運営しているWelteは言う。
「それだけではありません。前回の訴訟でも、GPLが義務づけている(全該当ソースコードの)提供がさまざまな問題によって遅らされました」
そこで、gpl-violations.orgは、2006年3月、GPLに基づく著作権の確認を求める民事訴訟をドイツ・フランクフルト地裁に起こした。Welteは、さらに、示談費用をgpl-violations.orgに支払うようD-LINKに命ずるよう求めた。
そして、ここから本当の苦労が始まった。「ドイツの民事訴訟では、否認しなかったことは事実と見なされます。ですから、D-LINKはあらゆることを否認し、その分私たちの仕事が増えることになるのです。D-LINKは公開していたソースコードが問題の機器で使われているオブジェクト・コードと一致することを否認しました」
さらに、問題になったコードの作者2人の国籍にも疑問を呈した。「私たちは、原則として、D-LINKが否認した点すべてが事実であることを示す証拠を法廷に提出しなければなりません。作者のWerner Almesbergerがオーストラリア国民であり、David Woodhouseが英国民であることも証明する必要がありました」
かくして、Welteは著作権法違反の証拠集めに忙殺された。「Linuxカーネルの3個所、msdosfs、initrd、mtdを調べました。訴訟で根拠とした個所です。10年ぐらい前からですね。それをD-LINK D-GSM600に現に存在するソースコードと比較したのです。1行ごと関数ごとにどのコードがどこにあるかを調べたり、コード・ブロックを色分けしたり。さらに、それぞれの開発リストの記録を調べ、開発過程を詳細に跡づける必要がありました。Werner AlmesbergerとDavid Woodhouseの2人にも、さらに細かなことを尋ねなければなりませんでした。2人がコードのどの部分をいつ書いたのか、誰がどの部分をいつ提供してくれたのかなどです」
しかし、それだけで訴訟に対応できるわけではない。Welteは、この種の問題は法的な支援がなければ提訴できないと強調する。問題を理解し、ソフトウェアの開発過程やソースコードがどのようなものかを知っている弁護士の支援が欠かせないというのだ。Welteのパートナーは、Institute for Legal Issues of Free and Open Source Softwareの創設にも加わったTill Jaeger博士だ。2人は、『Die GPL kommentiert und erklaert』(O’Reilly Germany)など、FOSSにまつわる法律問題を扱った書籍を何冊か上梓している。「この本の表題を訳せば『GPLコメンタール』といったところでしょうか。JaegerはCreative Commonsライセンスの独訳やドイツ法制への順化にも関わっています」
開発者の調査と弁護士の理解のお陰で、2006年9月6日、法廷はgpl-violations.orgの訴えを認め、D-LINKによるGPL違反を認定し、訴訟費用および製品の購入とリエンジニアリングに要した費用の弁済を命じた。
さらに重要なことは、判決――現時点ではドイツ国内のみで有効だが――がGPLの法的有効性を認め、コピーレフトのソフトウェアが著作権法によって保護されうることを確認した点である。
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