Linux Terminal Server Projectの未来
LTSPの歴史は、Jim McQuillanとRon Colcernianが或る在宅看護サービス会社の顧客ニーズを解決しようと思い立った1999年まで遡る。LTSPとは、Linuxをサーバー上で動かし、そのサーバーに接続したシンクライアント(ほとんどすべてのコンピュータが該当)が本格的なLinuxデスクトップを手に入れることができるようにするものだ。以来、世界中でLTSPベースの無数のLinuxデスクトップが開発されてきた。
Ubuntuプロジェクトはシンクライアントの意義を認め、LTSPをプロジェクトのディストリビューションに組み込もうとした。Ubuntuの最高技術責任者Matt Zimmermanが、LTSPの上流開発者と協力して、Ubuntu 5.10に同梱される処理系を開発したのである。Ubuntuを起源に持つこのEdubuntu処理系はシステムの配備を細かな設定なしですぐに行えるようにするものであったが、現在、Ubuntuの実装は大幅に変更され、コードベースが二股に分かれたような状況となっている。
LTSPのプロジェクトリーダーMcQuillanとLTSPハッカーScott Balneavesは、統一されたコードベースの必要性を認め、旧来のやり方はもう止めて、すべてのLTSPバリアントに1つのコードベースで対応することにした。これが実現すれば、各ディストリビューションは当該ソフトウェアをそのまま組み込むことができ、スイッチポンで配備完了といった環境がユーザーにもたらされることになるだろう。
「本来、シンクライアントは管理者一人で動かせるサービスだ。電源を入れるだけで稼働する、ApacheやSambaやCUPSとちょうど同じようなもの」とMcQuillanは言う。
McQuillanが有志を見つけるのに時間はかからなかった。最初にEdubuntuのOliver Grawertがやろうじゃないかと志願し、ほどなくFedora ProjectのWarren TogamiとEric Harrisonが合流した。また、Vagrant Cascadian(本名を明かすことを拒んでいる)がDebianを代表して参加し、さらにLTSPハッカーのGideon RommとScott Balneavesも参加したのである。
作業を開始して5日後に、このチームはLinuxにおけるシンクライアントの将来像を練り上げ、必要なインフラのかなりの部分を整備した。そのインフラの一部であるモジュール方式の共通コードベースは、今後、ディストリビューションにもっと簡単に組み込めるようになるだろう。
「実際、我々はLinuxデスクトップを大規模に配備する人々のために参入障壁を下げてきた。開発者の立場から言えば、共通のコードベースのおかげで、初めての開発者も気張らず、すぐに飛び込むことができる」とBalneavesは言う。
LTSPをLinuxディストリビューションにもっと簡単に組み込めるようにすること以外にも、いくつかの新機能が完成しつつある。中でも満を持して登場するのがローカルアプリケーションサポートだ。これはアプリケーションをサーバーではなく、シンクライアントで実行できるようにするもので、ネットワーク経由でうまく動かないマルチメディアアプリケーションに向いている。どのパッケージをローカルで実行し、どれをサーバーで実行するかは管理者が決定することになる。
管理ツールの優先度も高く、診断プログラムの開発が進められている。これでユーザーは配備状況に関する情報を収集し、問題が発生したとき開発者に情報を提供できるようになるだろう。管理者がセッションを集中管理できるような、ユーザー管理機構も追加される予定だ。
LTSPの最新安定版であるバージョン4.2にはローカルデバイスサポートが導入されており、これでシンクライアント上のLTSPユーザーはUSBフラッシュメモリやプリンタなどのデバイスを使うことができる。現在、CDを焼くようなこともシンクライアント上で行えるように、開発が進められている。
この上流バージョンはLTSP 5.0と称することになる。同チームは、これらの機能を含む実用段階のLTSPが2007年の春にはFedora、Ubuntu、そしてDebianに組み込まれるものと考えている。
McQuillanは、他のディストリビューションにもLTSPが組み込まれることを望んでいる。「来年は、NovellやMandrivaなど、他のディストリビューションも参加してくれるものと期待している」と言う。ところで、ユーザーの目に留まるのはどんなことか?「我々が事を正しく進めれば、ユーザーは何も気づかないだろう。それが良い仕事というものだ」