グリッドのビジネス活用はなぜ進まないのか?
IBMのグリッド・コンピューティング担当副社長、ケン・キング氏は、グリッド技術は、企業が利用するすべてのアプリケーションに適しているわけではないと認めつつも、企業コンピューティングのメインストリームになりつつあることは確かだと強調した。
「私は、『メインストリーム』という言葉を、企業の中核データセンターで基幹アプリケーションに利用され、収益を生みだすビジネスに大きく貢献しているという意味で使っている。実際、グリッドはこうした役割を果たす動きが見られるようになってきている」(キング氏)
また、EMCのチーフ・テクノロジスト、ダン・ハション氏は、実際にグリッド・コンピューティングの利用を拡大しようとして壁に突き当たった企業も少なくないと指摘する。「グリッドは当初の予定どおりには活用されないことが多い。そのために、全社的な導入が進まず、期待された投資効果(ROI)を得られないケースもある」(同氏)
IBMのキング氏は、グリッドの普及を阻害するもう1つの要因として、IT部門の意識の低さを挙げた。同氏は、「グリッド・プロジェクトを行う際には、IT部門はビジネス部門に主導権を委ねる必要があるが、構築費用をIT予算でまかなわなければならないうえに、セキュリティの問題にも責任を持たなければならないという認識が、普及の足を引っ張っている」と語る。
「このようにグリッド・プロジェクトを特別視する認識は改めなければならない。グリッドの導入も過去の新技術の導入も、何ら変わるものではない」(キング氏)
Sun Microsystemsのエンジニアリング担当副社長、ジム・パーキンソン氏は、企業がグリッド技術に振り回され、アプリケーションごとに別々のグリッドを構築しているケースもあると指摘した。
「われわれはユーザー企業に、リソースの共有方法や、リソースを汎用化して多くのアプリケーションで利用する方法を啓蒙していかなくてはならない」(パーキンソン氏)
一方、他の新技術の多くとは異なり、グリッド・コンピューティングの利点に関しては、ビジネス部門の幹部が最初に理解することが多いとパーキンソン氏は語った。「ビジネス部門がグリッド・コンピューティングに着眼し、IT部門に導入を求めるという流れが見られる」
IBMのキング氏も同意見だ。「グリッドはビジネス部門とその業務プロセスに非常に近い位置にある技術だ。グリッドはアプリケーションの仮想化にかかわるからだ」
だが、このことが普及の障害になる可能性もある。グリッドを活用するには、アプリケーション・ポリシーの記述など、グリッド固有のタスクに対応したスキルを充実させる必要があるが、IT部門がそれに抵抗を示す場合がある、とパネリストらは警告する。
また、グリッド対応アプリケーションの開発ツールが不足していることも、普及の障害となっていると、Sunのパーキンソン氏は語った。
「この分野は速やかな成熟化が求められる。現状では、スキル上の理由やツール上の理由から、グリッド対応アプリケーションの作成は敷居が高い。アプリケーションが充実すれば、グリッドはもっと広く利用されるようになる」(パーキンソン氏)
IBMのキング氏はさらにこう付け加えている。「5〜10年後には、グリッドはメインストリームに一段と近づくことだろう。対応アプリケーションが増え、コア技術がOSとミドルウェアに組み込まれ、プロビジョニングやレジストレーションといったグリッド・コンピューティングの特徴的な機能が主流の製品で提供されるようになるはずだ」
(カーラ・ギャレットソン/Network World オンライン米国版)
提供:Computerworld.jp