HPの“情報漏洩問題”で浮き彫りになった米国企業の「取締役会」の変化

 最近、米国ヒューレット・パッカード(HP)の一部の取締役が機密情報を漏らしたと見られる問題が明らかになるなど、取締役会内部において反目が生じていることが話題を呼んでいる。そんななか、経営の専門家らは、ここ数年の企業環境の変化を背景に、取締役会では意見対立が起きやすくなっていると指摘している。

 アナリストや大学教授などの経営の専門家らは9月8日、企業の取締役会は、経営陣とその親密なパートナーから成るクラブ的な集団から、独立性の強い機関へと変化しつつあるとの見解を示した。HPの混乱は同社固有の事情によるものだが、今日の取締役は企業に対するチェックを強めているというのが専門家の見方だ。

 コーポレート・ガバナンスを専門とする調査会社、米国コーポレート・ライブラリの編集人、ネル・ミナウ氏は、「企業の取締役会は、特にこの4年間で著しく変わった。今日の米国企業の取締役会はどこもきわめて活発で、しかも独立性が強い」と語る。

 また、米国ハーバード・ビジネス・スクールのジョセフ・バウア教授は、「従来の企業の取締役会は、協力先である投資銀行関係者や弁護士と4〜5人の経営陣で構成されるケースが多かった。だが、少なくとも1980年代からはそうではなくなり、独立したメンバーの割合が増えている」と述べている。

 さらに、米国スタンフォード大学経営大学院のデビッド・ラーカー教授は、「今日の取締役会は、15〜20年前と比べてはるかに精力的に活動している。それに伴い、これまでに見られなかったような意見対立が生じるようになった」と指摘している。

 HPの取締役会が実施した機密情報漏洩に関する調査について、ミナウ氏は、「調査機関が法令に抵触する方法で漏洩者を調査しているとの声も上がっているが、いずれにせよ調査は行われる必要があった」と述べている。

 また、同氏は、HPの取締役会が下した元会長兼社長兼CEOのカーリー・フィオリーナ氏の起用と解任について、「取締役会は有効に機能していなかった」と批判した。HPの取締役会から漏洩した情報の一部は、フィオリーナ氏に関する会議の内容だったという。

 ミナウ氏は次のように語る。「取締役との間に信用関係がなければ取締役会は機能しない。情報漏洩者を突き止めるためにHPの取締役会は調査機関に多くの独立性を与えるしかなかったが、非常に困難な状況の中で最善を尽くしたと思う」

 ミナウ氏によると、近年の会計不祥事を機に、取締役会の独立性が強まる傾向にあるという。また、エンロンやワールドコムに対する訴訟の和解において、悪事に関与していなかった取締役が責任の一部を負ったことも、そうした傾向の要因の1つになっているという。さらに、会計やサイバー・セキュリティなどに関する適切な監督を企業に義務づけるSOX法(Sarbanes-Oxley Act:米国企業改革法)が施行されたことも、取締役会が企業への監視を強める一因になったとしている。

 一方、バウア氏は、HPの今回の事態は前例がないものではないと述べている。同氏によると、約20年前にも、アメリカン・エキスプレスで経営トップの後継者を巡って内部対立が起き、メディアに情報が漏れたことがあったという。バウア氏は、HPの一件は取締役会の独立性が高まった結果によるものというよりも、特殊な状況における異例な事態と見ている。

 バウア氏は、「取締役会では内部で激しい対立が起こることもあるが、そのようなときにばかげた行為に出る者もいる」と指摘している。

(スティーブン・ローソン/IDG News Service サンフランシスコ支局)

提供:Computerworld.jp