OSCONを終えて(動画あり)
Jabberの状況
私が最初に参加したのは、Peter Saint-Andreが行った「The State of the Bulb」と題するJabberについての発表である。Saint-Andreはまず、ある場所から別の場所に情報が到達するまでにかかる時間について語り始めた。たとえば1800年代には、ヨーロッパから米国にメッセージを届けるには数年間かかることもあった。現在では、Jabberなどの技術を使用することにより、地球上のある場所から別の場所にメッセージを届けるのにかかる時間は、1秒未満にまで短縮されている。
続いてSaint-Andreは、Jabberやその他のプロジェクトで使用されているExtensible Messaging and Presence Protocol(XMPP)のいくつかの利用例について語った。XMPPは単純なインスタントメッセージングシステムをはるかに超えるものになっている。Saint-Andreによれば、今ではXMPPは、投資銀行、Capital Wireless Integrated Network(CapWIN)のような第一応答システム、インターネットホワイドボードアプリケーションなど、多様な分野で利用されるようになっている。
Saint-Andreの発表の後、私はchromaticによるセッション「Perl Hacks You Never Knew Existed」に参加し、さらにホールウェイトラックで知識を得るべく辺りをぶらぶらした。
有意義な会話
OSCONの最も素晴らしいところは、オープンソース界の一流の頭脳と知り合えるチャンスがあるという点だ。
カーネル開発者のGreg Kroah-Hartmanは、Linuxカーネルの現状について何回か発表を行い、さらに実際に動くLinuxドライバの書き方についてのチュートリアルを執筆していた。Kroah-Hartmanは発表の合間に、Linuxカーネルの大まかな現状と、ユーザがどのようにしてカーネル開発に関与できるかについて私に語ってくれた。
Kroah-Hartmanによれば、2.6.18では新しいハードウェアに対するドライバとデバイスサポートがより充実し、devfsがカーネルから削除されるだろうということだ。さらに、2.6.18には、新しいIRQレイヤや、「試行錯誤の末に」なんとか完成させた新しいタイマーサブシステムなど、数多くの修正が加えられる予定であるそうだ。
Greg Kroah-Hartman – クリックすると動画再生 |
カーネル開発に参加する意欲がある人はKernel Newbiesのサイトを見てほしい、とKroah-Hartmanは語っていた。通常のカーネル開発メーリングリストに質問を投稿したくない人のためには、IRCチャネルとメーリングリストもあるそうだ。「(開発用)メーリングリストで初歩的な質問をするのはまず無理だろうから」というのが彼の言葉である。
さらにKroah-Hartmanは、ドライバやカーネルサブシステムの保守には興味のない人がカーネル開発に協力する一つの方法として、Kernel Janitorsプロジェクトを紹介した。このプロジェクトのTODOリストには数多くの項目が並んでおり、カーネル開発に興味を持っている人がカーネル開発の基本的な経験を積むための手がかりになるだろう。
開発者でなくても貢献は可能である。Kroah-Hartmanは、開発カーネルを使ってみて、開発ツリーで見つかったバグを報告するという方法を提案した。ただし、開発カーネルは必ず重要なデータが入っていないシステムで使用するようにと警告している。
さらに私は、Pythonの生みの親であるGuido van Rossumとも短時間ながら話をする機会に恵まれた。van Rossumは、2.x開発サイクルの残りの状況と、来たるPython 3.0の開発サイクルについて語ってくれた(Python 3.0は、Python 3000とも呼ばれている)。van Rossumは、Perl 6がPerlの単純な設計見直しでないのと同様に、Python 3.0はPythonの大規模なオーバーホールではないと繰り返し指摘した。
Pythonの生みの親、Guido van Rossum – クリックすると動画再生 |
もちろん私が最初にvan Rossumに尋ねたのは、Python 3.0にはどんな新機能や優れた特徴があるのかということだ。van Rossumは「ジャーナリストはいつも面白い新機能はないかと聞いてくるんだよね」と答え、Python 3.0にも「ほぼ間違いなく」新しい機能がいくつか追加されるだろうが、具体的な話をするにはまだ早すぎると語った。
そうは言っても、Python 2.xシリーズの開発が完全に停止するわけではない。van Rossumによれば、Python 2.5が「数週間のうちに」リリースされる予定であり、その開発はPython 3.0と並行して今後も続けられるそうだ。
木曜日に行われたUbuntuのBoF(Birds of a Feather)セッションの直前に、私はJeff Waughと席を並べて、今年10月に予定されているUbuntuの新しいリリース(コードネームはEdgy Eft)が一体どのようなものになるかを語り合った。
Jeff Waugh, business and community development, Canonical – クリックすると動画再生 |
Edgyは、名前から期待されるほど「とんがった(edgy)」ものにはならないかもしれない。Waughは次のように語った。「たくさんの開発者がインフラストラクチャ周りやクリーンアップの作業を行いたがっている。テストとデバッグに関係する作業がこれから山ほど発生するからだ」。そうは言っても、Edgyに新しい機能がまったくないというわけではない。Waughによれば、EdgyにはXenが組み込まれる予定だそうだ。しかし、次のリリースではテストサポートと言語サポートに重きが置かれているらしい。
Waughによれば、GNOMEでもクリーンアップリリースが予定されている。これはつまり、Ubuntuが現在対象としているGNOMEが最新のものではなくなるということだが、これによってパフォーマンスが大幅に改善される見込みなので、Edgy上のGNOMEのパフォーマンスが向上すると期待される。さらにWaughが語ったところでは、Evolutionが現在興味深い開発を進めている最中であり、次のリリースでは、ユーザがモノリシックなアプリケーションではなく独立したEvolutionコンポーネントを実行できるようになるそうだ。これは、高品質のカレンダーアプリケーションを使いたいが、メールにEvolutionを使うのはごめんだ、という人にとっては朗報である。
Waughはまた、Scott James RemnantがEdgyの新しいinitシステムに取り組んでいることについて言及した。Waughによれば、UbuntuチームはInitNGのように「initを並列化する」ことについては全体的に興味がなく、その代わりに、「不要な部分をクリーンアップして、initシステムの完成度を高める」ことを重視している。パフォーマンスそのものを焦点にしているわけではないが、Edgyのinitシステムは以前より高速化される見込みであるということだ。
OSCONのその他の参加者からも学ぶところが大いにあった。いわゆる「ホールウェイトラック」は非常に有意義な場所である。オープンソースソフトウェアに舞台裏で携わっている人々と直接話すチャンスがあり、この会話は、業界の表舞台のリーダーらと話すよりも場合によっては有益である。
たとえば、私はオレゴン州立大学のOpen Source Lab(OSL)の開発者であるGreg Lund-Chaixと話をすることができた。Lund-Chaixは、OSLは数多くのオープンソースプロジェクトのホスティングを行っており、Apacheなどのプロジェクトのために開発インフラストラクチャを提供していると説明してくれた。
OSLのGreg Lund-Chaix – クリックすると動画再生 |
さらに私は、オープンソースを仕事でどう使っているか、または今後どう使うつもりか、という点についてたくさんの人々と話をした。何人かの参加者は、自分が現在携わっているプロジェクトや、どういうきっかけでそのプロジェクトをオープンソースにすることになったかも話してくれた。
OSCONでは、究極のホールウェイトラックであるOSCAMP 2006も開催されていた。OSCAMPは、「草の根的な互助活動であり、イベント全体をさらに盛り上げるために、過去数年間のOSCONの周辺で発展してきた関連アクティビティを組織的に行うことを目指す」ものである。
私はOSCONの期間中、OSCAMPの部屋に何度か立ち寄った。初日の後は、OSCAMPは大いに賑わっていたようである。OSCAMPの主催者の1人であるBrandon Sandersによれば、OSCAMPのアイデアの一部には、「オープンソース活動に参加したいがプロフェッショナルなカンファレンスに参加する費用はない」という地元の人々に何か無料で提供したいという気持ちが込められている。O’ReillyはOSCAMPに最大限の協力をしてくれたとSandersは語っている。
OSCAMP 2006 主催者の1人、Brandon Sanders – クリックすると動画再生 |
Sandersも、セッションの合間の時間はカンファレンスで最も有意義な時間であることが多いと指摘した。相手と一対一で話し、「より深いつながりを持つ」ことができるからだ。OSCAMPは、ある特定のトピックに興味のあるユーザが集まって話し合う機会を提供することで、このような会話を積極的に奨励している。Sandersによれば、OSCAMPは「自分と同じものに興味を持っている」参加者を探しやすくするための試みである。
一番いいものは最後に
Nat Torkingtonは、金曜の午後に最終スピーカーであるMoglenを紹介するときに「一番いいものは最後に」と言ったが、それは大げさな表現ではなかった。OSCONでは素晴らしい講演や発表がいくつもあったが、Moglenの金曜のスピーチは今回のカンファレンスのハイライトだった。
私はこれまでに何度かMoglenのスピーチを聞く機会があったのだが、今回のものが間違いなく最高だった。Moglenは「Free Software and the Next American Century」というテーマで約30分のスピーチを行った。以前のOSCON報告でも述べたとおり、今週の大きな話題の1つは、ユーザのコンピュータ上ではなく「クラウド内(in the cloud)」で動作するWeb 2.0アプリケーションにおいても、オープンソースライセンスが重要な意味を持つかどうかということだった。
Moglenは、オープンソースライセンスは時代遅れであるという主張を見事に論破し、次のように述べた。「共有という考え方は成功を収めてきた。情報技術の未来は、ソースを共有している人々が開発するソフトウェアにかかっている」。
「共有というプロセスは、かつてのように一部の人々がそうしたいからするというものではなく、我々すべてが意義を認め、あらゆる人々にとって必要なものになっている」。
デスクトップはもはや重要ではなく、商業的にも最も重要なものではなくなっている、とMoglenは指摘する。「今や、世界各地できわめて重要な商業的対立が起きている」。
さらにMoglenは、メーカー各社は我々が作るフリーソフトウェアを必要としていると述べた。「現在世界中で起きているきわめて重要な商業的対立に勝つにはそれ以外に方法がない。なぜなら、これまでの悲しい経験が証明しているとおり、もしもデバイスメーカーがマシン別チャージを支払っていたら、最終的にはソフトウェアメーカーがデバイスメイカーを食いつぶすことになるからだ」。
Moglenは、米国の法律が、発展のための唯一の方法は共有しないことだと主張する人々によっていかに捻じ曲げられてきたかという点についても語った。合衆国憲法の起草者はもともと、情報の共有と技術的発展を奨励するために著作権と特許を取り入れたはずである。そのため、ライセンスは今でもやはり重要な問題であるとMoglenは述べている。Moglenの言葉を引用しておこう。
我々は今、成文化された法律に代わる重要なルールを実際に適用する時代に来ている。各種のライセンスは、共有の仕方についての我々の合意を明文化したものであり、ソフトウェア経済を変容させ、米国の創造性にとっての新時代をもたらすきかっけとなった考え方を記した唯一の文書である。
金曜日のMoglenの言葉に感銘を受けた参加者は私だけではない。Moglenのスピーチが終わると、OSCONの聴衆は彼にスタンディングオベーションを送った。
OSCONの主催者は、Moglenのスピーチの後に、ポートランドのさまざまな橋を観光するガイド付きツアーと、ポートランドにあるFree Geekの施設を見学するツアーを企画していたが、私は参加しなかった。その代わりに、Powell’s Bookstoreに行って、どれだけたくさんの本を買って鞄に詰められるかを試すことにした。しかし、残念ながらほんの数冊しか買えなかった。
今年のOSCONに参加できなかった人も、残念がることはない。また来年も、7月23日~27日に同じくオレゴン州ポートランドのOregon Convention Centerで開催される予定である。そこで皆さんにお会いできるのを楽しみにしている。
NewsForge.com 原文