米国務省、RFIDチップを組み込んだ新パスポートを発行開始

 米国国務省は計画どおり、RFIDチップを組み込んだパスポートの発行を今週から開始する。セキュリティ専門家の間からは、新パスポートはハッカーにアクセス、追跡されるおそれがあるとの指摘も出ている。

 新パスポートの発行はデンバーのパスポート局で開始され、今後数年の間に全米で実施されるようになる。2017年までに米国人のすべてのパスポートが、個人情報を記録したRFIDチップを組み込んだものになる見通しだ。

 国務省の担当者は過去1年にわたってこの電子パスポートのテストを行い、成功を収めてきたと、パスポート・サービス担当副書記官補フランク・モス氏は説明する。

 モス氏は、電子パスポートの導入によって偽造や改竄が減少し、セキュリティが向上すると強調した。具体的には、RFIDチップ上の個人情報がパスポートの印刷部分に記載された個人情報と完全に一致しているかどうかがチェックされるという。

 また、電子パスポートが盗まれた場合も、チップには固有の識別番号が割り当てられていることから、世界中の警察によって追跡されることになるという。

 モス氏は、RFIDチップ上の空きメモリ領域は、将来的に指紋画像などのバイオメトリック情報の格納に使用されるかもしれないと語った。だが、現時点ではこのメモリ領域の使い方は未定としている。

 一部のセキュリティ専門家は、この電子パスポートに採用された非接触型チップに対して懸念を表明している。新パスポートに組み込まれたチップは、スキャナから約10cmの位置にかざすと読み取られるようになっている。

 「技術が発展するペースは速い。パスポートは10年間有効であることから、いずれ長い距離を介してチップにアクセスできる技術が開発され、RFIDチップがハッキングされることは避けられないだろう」と、米国コンタクト・カウンターペイン・インターネット・セキュリティのCTO(最高技術責任者)、ブルース・シュナイア氏は指摘する。

 同氏は、「国務省は、スキャナに接触させなければデータを読み取れないRFIDチップを採用することもできたはずだ。非接触型チップのメリットは何もないと思う。現在のRFIDチップは適切なものではないのに、なぜ彼らがそれを熱心に推進しているのかがわからない」と述べている。

 一方、新パスポートの危険性について楽観視する専門家もいる。セキュリティ問題を専攻する米国カーネギーメロン大学のマイケル・シャモス教授は、「リスクのバランスを取ることが重要だ。電子パスポートは従来よりも偽造がはるかに困難であり、テロリストによるパスポート偽造を確実に減らせるはずだ」と語っている。

 モス氏によると、新パスポートに組み込まれるパッシブ64Kb RFIDデバイスは、米国インフィネオン・テクノロジーズ・ノース・アメリカとオランダのゲマルトから供給されるという。

 なお、新パスポートは国連の標準化機関であるICAO(国際民間航空機関)が定めた仕様を満たしている。ICAOは189加盟国に、機械による読み取りが可能な電子パスポートを2010年までに導入することを促している。

(マーク・ソンジニ/Computerworld オンライン米国版)

米国国務省
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提供:Computerworld.jp