Intel幹部が語る「サーバ・プラットフォーム戦略」最新動向と今後の展望

 Intelは、ここにきて、65nm(ナノメートル)プロセス技術によるマイクロプロセッサの量産製造や、Intel「Core」マイクロアーキテクチャへの移行、先進技術を搭載した次世代プラットフォームの普及促進などに注力するなど、過去1年間にAMDの激しい攻勢によって失ったサーバ市場のシェアを巻き返すべく、新たな事業を相次いで開始している。なかでも、Intelが強くアピールしているのが、「電力効率改善」と「仮想化」への取り組みだ。同社のサーバ・プラットフォーム戦略の最新動向と展望について、米Intelのデジタル・エンタープライズ事業本部副社長兼サーバ・プラットフォーム事業部長、カーク・スカウゲン氏に話を聞いた。

──御社は今年、サーバ/ワークステーション向けの新型プロセッサ「Dempsey」および「Woodcrest」(いずれも開発コード名)を相次いで発表した。両製品は性能面でどのような特徴の違いがあるのか。

スカウゲン氏:今年5月に投入した「Dempsey(Xeon 5000番台)」は、サーバ用プロセッサ「Xeon」初のデュアルコア・プロセッサであり、前世代のシングルコアXeonプロセッサと比較して最大3倍の消費電力当たり性能を実現しているのが特徴だ。中小規模企業を主な販売ターゲットとし、価格も低く抑えている。

 一方、今年6月に発表した「Woodcrest(Xeon 5100番台)」は、新開発の「Core」マイクロアーキテクチャを初めて採用したデュアルコア・プロセッサ。Coreマイクロアーキテクチャは、プロセッサの処理能力を向上させる効率的なパイプラインおよびメモリ・アーキテクチャ設計と、性能を低下させることなく消費電力を軽減する電力管理技術が統合されている。これによりWoodcrestでは、前世代のシングルコアXeonプロセッサと比べて約3.5倍の消費電力当たり性能を発揮することができる。Dempseyよりも高性能、高電力効率を求める顧客を主なターゲットとしている。

──両製品とも電力効率の改善を特徴としているが、具体的にどのようなケースでそういった性能が求められるのか。

スカウゲン氏:プロセッサの電力効率の改善は、主に大規模なデータセンターにおいて求められている。今日のデータセンターは、電力と熱の課題に直面しており、供給されうる電力量も、もはや限界に近づきつつある。また、サーバ当たりの消費電力増大による年間コストは数千ドルにも上り、それが毎年20%ずつ増加しているという近年の状況を鑑みると、プロセッサの消費電力削減は急務と言えるだろう。

 また、顧客の間では最近、セキュリティに次いで、ビジネスの分析能力(ビジネス・アナリティクス)を重視する傾向が強まっている。膨大な量のデータの中から適切なデータにタイムリーにアクセスし、それらを各種デバイスにすばやく移すためには、やはりプロセッサの性能向上が必要となる。

 これまでは、プロセッサの処理性能を高めるごとに消費電力も増えていったが、DempseyおよびWoodcrestでは、電力効率に優れた性能と、大量のデータ処理を可能にする強力な演算能力をバランス良く備えている点が最大の特徴となっている。

──DempseyとWoodcrestは、いずれも御社の仮想化技術である「インテル バーチャライゼーション・テクノロジー(Intel VT)」をサポートしている。御社ではサーバ仮想化をどのようなかたちで実現しようとしているのか。

 スカウゲン氏:仮想化に関しては、現在、主にコンピューティング分野やネットワーキング分野などで仮想化技術を採用する動きが活発化している。そうしたニーズにこたえるために、Intelでは、企業のサーバ資源をより効率的に使用し、より多くのサービスを堅牢かつセキュアに実現する技術としてIntel VTの実装を推進している。DempseyとWoodcrestは、ソフトウェア・ベースの仮想化をアシストするIntel VTと、I/O処理高速化技術「インテル I/Oアクセラレーション・テクノロジー」を採用しており、システム使用効率の改善、アプリケーション応答性の向上が図られている。われわれは“ハードウェアによるアシスト”で今後もパフォーマンス向上を実現していきたいと考えている。

 もっとも、仮想化は単純にプロセッサだけで実現するものではなく、仮想化にかかわるソフトウェア・ベンダー、ハードウェア・ベンダー、SIerなどが一丸となって推進すべき概念である。われわれは日本国内において今年4月から、Intel VTに基づいた仮想化ソリューションの普及促進を目的とする「インテル バーチャライゼーション・テクノロジー・アクセラレーション・プログラム」を発足し、賛同企業と共同で仮想化関連の技術検証を行っている。また、年内にはアプリケーションの検証を行うための施設「Intel VT検証ラボTokyo」を都内に開設する計画だ。このように、Intelは仮想化環境の実現に向けて、単に製品を提供するだけでなく、“業界のまとめ役”も務めており、非常にユニークなポジションについていると言える。

──ライバルのAMDもマルチコア化や消費電力低減、仮想化など、Intel同様のビジョンを掲げており、サーバ市場において勢力を拡大しつつある。競合他社との差別化戦略について伺いたい。

 スカウゲン氏:競合他社との関係は、ケース・バイ・ケースで異なってくる。例えば、Itaniumファミリーであれば、AMDだけではなく、IBMのPOWERやSunのSPARCなども競合となる。

 Intelは「信頼性の高さ」という点で競合他社とずいぶん違う立場にあると言える。ここで言う信頼性の高さとは、安心して選択できるプロダクトを提供し続けているということだ。事実、性能面においては長きにわたって業界をリードしてきたし、昨今は「消費電力当たり性能」という新しい概念を打ち立てて、性能の優位性を顧客に対してより明確に示すよう努めてきた。

 また、「安心できる技術」を提供している点も当社の大きな利点だと考えている。例えば、Dempseyから導入したサーバ用デュアルコア・プラットフォーム「Bensley」はかなり長期にわたってサポートしていく計画だ。もちろん、プロセッサのアップグレードは今後も行っていく予定なので、顧客とのリレーションシップを長期間保てる仕組みを提供していることも他社との大きな相違点だと言えるだろう。

 ほかにも、ソフトウェア・コミュニティと良好な関係を築いていることもわれわれの強みとなっている。われわれは単にチップを提供するだけでなく、エコシステムにかかわるコミュニティと連携しながら常にトータルなソリューションを提案することを目指している。

 いずれにせよ、われわれは「競争は善」だと考えている。当社の革新的な製品・技術は、ある意味、他社との競争によって生み出されたものとも言えるだろう。しかし、当社が目を向けているのは、あくまでエンドユーザーが抱える問題であり、今後もそうした課題の解決に向けて全力を尽くしていく方針だ。

──御社は4つのコアを搭載したクアッドコアの新型Xeonプロセッサを2007年に投入する計画を明らかにしているが、それは、今年発表したばかりのWoodcrestを置き換えられるものなのか。

 スカウゲン氏:デュアルおよびシングル・プロセッサのデモは今年2月から開始しており、予定どおりに行けば、2007年の第1四半期にはクアッドコア・プロセッサを出荷開始できるはずだ。また、それと同時にWoodcrestも市場シェア拡大を目指して積極的に拡販していく計画だ。クアッドコアが市場に出回るころには、Woodcrestはすでにボリューム・サーバ市場で大きなシェアを獲得しているだろう。したがって、Woodcrestがクアッドコアに置き換えられてしまうわけではない。

──御社は日本市場をどのように位置づけているか。今後戦略も含めて伺いたい。

 スカウゲン氏:前述したインテルVTアクセラレーション・プログラムは、世界に先がけて日本で先行して開始した。また、日本では多くの国内メーカーがItaniumを支持しており、メインフレームからItaniumへの移行も盛んに行われているという特色がある。最近では、Itanium搭載システムの売上げが、SunのSPARCやIBMのPOWER搭載システムよりも上回っているというデータも出てきている。

 今後は、東京のようにコンピュータの導入スペースが限られた場所で、超高密度の導入に適した40ワットのWoodcrestを導入し、ブレード構成を増やすといったケースが増えると予想している。また、そうした環境こそ仮想化のメリットを大いに享受できると言える。

 日本市場のもう1つの特色としては、ユニプロセッサ(シングルCPU)の市場規模がきわめて大きいことが挙げられる。今年第3四半期に投入する予定のデスクトップPC向けデュアルコア・プロセッサ「Conroe(開発コード名)」では、処理性能が40%向上し、消費電力も40%削減されるというデータが出ており、今後日本では、ユニプロセッサ搭載サーバにConroeが盛んに採用される可能性もある。

(大川 亮/Computerworld.jp)

インテル
http://www.intel.co.jp/

提供:Computerworld.jp