Jon "maddog" Hall氏の語る発展途上国におけるFOSSの役割

Jon “maddog” Hall氏が代表を務めているLinux Internationalは、フリーおよびオープンソースソフトウェア(FOSS)の発展を支援する全世界のエンドユーザの連携を目的とした非営利団体である。この5月にHall氏がLinuxWorld Johannesburgの席上で行った基調講演には、聴衆の一部を驚かせたであろう発言が含まれていた。そこでわれわれはHall氏にコンタクトし、今回の南アフリカ訪問の意図や発展途上国におけるFOSSの役割などについて質問をしてみた。

NewsForge:南アフリカあるいはアフリカ大陸全体におけるFOSSの浸透具合や受け入れ状態について、どのような印象を持たれておりますか?

Hall:最初は2001年にFOSSソフトウェアについての講演をするようヨハネスブルグに招待されたのが始まりで、依頼者はLinuxAfricaというローカルのユーザグループでしたが、小さいながらもいいイベントでした。その次は2003年のHewlett Packardによる招待で、ヨハネスブルグとケープタウンの2カ所でFOSSについての“地方講演”をするよう依頼されました。2005年にはヨハネスブルグで開催されたLinuxworld South Africaに招待されて、今回も同様の招待を受けた訳です。南アフリカにおけるFOSSの浸透具合については、着実に増加しているよう見受けられます。またこうした動向は最近、Mark Shuttleworth氏とUbuntuプロジェクトやMeraka Instituteのプロジェクトに刺激を受けて、一段と加速していますね。

OpenOffice.orgやその他のFOSS系ソフトウェアがアフリカ地域の言語に向けてローカライズ可能となりつつあるということは、これらのソフトがアフリカの皆さんにより受け入れやすくなっていることを意味し、大変喜ばしい事態だと思っています。

NF:南アフリカ滞在中にお会いされた開発者やユーザの方々は、どのような問題に関心を寄せていたでしょうか?

Hall:南アフリカで出版されるコンピュータ関連の書籍や雑誌は、もっと価格を引き下げる必要がある点を現地の方々に訴えることですね。南アフリカの書籍の価格は、アメリカ国内の2から3倍はしています。コンピュータサイエンスを学ぼうと思ったら、技術書や関連雑誌は不可欠ですから。

また、インターネットの接続料金などの通信コストも高すぎますね。通信コストが大きな“足かせ”にならない地域ほど、FOSSコミュニティの活動が活発だという傾向があります。

どちらの問題(書籍と通信費のコスト高)にせよ、有益な情報の流通の阻害になるものでしかありません。

NF:今回のコンファレンスで提案されたのは、アフリカ地域での優先課題はハードウェアの再利用体制の整備を進めることであり、それはNick Negroponte氏の構想する「One Laptop per Child」(OLPC)などのプログラムだけに固執するよりも有益に寄与するだろう、という意見でしたね。その点について、少し詳しく説明して頂けませんか?

Hall:OLPCは学習意欲を持つすべての子供にラップトップコンピュータを手渡そうという構想ですね。確かにラップトップコンピュータは素晴らしいデバイスですし、特に電力消費が少ないタイプや、安定した電源供給が期待できない環境でも確実に動作するタフさを備えているものが用意できればベストでしょう。バッテリを完全に充電させたら最低でも数時間は連続動作できる、という具合ですね。

OLPCのコストを引き下げる1つの方法は、大量生産を行うことです。Negroponte氏が、提供するラップトップとして何百万という数を挙げているのも、こうした理由からです。ただし実際の生産地がどこになるかを考えると、おそらく南アフリカではなく、台湾や中国ということになるでしょう。そうすると何百万ランドもの資金(あるいはドル、ディナール、円など)が、南アフリカから中国に流出することになります。

そこで視点を変えてみると、銀行を始めとして様々な企業では、半ば定期的にコンピュータのアップグレードが行われているはずです。Linuxを搭載すればまだまだ充分に使えるものも多いでしょうし、ゴミ捨て場に直行させるくらいなら、チャリティの一環として現地の人に寄付したらいいのではないでしょうか。これらのマシンを集めて分解し、使えるパーツを持ち寄って組み直した上でLinuxをインストールすれば、100ドルあるいは50ドル程度で提供できるでしょうし、働く場を与えることにもなるはずです。こうした組み立て作業のペースからすると、毎週4から5台(あるいはより多数)はこなせるでしょう。この場合、資金は南アフリカ国内を環流することにもなりますしね。

この種の作業が職業訓練学校で教えられるようになれば、システムの構築に必要なパーツやソフトウェアの選択法を教えるのと並行して、組み上げたユニットの販売で収入を得ることもできるでしょう。こうして得られるスキルは、また別のシステムでも応用可能なはずです。

実際、ラップトップを必要としている人間は、それほど多くないでしょう。本当に必要なのは、使えるコンピュータとインターネットの接続なのですから。私は、50ドルを支払わせてIntel 486マシンを購入するよう他人に勧める気にはなりませんが、500MHzのPentiumに4GBのディスクと128MBのRAMを搭載したマシンなら充分にLinuxを動かすことができますね。またこのシステムなら小型のサーバシステムに拡張することも可能ですし、コミュニティ内部でのデータ共有や、小規模なWebサイトの構築に使うことができるでしょう。

また今日の流行の1つにシンクライアントというのがありますが、これはディスクレスのマシンをインターネット接続した上で、すべての処理をリモートサーバで行うというソリューションです。メリットとしては、個別的なシステム管理をする必要がなく、ウィルスに悩まされなくて済むことなどが挙げられています。これは様々なケースで、1つのソリューションとなるでしょう。

私は別に軽量型のノートブックコンピュータを生徒達が使うのを反対しているわけではなく、むしろ、安定した電源の確保がまったくできないか、確保するには多大なコストがかかる地域では、学校や家庭でノートブックを使えるようにすべきだと思っています。実際に私も、大方の作業をノートブックでこなしている口です。

それと、必要な情報がユーザの理解できる言語で提供されない限り、どんなハードウェアも無用の長物になってしまいます。ユーザが必要とするプログラムと情報が使えなければ、システムを遊ばせておくだけですから(南アフリカの一部では、盗難防止用にコンピュータを室内に固定しているとか)。もっともこれも「鶏が先か卵か先か」という問題の1つなので、情報のやりとりをするだけの下地ができたら、現地の人々が自主的に必要な情報を発信するか取得するかしないといけませんね。

私は今、ブラジルのサンパウロにあるホテルの一室で、コンゴにおけるVodacom販売に関するBBCの番組を見ていたところです。コンゴなんかで携帯電話が売れる訳がないという下馬評に反して、いざフタを開けてみると、年間売り上げとしての予想数の8倍を最初の1カ月で達成してしまったのだとか。このVodaphoneのケースと同様の批判的意見がOLPCに対しても投げかけられていますが、Vodaphoneの場合は問題の大部分が解消されてしまいました。私の予想では、OLPCでも同じことが起こるのではないでしょうか。

私もOLPCプログラムを支持する1人ですが、ただ全体的なソリューションを考える場合は、その他の選択肢や何か別のコンセプトも検討に入れる必要があると思っています。

NF:必要な訓練とその実践法については、どのようにお考えでしょう?

Hall:一部の大学ではコンピュータサイエンスの学生の教材としてFOSSを使用しているところがありますが、その他の大学ではソースの公開されていないプロプライエタリ系ソフトウェアを未だに使用していますね。FOSSを検討しようともしない大学が存在しているというのは、理解に苦しむ点です。FOSSは、ソフトウェアを使って何ができるかだけでなく、これらが動作する仕組みを学ぶ上で最適な教材のはずです。その気になれば、ソフトウェア作成の実際を学ぶこともできるのですから。

これは別の国での経験ですが、いくつかの高校でFOSSのソフトウェアについて講義をしたことがあります。生徒達は、コンピュータ教室に必要な機材を廃棄されたハードウェアを基に組み上げ、独自のソフトウェアをインストールしていました。こうした経験は、知識としてのコンピュータサイエンスだけでなく、生徒達に自信を与えるというメリットもあるのです。

FOSSに携わる人間の大部分は必要な知識を独習していますが、そうした訓練を施すという企業も数を増やしつつあります。たとえば南アフリカだけでも、そうした企業は15社以上が存在しています。

NF:FOSSという話の流れで発展途上国全体に関するお話を伺いたいのですが。こうした点については、どのようなお考えをお持ちですか?

Hall:発展途上国は先進国よりもFOSSを受け入れているようであり、先進国でもアメリカ以外の国々の方が、いくつかの理由から受け入れ度合いは高いと感じています。

国家の安全保障において、必要に応じてソフトウェアの修正や改良を施すためのリソースを自国内に確保しておくことは不可欠です。そして多くのソフトウェアの開発や規制が行われているのはアメリカ国内であり、それゆえこれらはアメリカ政府の統制下にあると言えるでしょう。その点FOSSは、世界中に散らばった人間が、様々な視点で開発を進めています。こうした性質は、禁輸措置によって必要なソフトウェアへのアクセスを制限したり、特定の開発元をねらったテロ攻撃を加えることや、特定の国に属す1人の開発者がコード中にトロイの木馬やトラップドアなどを密かに埋め込むという行為を難しくしています。

その他にも貿易上の均衡という問題は、先進国よりも発展途上国にとって大きく響いてくるはずです。というのも、パッケージソフトウェアのロイヤリティの支払いで多額の資金が国外に流出すると、その分だけ国内のソフトウェア産業の雇用維持に回せる金額が減少するでしょうから。

発展途上国では、ソフトウェア企業に支払うライセンス料金を捻出できないことが、これらのソフトウェアの“海賊版”業者を生み出す土壌となっています。その点フリーソフトウェアはそもそもが自由に使用できるので、海賊版を作る意味がありません。

ソフトウェアのサポートする言語については問題が別ですね。確かに英語は国際語ですが、普及していない国も多く存在しています。ソフトウェアをローカライズ可能にしておくことで、必要とするユーザによる使いやすい形への変更を施しやすくなるはずです。

最後になりますが、Linux以外のコンピュータシステムを見たことがない、という人のいる地域は世界中に多く存在しています。そうした人々は、高価なソフトウェアやハードウェアを用いたコンピュータを購入できないのです。使い古しのハードウェアを再生してLinuxを搭載した上で提供する体制を整備すれば、そうした人々が最初に扱うコンピュータとして役立ててもらえるのではないでしょうか。

NewsForge.com 原文